番外編 遠くからでも見守っている


すべて....すべて...僕が、起こした物語だった。


思えば自分の言葉ばかり考えていたように思う。自分だけ...自分だけの世界...


時が、戻った。僕が、死んでしまった...あの時へと...


様々な物語が、僕を変えていっていた。


みんな...触れてみると、色々な姿が見れた。

僕は、人間の身体で、そっと僕の妹を見つめる。


「う、生まれたわよ」


「本当か?」


絶対に死ぬ運命にある妹...僕が転生しなくてもきっとあの子は、死んでしまうだろう。


神様....どうか。どうか...僕の妹だけでも、救ってくれませんか?


僕の魂を差し出してもいい。

誰か....誰か.....


白い光が、僕を地上へと返そうとする。


嫌だ....嫌だ.....

必死に、あの世にしがみつく。絶対に、落ちたくない。絶対に....死なせたくない。


なんで、なんで...僕を、転生させようとするんだ。スライムへと...

全ての記憶が、今の僕には見える。

それなのに、転生させようとしてくる神様


こんなの...酷すぎます。


『あなたは、神様になるのですよ』


結局...なにもなせないじゃないかっ!!


『魔物に、なることに意味があるの』


僕が、僕がもっと強かったらあの子を助けることができたかもしれない。


だから、もう...切ない思いをするのはゴメンなんだ。


ふと、誰かの足が見える。

小さな子供の足で、僕を眺めている。



「神様.....」


『あなたが、言ったことじゃないですか。妹の顔が見たいって...それに、どうせあの子は、助からないんですよ』


.....


『あなたの命?そんなの欲しくもありません....ただ、ただ私はあなたの願いを叶えたかっただけ....』


「ごめんなさい....」



僕は、いつの間にか謝っていた。はぁ...と、ため息をつく。



「でも、僕は兄だ。妹を助けたいって思ったって...いいだろう」


『それが、あなたの存在が消えることことだとしても?』


「あぁ....そうだ。」



僕は、静かに少女を見る。あの子にだけは、生きていてほしいんだ。


だから...だからっ!!



『わかりました。スライムさん。私は、あの子にあなたを奪います。その代わりあの子に力を与えてあげなさい。』


「僕の力?」


『そうです。あの子には、使い魔を使役する才がある。さらに、あなたが神の力を使うことを許します。ただし、あなたの自由を私は、永遠に奪います。」


「........わかり....ました」



そっと...可愛らしい水色の髪をサラサラと撫でる少女。


そして、手を離した時には、僕の身体におどろおどろしい模様が組み込まれていた。



『さぁ...行きますよ。』


「はい....」



そっと、僕は地上へと顔を向ける。僕が恋した世界で一番可愛い妹....


どうか、幸せに生きてくださいね。






.......





風が吹き抜ける。麦わら帽子が空へと飛びそうになったのを手抑える。

紫色の綺麗な瞳が、太陽が照らし出す空へと向かれる。



「お兄ちゃん?」



誰かが...私のことを見ているような気がしたけど...


咄嗟に、声が盛れたのは変なことではないはず、



私は、毎年開かれる誕生日パーティーの準備をしていた。



主役は、いない。



「お父さんっ!!ちゃんとパーティー用の鹿のお肉は持ってきたの?」


「す、すまんすまん...中々見つけられなくてな。あの子のようには、いかないんだ」


「......分かってるわよ」



奥で、お父さんとお母さんの声がする。この時期に、パーティーをやるのは...死んだお兄ちゃんの忘れないためのものらしいわ。


私は、知らないけど...お兄ちゃんは、弓の名手だったんだって...凄い使い手で、色んな動物たちを狩ってきてお父さんとお母さんを喜ばせてたらしいわ。


でも、その....どこかで、死んじゃったんだって...


私には、実感が分からないけど...なぜか、お兄ちゃんはずっと傍にいる気がするの


私も、お兄ちゃんみたいにお母さんとお父さんを喜ばせたい。


だから...森へと行くことにしたわ。大丈夫...お花畑までだったら、強い魔物はいないって聞くから...




「わぁあ!!綺麗な金のお皿ね」


私は、森の中のすぐ近くで光るものを見つけた。それを、手に取ってみたらなんと、金色に輝くお皿だった。


ベルトポーチの中に入れると、腰から落ちてしまいそうになるので...両手に抱えて歩く。


「お花も詰んで...お皿も、持って帰ったら、きっとお父さんとお母さんは喜んでくれるわね」


〜〜〜〜〜♪♪♪♪


鼻歌を歌う。


「少しだけ...疲れちゃった」


キョロキョロと周りを見回し、腰を落ち着ける場所を探す。花畑の真ん中に大きな木が一本生えていた。紫色のドクドクしいキノコが生えてたりするけど..


「あそこで、休憩しましょう」





そっと、腰を下ろす。抱えていたベルトポーチも脇に置いて、そっと空を花畑を眺める。


「綺麗な、景色ねぇ....」





─────上を見てっ!!──────






誰に声をかけられた。赤い竜が、青い空を優雅に飛んでいる。


私は、嫌ななにかを感じた。


案の定、竜は私の街へと身体を向けて、息を吸い込む。


ドラゴンブレス....!?


「嫌っ...」


私は、両手を振り上げる。大きな声をあげて、竜の気をそらそうとするが見向きもされない。


ヤダ...ヤダヤダヤダ...私、お父さんやお母さんを失いたくない。知り合いのおばちゃんも、近所の猫も...みんな私が、大事な...大事な...


私は、既に諦めていたのかもしれない。だって...ドラゴンのブレス、街を滅ぼす一撃を放つことができるあのブレスなのだから...





そっと...赤い竜へと手を伸ばす。



やめてください。お願いです。



青い空を呆然と眺める。



瞬きと同時に、一人の男の子が隣に立っていた。私は、動けない。なにもすることができないのに、考えることはできるみたい。


「いいかい?よく聞くんだよ?僕が、合図をしたら一つの魔法を放って?」


どこか...親しみを覚えるその人は、私の手をそっと握る。


温かい。




誰なのか分からないけど...あなたになら、任せていいような気がする。






『わたしぼくの声よ、空を飛ぶ偉大なる火竜へと届け〜コントラクト〜』





コントラクト、契約の魔法。

そして、神が手を貸した契約魔法はこの世にいる全ての魔物を縛り付ける呪縛へと変わる。


ドラゴンブレスを放とうとした火竜は、すぐにその神域の魔力に気づき逃げようとするが、竜へと不滅の契約が結ばれる。



「なん...という...ことだ...」



竜は、地へと降りる。



「レッドドラゴンさん。私の街を破壊しようとするのはやめてっ!!」


「だが....少年との...」


「私との誓いよ。私が、あなたの主わかった?」



強い口調で、喋る女の子の顔を見る。ドラゴンは、目を大きく見開く。


まるで、あの少年を見ているようだった...



「お主は....いや、そういことになってしまったのだな...ならば、受け入れるしかあるまい...」



そっと、竜は頭こうべを垂れる。

少女は、そっと彼を撫でる。自分の家族を守るために...


ふと、背後に私を見つめる視線を感じたような気がした。



「お兄ちゃん...ありがとう」




空は、ずっとずっと蒼あおく広がっている。


私たちには見えないけど、どんなに遠くにいても、私たちは心が繋がっているから...




END6 スライムくんが妹を救う物語

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