#009 外国人から見て②

「それでジュン! なにを作るのですか!? やっぱり妹トラ本ですか??」

「いや、それは……」


 休み時間になるやいなや、目を輝かせて僕の机をバンバンする師匠。カワイイ。


「その、何ができるって事もないのですが…………がんばります!!」

「あぁ、うん。あと、一応、学校の出し物だからオリジナルでいくつもり」


 とりあえずの目標は、部活の成果発表として予定している『8ページくらいのカラー漫画』だ。基本的にイラスト主体で、セリフや動きは少な目。1年の時のイラスト単体だったので、それを進化させたものとなる。


「ラブコメですか? ヒーローモノですか? それともファンタジー??」

「あぁ、いや、まだそこまでは」


 期限は半年先であり、くわえてそこまでの大作は求められていない。あくまで中学生の個人作品であり、第二美術部の平均レベルもあるので、それこそ1か月くらいで出来るもので基本的にはOKなのだ。


「そもそも、100%パソコンの作業だから…………そうだ! プロットとかどう?」

「アイディアだし、ですか」

「そうそう。それならパソコンが無くてもできるよ?」

「でもそれ、最初に出したら終わりのヤツじゃ……」

「あっ、そうかも」


 学校が求めているのは『頑張った記録』であり、(幽霊部員も含めて)履歴書に書ける実績があればいいのだ。メインは半年後の文化祭であり、そこで教師に認められるものが出せなかった場合や、ぎゃくに学校のピーアールに使えそうなものは年明け後の学校パンフレット制作や卒業式・入学式などの展示物選考会にあげられる。(実際に採用されるかは別問題)


「ん~、ここはやはり! ジュンの家に行って、いっしょに……」

「ちょっと待った! さっきから聞いていれば」


 そこに止めに入ったのは委員長。校内での部活動ならともかく、『異性の家で』となればそれは心配するのも当然。


「ぼ、僕も家でってのは、ちょっと困るかな」

「え~、ジュンのパソコンのDドライブ、漁りたかったのに……」

「だからそれ、拷問だから!!」


 師匠はパソコンに明るくないらしいけど、Dドライブなんて言葉が出てくる時点で信用ならない。


「よく分からないけど、やっぱりイカガワしいもの、あるのね? サイテー」

「いや、それは……」


 委員長に冷たい視線を向けられる。とある業界では、これもご褒美となるらしいけど…………残念ながら僕は、まだその高みにたどり着いていない。


「そういえばミサオは、エッチなイラストは集めていないのですか?」

「いや、無いから」

「男性同士の……」

「ななな、ないから! そう言うのは、べべべ、べつに……」


 委員長の顔が真っ赤に染まる。どこまでヤバいブツを持っているかは分からないけど、この様子なら多少の知識はあるようだ。


「そういえば、お姉さんが居るんでしたね。供給は、そこから……」

「わぁ!! しゃらっぷ! それはナイショで!!」

「「…………」」


 クラス中に『姉のヤオイ本を借りている』事が知られてしまった委員長。もちろん、ヤオイが何なのか知らない人もいるだろうが…………あとで師匠が解説して、トドメをさしてしまうだろう。


「その、人の趣味を掘り下げるのはやめた方が良いよ。その、ほら! 日本人って、シャイだから」

「ん~、このくらいもダメですか? 同性愛とか、ポルノくらいで……」


 そういえば、海外ではまだポルノ雑誌が駅の売店でも普通に並んでいるんだっけ? おまけに向こうは無修正で、性にかんしてオープンなので…………言われてみれば師匠の反応も頷ける。


 つまり日本が過剰に"性"をハレモノ扱いしているって話なのだが、それでもここは日本。郷に入っては郷に従ってもらわなければ困ってしまう。


「ポルノくらいって……。海外って、そんなにただれているの?」

「地域しだいですけど…………ドラックが普通に出回っている地域は、本当に危険ですね。どこの学校でも年1回ペースで、銃の乱射事件や、レイ……」

「「…………」」


 クラスが静まりかえる。僕もネットである程度聞いてはいたけど、あらためて恵まれた国に生まれた事に感謝してしまう。




 そんなこんなで結局、教室での話は毎回、有耶無耶になってすすまなかった。

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