第9話 アダルトな一夜
(ここは無法地帯。己の身一つで生きて行かなければならない油断できない世界だ)
爆発音やら叫び声、銃声が至る所から聞こえてくる街中。
(そんな中でも唯一安らげる場所がある)
薄明るく光っている看板を出している一件の店。
(このBarだ)
(ここではどんなにいがみ合っていても大人しく酒を楽しむ暗黙のルールが存在する)
「マスター、あちらの女性に今飲んでいる物と同じ物を」
カウンターで飲んでいる俺は、同じカウンターの端にいる女性に向けてマスターに注文した。
「かしこまりました」
マスターは女性が飲んでいるカクテルと同じ物を作り始める。
(俺のプランはこうだ)
【マスターが女性にカクテルを渡す。頼んでいないと驚く彼女。マスターから「あちらのお客様からです」。彼女がこちらを見たら俺は軽く手を挙げ挨拶をして近くに寄る。そして「お嬢さんお一人ですか?良ければ今宵のお話し相手になってもらえませんか?」】
完璧だ。マスターに確認して彼女は一人で入店して30分以上あそこで飲んでいる。連れがいる可能性はない。
マスターが彼女にカクテルを持って行く。
(よし行けマスター)
「あっ!」マスターが躓いてよろめいてしまった。バランスを崩して手に持っていたトレイからカクテルが宙を舞う。
バシャ
俺と彼女の間で飲んでいた強面スキンヘッドの兄ちゃんにカクテルが被さる。
(マスター!?)
「何すんだよ!?」強面スキンヘッドが当たり前に文句を言う。
「あっ・・・ちらのお客様からです」マスターは俺の方に手を向ける。
(マスターーー!?)
「何か用か兄ちゃん、人が気分良く飲んでんのによ」
近くに来ると強面スキンヘッドはすごくデカい。
「いやっ用って物はないんですけど」思ってたのと違う。
「何だ?って聞いてんだよ!!」胸ぐらを掴まれて俺の足が床から浮く。彼女もこちらを見ている。思ってたのと違う。違い過ぎる。ていうかこんな事態を予想する奴いないだろ。
「おっとお客さん、喧嘩なら外でやって下さい。他のお客さんに迷惑です」
何事も無かった様にグラスを磨きながらマスターが注意してきた。
(マスターーーーーー!!)
そのままBarの外まで担がれて行く。強面スキンヘッドの子分達だろうか、テーブル席にいた数人も一緒に付いてきた。
何度か殴られ、蹴られ、ゴミ捨て場に仰向けに倒れ込んでいる。起き上がる気力がない。
「アニキ、この前買った新しい銃の試し打ち、こいつにしてみやしょうぜ」
下っ端子分のモヒカンが下っ端っぽい事を言っている。
「そうだな。おい!」強面スキンヘッドが持って来いと別の子分に指示をする。
「へい」すぐ強面スキンヘッドの手に厳つい銃が届いた。
キュイーーーーーン
(何で俺がこんな目に)
甲高い音が銃から聞こえる。その銃が自分に向けられる。
死期を悟ったのか走馬灯が見え始める。
―――――――――――――――――――――――――――――
「彼女はいつからあそこに?」
「30分位前からですかね」
人の良さそうなマスターとの会話
カクテルを作っているマスター
躓いてよろめいてしまって「あっ」っていうマスター
テンパったのか「あちらのお客様からです」の目を合わせないマスター
「あははははは」
「待てよこいつぅ」
記憶に無い様々なマスターの姿が流れ込んでくる。
マスター
マスターーーー
アナウンス
【ご利用ありがとうご「マスターーーーー!!!!」お待ちしております。】
叫びながら目を覚ました。
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