Lost Child Online〜時代を先取る迷子の英雄〜

大河太郎

第一章"Prolog"

Ep.1"妹様に殺される"

 そろそろ梅雨に入りかける5月終わりの休日。自室にてルンルン気分で過ごす俺に妹が声をかける。


「なぁ、兄貴」

「なんだ? 妹よ」


 雑誌に目を落としたまま答える。

 妹もスマホから目を離していない。


「ゲーム一緒にやらね?」


 ふむ。

 椅子を半回転させ妹の方を向く。妹もスマホから目を上げてこちらを向いた。


「お前が誘ってくるとは珍しいな。毒でも食ったか?」

「そんなもん食っとらん」

「なら何故だ? ゲームは何時も友人とやってただろ」


 妹には同い年のゲーマー友達が居たはずだ。色んなゲームを一緒にやっていた。そちらを誘えばいいだろうに。


「私が今ハマっているゲーム。一ヶ月前に正式サービス始まった。ベータテストもやってたんだが、友人もやってたからベータテスト特典の優先引換権使う相手がいない。あと引き換え期限が明日まで。勿体ない」

「なるほど、お零れか」

「そゆこと。ま、たまには兄貴とも遊ぼうかと思って」


 ……嬉しいこと言ってくれるじゃないか。普段もそのくらい可愛げがあればいいのに。


「兄貴、心の声漏れてるから」


 おっと気をつけなければ。妹様に殺される。心のお口のチャックを閉める。


「それで、やるの? やれよ?」

「拒否権なしか。拒否しねぇけど。で、なんのゲームだ?」

「“Lost Child Online”ってヤツ。知ってるでしょ?」


 Lost Child Onlineか。……知らないゲームだ。マイナーなやつなのかね?


「知らないな。マイナーなゲームか?」


 思ったことをそのままつぶやく。

 その言葉に驚いたのか、ポカンと口を開けてほうけている。再起動するまで待っていると徐々に目からハイライトが消えていき、ため息とともに口を開いた。


「CMでしょっちゅう流れてるよね?」


 CMかぁ。あー確かにやってたな、そんな名前のやつ。ゲームっぽくないからアニメのCMかと思ってたわ。


 妹様大先生によると“Lost Child Online”とは一ヶ月前に発売されたVRMMORPGだという。従来のゲームとは一線を画す操作性やグラフィック、全てのNPCに自立型AP――人工人格――が搭載されているということから時代を先取りしすぎたゲームとして話題沸騰中なんだとか。


 ベータ版と正式版で修正されたところも無いらしい。じゃあなんのためのベータテストなんだとも思うが運営にも色々あるんだろう。 ゲームのストーリー、システムその他諸々を聞いてみたが教えてくれなかった。自分で探っていく派だろ? と言われた。……分かってんじゃねえか。


 他もやってみて自分で感じろだとよ。あとはログイン後の話をした。

 ログイン後は街で1番背の高い時計台で集合。その後妹のパーティーメンバーとの顔合わせをしたいらしい。一緒にやる時にスムーズにことが運ぶようにだとさ。


 一秒でも遅れたら殺すと言われた。サービス開始から一ヶ月ならギリギリ逃げ切ることくらいはできそうだが。


 妹の話を聞いているとベータ特典の話になった。

 ……え、ベータ組ってベータ時のステータスの10分の1スタートで元に戻るまでは経験値ブーストかかるのか。


 妹、ベータ時のお前は?

  Lv31?

 因みに最高レベルも31だと言われた。最高レベル様じゃねーかよおい。


 ところがどっこい。ベータ組は全員がLv45なってるらしい。足揃いすぎだろ。いい子ちゃんかよ。と思うのだかそうならざるを得なかったという。理由はログインしてみたらわかると言われた。


 因みに今の妹はLv27らしい。現在攻略組と言われる人達のレベルとぼぼ一緒だそうだ。

 すぐ追いついたるから首洗って待っとけよ。


 以上が妹様大先生からのご講義でした。


 さて、まぁ、ゲーム機が来たらキャラクリはするとして、もう夜遅いし寝よう。


 あ、妹よ、注文とか設定とかお願いな。そういうの俺出来ねぇから。あと下着姿そのままだと風邪ひくからパジャマ着て寝ろよな。

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