第一章-3
しかし、それよりもユリの行動の方が早かった。
「鷹め! そんな程度じゃ、この盾は貫けないよ!」
ユリはそう言うと女と鷹の間に割り込んで軍刀を地面に刺した。
コンマ数秒の間にユリの正面に硬化した木の盾が出現し鷹の嘴攻撃を防ぐ。
だが、鋭い嘴攻撃はユリの盾を貫き、ユリの顔前まで嘴が迫ったところで止まった。
「下がってて!」
ユリは後ろを振り返ることなく女にそう命令すると盾の横へ滑り込み、嘴を抜こうとしている鷹の首めがけて軍刀を振り下ろす。
しかし、鷹の必死の抵抗により間一髪、嘴は縦から抜け、振り下ろしたユリの軍刀は鷹の嘴に当たって滑る。
「ちぃっ!」
ユリは飛び上がる鷹を見つつLBMT(左腕のデバイス)から始動語ファイルをインストールする。
「インストール! 反発の木(treeOfRebound)!」
ユリの設置型のギミックが地面に形成される。
ちょうど正方形の形をした平らな木の板の効果は単純、強く踏み込むことで上へ大きく飛び上がる。
「ベル!」
「あいよぉ!」
ベルはユリの生成した反発の木に大きく飛び上がってから飛び込んだ。
反発の木はベルの体を受け止めきると真上へ発射した。
「おらぁ!」
鷹よりも高く飛び上がったベルを鷹は驚きの表情で追いかけようと、顔を上げた。
「私から視線を外しちゃだめだよ!
インストール! 拘束の蔦(bindingIvy)!」
ユリの軍刀が緑に輝き、ユリの周囲から蔦が一気に鷹を襲った。
蔦は鷹の足をグイっと地面へ引っ張った。
鷹が自分の動きを制限されたことに気が付いた時にはすでに手を暮れ。
「一回死んでねぇ!」
ベルが上空で抜き放った斧を大上段に構え、鷹の首を両断した。
「ビィィィィィ!」
鷹の亜獣は断末魔を上げつつ、地面へ落下し意識を喪失した。
首を切断すれば、たとえ不死であっても数か月は復活しない。
ふぅと短く息を吐いたユリは森の方へ声をかける。
「もう出てきていいよ」
ユリの言葉を合図に、女とマツバが出てくる。
女とマツバは同時に出てきたことを不思議そうに見合っていたものの、ペコっと会釈し合う。
女は武器を仕舞うと手汗を拭いつつ、ユリに手を差し出した。
「ありがとう、助かったわ」
「いえいえ、間に合ってよかった」
ユリはにっこり笑いつつ女の手を取った。
ちょうどユリの背後でマツバが複雑な表情を浮かべて言う。
「俺、ユリ姐さんには逆らわないようにしようと思うっす」
「どうしてぇ?」
「どれだけ俺に正義があろうと、俺の方が悪い事になりそうっす」
ベルはふふふと笑う。
「ユリちゃんは畜生だけど鬼じゃないよぉ。話せばわかるよぉ」
ユリは笑顔のまま振り返って二人を睨みつけた。
「二人とも?」
ベルとマツバは口をつぐんで同時に首を振った。
その様子を女は不思議そうに見ていたが、コホンと一度咳払いをして雰囲気を正すと言う。
「私はラン。この逆さ街で亜獣狩りをしているの。
ちょうど危ないところを助けてくれて本当にありがとう」
「私はユリ。こっちのスタイルのいい女がベル、こっちで鼻をほじっているのがマツバ。
みんな一応亜獣狩りだよ」
「ユリ姐さん。鼻をほじっていたことを謝るので、紹介をやり直してくださいっす」
マツバがシャキッと姿勢よく立った後の嘆願を、ユリは完全に無視しランに近づく。
「ランはあの逆さ街の亜獣狩りなんだよね? ちょっとお願いがある」
「ええ、そうよ。助けてもらったし、私にできることなら構わないわ」
「あの街に入る方法を教えてほしいんだけど……」
ユリの上目遣い。ベルはうわぁという視線で見ている。
「あー、そのことなんだけど……、実は私も帰れないのよね……」
「は?」
ユリが固まった。
ベルはおなかを抱えて笑いつつ、マツバも顔を背けくっくっくと笑う。
ゲスユリの目論見は完全に外れていた。
とりあえずご飯でも食べようと言うことで、ランは自分の権能を使って、焚火を起こした。
便利な権能だねぇと言うベルに対して、ランはこの程度しかできないのと謙遜する。
ユリたちは鷹の一部を頂戴し焚火で焼き鳥を作ることにした。
「で、帰れないってどういうこと?」
ユリが若干切れ気味でいうとランは恐縮しつつ言う。
「実は、私、ちょっと訳ありで……、いつも逆さ街に帰るための権能持ちと一緒に数人のチームを組んで降りてくるんだけど、置いて行かれちゃったのよ」
「そりゃひどいっすね」
「そりゃあ、ひどいねぇ」
すでに焼き鳥を頬張って他人事のように聞いている二人をギラリと睨みつけつつユリは言う。
「なるほど、それじゃ、ランは街に入る方法を持っていない?」
「ええ、ごめんなさいね」
ユリは少し思案しつつ言う。
「じゃあ、あの逆さ街まで木を伸ばすしかないかな?」
「どいうことかしら?」
「私は植物を扱える権能を使えるから。でっかい木でも作って街まで延ばせば入れるでしょ」
「それは……やめてほしいわ」
「え?」
「そんなものを作ってしまったら、地上を闊歩する亜獣が入る通り道となってしまうわ。
そう言うのは街で禁止されているから。
あなたたちも亜獣狩りなら街のルールを守らなきゃいけないことは分かるわよね?」
ランは少し厳しい口調でそう言った。
ユリはなるほどなぁと天を仰ぐ。
「じゃ、飛ぶしかない」
「何言ってんすか?
ついに鳥と同じように頭が空っぽになったっすか?」
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