Blood Temptation

維 黎

三日後の誘惑

 とある日曜日の午後。

 青々とした空に浮かぶ太陽からの日差しは容赦が無く、否が応でも夏本番であることを痛感させられる。

 町の中心にある大きな駅のロータリー。

 数分後に来るバスを待ちながらもキョロキョロと見渡してしまう。


「――ねぇ、もしかしてもう探してるの? ?」


 隣に立つ彼女が呆れたような、諦めたような表情で尋ねてくる。

 身長差がある為、彼女からしてみれば見上げる恰好になるのだが、それが存外可愛らしく映ったりもするので、この角度から見る彼女の表情は、どのような感情を向けられたとしても好きだった。

 そして彼女が言うように。

 時間にして三日。たったの三日である。

 それを断ったところで死する訳ではない。同じ血を求める鬼とはいえ、血の渇きを覚える吸血鬼とは違うのだから。

 己が人とは違う人種であることに気付いたのは大学二年の頃。当時付き合っていた女性を起因とする。彼女がいなければ、彼女が勧めなければ気付かなかった血への自我。

 最初の頃は特に何を思うこともなかった。

 赤いというよりは、紅い血を見ても恐怖も嫌悪も興奮もなかった。なかったはずだった。


 大学時代の彼女と別れ、社会人となり新しい恋人が出来た時、ふと思い立った。前の彼女としたことを。

 そして数年ぶりにおこなった結果、はっきり血への渇望を自覚した。

 横たえた身から流れ出る紅き血に恍惚となる。快楽を得る。

 いつしか日々その快楽を求めるようになってしまった。 

 その様子に彼女は耐えられなくなり離れて行った。何度も、何度も血を抜かれるのはもう嫌だと。


 その後は誰かと一緒はやめた。

 自分も何度もこの誘惑から逃れようとしたが、今だ成功には至らない。

 それでも今の彼女はそんな自分を受け入れてくれた。


「まだまだ。だから探しても無駄。ちゃんとデートに集中してね?」

「――わかってるよ」


 了承の言葉に不満の感情いろが滲むのは隠せなかった。

 彼女の言う通り、前回の血の狂乱から三日しかたっていないのだ。たった三日後の誘惑に負けていては先が思いやられる。まぁ、負けたところでどうすることも出来ないのだが。何せ次は12週間後なのだから。先は長い。

 ふと、彼女の顔に向けていた目線が喉や胸元、二の腕などに向けられる。

 ゴクリ、と咽が鳴るのを自覚する。

 まだまだ日に焼けず、透き通るような白い肌に微かに浮かぶ青い血管。

 横たわった彼女から流れ出る血液を想像しただけでもたまらない気持ちになる。


「もう! 探してもバスは来ないわよ?」


 知らず、またキョロキョロと探していたらしい。


「い、いや、別に俺は違うよ。そんなんじゃないさ」


 よくわからない言い訳をする。そう言い訳だ。実際は探していた。血のように紅い十字架を付けたバスを。


「あッ! やっとバスが来た」

「!?」


 彼女の声に弾けるように顔をあげる。

 しかし当然ながら停留所に滑り込んできたのは市営バスだった。


「あからさまにがっかりした表情かおしないでよ、まったく。ほら、乗ろう? 次は私も付き合ってあげるから」

「本当に!? 本当に一緒に!?」

「言い方。――うん、一緒にするから」

「約束だからなッ!!」

「――嬉しそうな顔しちゃって。どんだけ好きなのよ。このめ」




――了――












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Blood Temptation 維 黎 @yuirei

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