Ep.21"道端の雑草を煮詰めた"

 件の話から一夜明け、ログインすると運営からのお知らせが届いていた。

 内容は第3回イベントについて。イベント名は"ドキドキサバイバル!!"。期間は今週末の土日の2日間。プレイヤーは無人島で7日間生活をするらしい。2日間で7日過ごせるのはキャラクリの時にあった時間加速のおかげだ。どうやら大規模な時間加速の試運転でもあるようだ。

 このイベントでは空腹値が実装されるようなので食料は重要そうだ。

 持ち込めるアイテムは装備しているものを除き3つのみ。消費アイテムは10個までストック可能。例外として俺の持っている道具セットのような○○セットは枠を2つ使うとのこと。

 このゲームではNPCアイテムの方が性能がいい為、生産職はあまり人気がない。その為今回のイベントで儲けようと思ってる俺にとって重要な情報だ。と思ったがどうやらこのイベントではお金が使えないらしい。それでも持っていくつもりだ。対価として高価な素材を吹っ掛けてやる。

 さて残りひと枠をどう使うか。それが問題である。ポーション類は多分作れるだろ。やったことないけど。装備は作れるし手入れもできる。小物も作れる。テントとかのキャンプ用品も作れそう。食料は……ゲームだし変なウイルス持ってたりとかしないだろ。水も煮沸すれば大丈夫だろう。ん? 煮沸? どうやって火を起こすんだこれ。まぁ火打石はギルドに売ってるし後で見てみるか。考えれば考えるだけ必要なものがないな。何気に俺、有能すぎんか? というかスキルとかあったら現実よりサバイバルやりやすいのは当然だし。なんでも作れるじゃん。


 一通り考えをまとめると生産ギルドへと向かう。今日はイベントに向けて調合を練習していこうと思っている。道すがら薬草をまとめて買い、ギルドで調合セットを買う。


 いつもとは違う調合用の作業場に着くと準備を始める。セットの内容はすり鉢、乳棒、小型の鍋と混ぜるための棒、茶こしという最低限のものしか無かった。生産スキルのレベルも上がったので今の俺にだったら作れそうだ。

 気を取り直して始めよう。まず作るのは基本中の基本である傷薬だ。どっかの中田だか山崎だかのように草を頬張ってもいいのだが、せっかく作れるんだから文明的な生活をしていこうじゃないか。

 まず市販の薬草100株を磨り潰す。このときなるべく繊維を断ち切り個体が残らないようにするのがポイントだ。磨り潰したら沸騰しているお湯の入った鍋に投入。棒でかき混ぜる。するとどんどん緑色の液体になっていく。まるで青〇のようだ。もうよさげだがレシピによるとまだ混ぜるらしい。しばらくすると棒が重くなる。少し粘性が出てきたようだ。これで完成。あとは冷まして瓶に詰めるだけ。出来上がったのがこちら。


 ――――――――――――

 名称:傷薬

 希少値:PM

 品質:F

 製作者:小魚K

 効果:【HP回復(3)】

 消費期限:3日


 一般的な傷薬。一本丸ごと飲むことで効果が得られる。とても苦く、草の味がする。粘性があるため飲みにくい。服用してからしばらくしないと効果が出ない。

 ――――――――――――


 草の味がする薬10本分ができた。飲みたくねー。けど一回試してみるかー。男は度胸!


 グビ。


 おうぇえええええええぇ……げほっげほっ。

 まっず。なにこれ。まじで道端の雑草煮詰めたような味じゃん。しかものどに絡みついてくる。あー吐きそう。決めた。イベントまでに美味しい回復薬を作ってやる。こんなもの飲んでられん。自分のためにも作ってやる。


 まずはこの味を緩和するところからだな。美味しくするのはその後だ。

 ここまで草の味がする原因を探っていこう。100株いっぺんに突っ込んだのが悪かったのか? それとも沸騰させたのが悪かったのか?

 とりあえず全部試してみよう。




 ――三時間後。何の成果も得られませんでしたァ! なんでだ! 100株がだめだと思って10株、何なら一株毎に潰していったのに。沸騰がだめだと思ってぬるま湯にもした。水出しもやってみた。潰す代わりに刻んだ。潰した汁だけを煮詰めてみた。その他諸々エトセトラ……。

 何やっても駄目だった。なんでだよぉ。おまけに味覚異常の状態異常もついたりしたし。あーもう! やめだやめだ。今日はもう無理。


 片付けをして部屋を出る。受付ロビーに出るとアイミーさんに呼び止められた。


「どうしたんです?」

「あなたが言う? ひどい顔よ」


 どうやら目も当てられないほどげっそりとやつれた顔になっているらしい。

 かくかくしかじかと事情を説明すると一言。


「それ、茎をとってないからじゃない?」


 kuki。くき。……茎。

 茎ぇあああああああああああっぁぁぁぁぁぁぁっぁぁぁぁぁああああああああ!!!!

 おまっ。それっ。ああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああ……。


 頭を抱えてうずくまる。好奇の目線にさらされるがどうでもいい。茎を取り除くという簡単なことに気が付かない俺には失望を覚える。俺の三時間……。

 ……逆に考えるのだ小魚Kよ。たった三時間で済んだと思うのだ。よし、切り替え完了。


「アイミーさん。ありがとう。これで俺は前へ進める」

「どういたしまして。そんなことより本題話していい?」


 本題? 何かあっただろうか。


「クエストの報酬よ」

「なにかクエスト受けてましたっけ?」


 問うと小さくため息をつかれる。


「砥石の使い方よ」

「砥石。あ、確かにもともとそれが目的だったわ」

「忘れてたのね」

「それはもうきれいさっぱりと。いろいろあったので」


 マジでいろいろあったからな。未だによくわからんクリエスタ王国所属職人くん。

 砥石よりはるかに重要度上だわ。


「まあいいわ。今から教えるからこっちに来なさい」

「え、寝たいんすけど」

「私、雇用主。あなた、被雇用者」

「あ、はい」


 つまり、王族のご命令ですね。こんなつまらんことに使うなよ。王妹殿下。

 アイミーさんについていき、いつもの鍛冶場に到着。台の上に砥石らしきものを複数置き、水を用意する。


「それじゃあ説明するわよ。とりあえず用意するのはこれらよ」


 用意されていたのは数種類の砥石だ。違いは粒度、つまり目の粗さだ。基本的に荒砥石、中砥石、仕上げ砥石の三つになっている。荒砥石は刃こぼれしたときに使われるため、普段は中砥石と仕上げ砥石を使うそうだ。

 使い方は砥石を水につける。一定時間つけた後は台に固定し、研ぎたい刃を自分のほうに向け、中砥石を使い研いでいく。最後に仕上げ砥石で研ぎ直す。

 これが何の効果もない普通の武器のアーツを使わない方法らしい。メリットは砥石と自身の身一つあればできること。デメリットは時間がかかる、砥石を消費する、何度もこの方法で研ぐと耐久値の最大値が下がる、壊れやすくなるなどのこと。デメリット大きすぎる。

 ではアーツを使ったやり方はどういうものかというと、砥石を触媒として武器とその元となった素材をスキルを用いて融合させるのだ。メリットは一瞬で終わる、耐久値の最大値はそのまま。デメリットは素材が必要、砥石を消費する。以上。うん、アーツを使わない理由がない。

 アーツは普通に研いでいたらそのうち生えてくるらしい。


「よくわかった。ありがとう」

「まあ、これが報酬だったからね」


 とりあえず、アーツが生えてくるまで練習だな。幸い練習台はたくさんあるし。


「そうだ、アーツが生えてくるまで練習に付き合ってあげるわ」

「え”」


 寝たいんだけど。


「ほら、ぐずぐずしてないで準備なさい。世界最高峰の腕を持つ職人と言われるクリエスタ王族が直々に見てあげるのよ」

「アイミーさんのことじゃないでしょ」

「なんか言った?」


 何でもないです。



≪アーツ【武具の癒し手】を獲得しました≫

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る