寮監の仕事が妖のお世話だなんて聞いてないっ!

胡桃澪

第1話(前編)雅ヶ坂学園の寮監になりました、藤原柊哉です。

私立・雅ヶ坂学園は名門進学校で有名大学進学率が非常に高い中高一貫校である。


俺、藤原柊哉は今日からここの高等部の一年だ。


「見て。澄香様よ」

「相変わらず美しいわね」


俺がクラス発表の掲示板を眺めている時だった。


ある女子生徒が現れた時、周りがざわつき始めた。


「誰だ? 有名人か……?」

「おまっ! 編入組かっ? 澄香様を知らないのか?」

「へ?」

「千石澄香。あの大手千石グループのご令嬢だよっ!」

「千石グループ……聞いた事はあるような」


俺の独り言を聞きつけ、横にいた男子生徒が突然語り始めた。


「胸まである長いサラツヤな栗色の髪、フランス人形のように大きな瞳、グラビアアイドルのような抜群のスタイルッ! そして誰に対しても優しく微笑みかけてくれる聖女のような……」

「金持ちの美少女である事はよく分かった」

「中等部時代同じクラスだったけど、千石さんを好きじゃない男はいなかったんじゃないかな! あんな美しくて気品があって誰に対しても分け隔てなく優しくしてくれる女神様を」


つまり、完璧すぎる美少女ってわけか。


「千石澄香……ね」

「まあ、狙ったって無駄だけどな! 中等部時代に彼女に振られた男は100人近くいるという」

「それはさすがにガセなんじゃ?」

「いや、俺も振られたわけだしっ! 無い話では無いっ」

「告ったのかよ」

「千石さんと目が合ったら確実に好きになる」

「メデューサみたいだな」


うちの中学は普通の公立だったし、そんな漫画みたいな人気者の女の子は初めて見たな。


「全てが完璧美少女だからなっ」

「完璧すぎるのもつまらないと思うけど」

「お前あんな美少女見ても揺らがないのか?」

「可愛いと思わなくは無いけど、別に……」


というか好きになるだけ無駄だろ、そんなモテる女の子なら。


そもそも恋愛とかよく分からないし。


結ばれたって一瞬で壊れる事もあるし。


「君達、そろそろ体育館に行かないと遅れちゃうよ?」

「せ、千石さんっ」


あ、千石澄香から話しかけてきた。


「君、編入生の子だよね?」

「ああ。高等部から編入した藤原柊哉だ」

「やっぱり⁉︎ 見ない顔だなって思ってたの。分からない事や困った事があればいつでも私に聞いてね」

「あ、ありがとう」

「おい、お前っ! 千石さんには敬語使えっ」

「えっ? そうなのか? 同い年なのに?」

「当たり前だ! 格が違うんだからなっ」

「私は気にしないんだけど……」

「ダメです! 千石さんは特別なんですからっ」


いや、金持ちってだけで同じ高1だろ?


「藤原くんって何組?」

「あ、A組です」

「あ、同じクラスだね! 良かった! 編入生の人とも仲良くなりたいからね」

「はぁ」


最初から好意的な人だな。


これは勘違いする男も多発するに違いない。


「それじゃあ、遅れないようにねっ」


まさにアイドルの神対応だな。


「やっぱり可愛いだろ? 千石さん」

「まあそうかもしれないが……」


笑顔も立ち居振る舞いもどこか上辺なような?


気のせいか?


「そうそう、忘れてた! 俺は土田亮! 中等部ではつっちーって呼ばれてた! よろしくなっ」

「ああ、俺は藤原柊哉。よろしく」

「シュウって呼んで良いか?」

「ああ、構わない」

「編入組だし、千石さんには靡かない。お前面白いな! 気に入ったわ。クラスも同じだし、仲良くしてくれよな」

「よろしく」


編入組だから不安はあったけど、早速仲良くできそうな奴見つけられて良かった。


入学式が始まると、再び千石澄香に注目が集まった。


今年の新入生代表は彼女だったからだ。


やっぱり完璧美少女なんだな。


「はぁ、入学式での千石さん美しかった」

「やっぱり頭良いんだな」

「そういえば! 千石さんを知らないって事はうちの新入生TOP3も知らないって事?」

「何だそれ?」

「千石さん並みにすげー家に生まれた二人がいるんだよっ」

「さすが名門校……」

「まず、猫野環! 警視総監の娘で中等部では剣道部で大活躍! 全国大会に毎年行って高成績を残してたな」

「へぇ……知らないや」

「最後が織原衣都。家族全員音楽家で彼女もピアノのコンクールで大活躍してたとか! まあ、中学からやらなくなったらしいけどっ」


やっぱりすごい人達が集まってくる学校なんだな。


普通の家庭の子供ってもしかしたら俺くらいなんじゃ? 何なら貧しい方だし。


「じゃあ、俺は伯父さんのとこ寄って行くから」

「伯父さんって?」

「学園長が俺の伯父なんだ」

「マジかよっ! すげぇな、シュウ!」

「うちは貧乏な家庭だからすごくはない」

「また明日なーっ」

「おぅ」


ホームルームを終えツッチーと別れると学園長の待つ学園長室へ。


「伯父さん、お邪魔します」

「おぉ、柊哉! とりあえず入学おめでとう」

「ありがとう。これからよろしくお願いします」

「どうだ? 学校には馴染めそうか?」

「まだ初日だけど、一人友人は出来た」

「そうか! お母さんには連絡したか?」

「いや……」

「友達出来たって報告だけでも喜ぶだろうから連絡してやれ。これから離れて暮らすわけだし、安心させないと」

「そう……だな」


俺が元気でいる事が母の為に出来る事だ。


「でも何も離れて暮らす事無かったのに。自宅からは通える距離だろ?」

「母さんと一緒に暮らしてると、湊也の事をお互いに思い出してしまうんだ。もう3年経とうとしてるのに俺も母さんも過去に出来ない」

「柊哉……」

「それに、学園寮に住み込んで働けるなんてありがたい話だ。母さんには子供の事ばかり考えないでのびのびと暮らして欲しいから」

「高校生だからって親に甘えちゃダメってわけじゃないんだぞ?」

「父さんが出て行って湊也が亡くなって母さんは辛い思いばかりしてる」


小さな頃に父親は女を作って出て行き、母が女手一つで俺達兄弟を育ててきた。


だけど、弟の湊也は重病を患っていて8才でこの世を去った。


俺も母もずっと湊也を失った悲しみを抱えて生きている。


一緒にいるとお互い湊也の事を思い出してしまうから離れる選択をしたんだ。


これは逃げなのだろうか。


「まあさ、お母さんに話しづらい悩み事は伯父さんがたくさん聞いてやるからさ」

「ありがとう」

「そうそう。寮に荷物や家具は全部届いてるからな。一緒に行かなくて平気か?」

「学園からそう遠くないし、地図見れば大丈夫」

「なら良いが」

「寮監の仕事というかアルバイト自体初めてなんだけど大丈夫かな」

「柊哉はお兄ちゃんだしすごくしっかりしてるから大丈夫だよ。家事スキル高いなら問題ない仕事だし」

「そうかな」

「それにもふもふに癒される仕事したかったんだろ?」


もふもふ……。


「動物と触れ合いながら家事をするだけの仕事って最高……」

「まあ、慣れるには少し時間が要るかもだが」

「最初はそんなもんだろ」


寮監として学園の寮で住み込みで働く。


つまり母さんから仕送りを貰わず自分で稼いだお金だけで日々やりくりする。


かなり高給だし、普通は怪しむものだが信頼してる伯父が仕事を紹介してくれた。


何より動物と戯れながら働けるという条件がかなり気に入った。


我が家はペットを飼えるほど余裕が無かったから俺と弟はやたら動物番組ばかり見てたっけ。


伯父への挨拶を済ませると、俺は地図を見ながら寮へと向かった。


学園からは徒歩10分程度。


辿り着いた先にあったのは寮というより豪邸だった。


「学生寮なんだよな?」


伯父から渡された地図の住所は間違いないはずだ。


「あ、よくよく見たら門に雅ヶ坂学園特別寮って書いてある……」


でも、特別寮ってなんだ?


とりあえず伯父から貰った鍵で中に入ってみる。


「お邪魔しまーす……」


玄関広っ!


高そうな壺たくさん置かれてるし。


ずっとアパート暮らしだった自分が本当にこんな豪邸に住むのか?


というか結構家事が大変そうだな。


この広さの家って。


でも、高給だからこそやり甲斐もあるってわけだな。


「脱皮ー」

「えっ……」


靴を靴箱に仕舞い、家に上がり込んだ瞬間だった。


奥の扉から下着姿の女の子が現れた。


「知らない人の気配がする……」

「あ、あの! すみません! 間違えました!」

「お、お、男の人⁉︎」


目が合った瞬間、彼女の姿は消えて白い蛇が現れた。


「へ、蛇……?」

「ちょっと、衣都! 下着姿で寮の中をうろちょろしないでって言ったよね⁉︎」

「スミちゃん……」

「ちょっと、何蛇になって……あーっ! 今朝の編入組の男!」

「えっ。せ、千石さん……?」

「まさか今衣都が変化するの見たわけ……?」

「突然目の前にいた女の子が消えて白い蛇が残った場面なら今しがた見たけど」

「いいっ⁉︎ 今見た事今すぐ頭から抹消してっ! 知って良いのは親族か学園長か寮監だけなんだからっ」


朝会った時はアイドルみたいな対応をしてきた千石さんだよな?


今目の前にいて白蛇を抱き抱えながら俺を睨みつけてるのは同じ女の子か?


「あの……学園長から新しい寮監が来ることは?」

「どんな人かまでは知らないけれど今日来るのは聞いてる。荷物もたくさん今日来たしっ。えっと……藤原様宛だったけど? ん? 藤原?」

「それ俺の事なんだけど」

「はぁ⁉︎ 寮監が男ーっ⁉︎ ありえないんだけどっ! 吐き気がしてきたっ」

「あの……本当に同じクラスの千石さんだよね?」

「男と住むとか汚らわしい! 学園長も両親もバカなわけっ! こんな可愛くて誰のものにもならない高嶺の花の私が男と暮らす? ありえなすぎる……バレたら作り上げてきた私の清廉潔白なイメージが台無しじゃないっ」


あれ、ツッチーに聞いたイメージとやっぱり違うな、この人。


「スミちゃんっ」

「最悪ーっ!」

「えっ! あれ? 今度は千石さんが狸になった……?」

「わ、私とした事がっ。清廉潔白で可憐な千石澄香が実は化け狸なんてバレたらお嫁に行けないっ! 一生の恥よ!」

「全部言ってくれた」


つまりさっきの女の子も千石さんも人間ではないって事か?


「とりあえず新しい寮監さんならスリッパお出ししないと……」

「私は認めてないから上げなくて良いのっ! 衣都!」

「でも……私達が追い出したら住むところ無くなって可哀想だよ」

「あぁ、もう! 何でこんな時におたまがいないわけっ! あの子なら男なんて一瞬で成敗するのにっ」

「スミちゃん、でも男ならもう既に一人家にいるよ?」

「あの子は座敷童子だから良いの! まだ小学生くらいじゃない」

「生物学上は一緒だよ?」


えっ、こんな豪邸なのに座敷童子までいるのか?


「とにかく! お父様に言って別の寮監に……」


天井から何か紙が落ちてきた?


「ようこそ、ふじわらしゅうやさん……?」


子供の字で書かれた手紙?


「座敷童子ちゃんもいいって」

「うっ。小さな子供に言われると追い出せないっ」

「座敷童子に俺の名前教えてないのに……」

「座敷童子は神様みたいなもんだから何でも知ってるんじゃない? まあ、その子もあんたが来る数日前から現れるようになったんだけどっ」


化け蛇に化け狸に座敷童子がいる寮って。


色々情報が錯綜しているんだけど。


「とりあえず荷解きして良い?」

「勝手にすればっ! 衣都、人の姿に戻ったらすぐ服着てっ! 男なんて危険しかないんだから」

「分かった……」


受け入れられてない状態で俺の寮生活が始まった。


「はぁ、寝室も広いな。家具そんなに持って来てないからなんか物寂しく感じるな……」


勉強机とちょっとした本棚とベッドだけのシンプルな部屋。


まさか女しかいない寮の寮監になるとは。


しかもただの女の子じゃなくて妖怪らしい。


「お兄ちゃん、頑張るからな」


実家から持って来た弟の写真を見つめながら呟いた。


「ただいま帰ったぞー!」


あ、もう一人帰ってきた。


やっぱりまた女か……。


「おたま! 遅いっ! 今日は学校早く終わったはずよね?」

「すまない、澄香。剣道場で鍛錬を重ねていた」

「これだから脳筋は……」

「脳筋とは何だ?」

「とにかく大変なのっ!」

「もしかして寮監が男であるという点か?」


俺は千石さんともう一人の住人のいる玄関へ。


「はじめまして。藤原柊哉です」

「ほぉ。新しい寮監かっ! 本当に男だっ」

「何で動揺しないわけ! てか、知ってたの?」

「私だけ学園長から事前に聞いていた。先程剣道場を出る際に会ってな。会っても攻撃するなと言われたっ」


えっ、伯父さんが話さなきゃこの人に攻撃されてたの? 俺。


「あのおっさん……余計な事をっ」

「千石さん、今朝俺と仲良くなりたいって言ってませんでした?」

「やだ、本気にしたわけ? あんなの建前だし。学園での千石澄香は誰に対しても理想の女の子って設定なの。残念でしたーっ」


そうか、学園中の男はみんな彼女に騙されてるわけか。


「まあ、狸だもんな。人を騙してなんぼか」

「騙すって言い方やめてっ! 私なりの処世術なんだからっ! あと狸言わないで」

「む? もうバレたのか、澄香。間抜けだな」

「おたまにだけは言われたくないんだけどっ」

「あの……もしかしてまた妖怪?」

「ああ! 私には化け猫の血が流れているっ」


今度は化け猫かよ。


「お帰り……環ちゃん」

「あっ! 衣都。下着姿じゃないのは珍しいなっ」

「男の人がいる前で脱皮は出来ない……」

「脱皮っていうか衣都は服を脱ぎたがるだけでしょ」

「さっきは驚かせてごめんなさい。もう脱ぎません」

「あ、ああ。大丈夫、ちゃんと忘れるから」


何の宣言だ?


「はぁ? インターフォンも鳴らさずいきなり鍵開けて入ってきたこの男が悪いんじゃない」


インターフォンあったのか、気付かなかった。


「というわけで、自己紹介と行こう」

「意味ある? 私達有名人だけど」

「澄香! 最初の印象が大事なんだぞっ」

「私の中の藤原くんの印象は最悪だけど? この私が寮にいると分かったら出て行くのが私に対する敬意よ。私は学園で一番えら……」

「私は猫野環だっ。父が警視総監で私も警察を目指しているっ」

「聞きなさい」


猫野さんは千石さんほど当たりがきつくなくて良かった。


「ちなみにあらゆる武術に長けている私は男の貴様の息の根を止められる。つまり寮での行動には気をつける事だなっ」


笑顔で物騒な事を!


「き、肝に銘じます」

「よろしいっ」


随分と凛々しい子だな、さすが警官志望。


「はぁ、仕方ないわね。改めて千石澄香よ。よろしく」

「うん、改めてよろしくな」

「寮監なんて私達には要らないのに……」

「今迄はいたのか?」

「一応おばさんの寮監はいたわ。学園長の奥さん、だったかしら」

「伯母さんかよっ」

「ただ、突然妊娠してしまって辞めたのよね」

「ああ、そういえばそうだったな」


伯父さん再婚だしな。


「まだ学園長の奥さんのがマシだったわ。住み込みではなかったし、あまり私達に干渉してこなかったのよね」

「悪いが、俺には金が必要だ。だから学生の身だが住み込みできっちり働かせて頂く」

「ストレートに言うのね。言っておくけど玉の輿狙いで私達3人と付き合う気なら諦めなさい」

「そんな手を使ってお金を手に入れる気はないよ。自分で稼ぐのが一番だ」

「本当かしらね」


大体こんな難ありそうな人達と俺が恋愛はないだろう。


特に千石澄香。


一番癖がある女だ。


「ルールを決めておいたらどうだ? 寮内恋愛禁止、私達3人の内1人に不快な思いをさせたら寮監を辞めるってルールだ」

「君らが安心して俺と暮らしたいのであればそのルールはもちろん受け入れる」

「まあ、それが妥当ね! 私はもう不快だけどっ」

「まだ初日だし、一ヶ月程様子は見ようか? 澄香」

「ま、座敷童子ちゃんも受け入れモードだったし……仕方ないから一ヶ月は様子を見てあげる」


座敷童子ちゃんとやらにはまだ会ってないけど、いつか会えるだろうか?


「あ、あのっ」

「何よ? 衣都……」

「私も自己紹介……」

「ああ、ごめんなさいね。どうぞ」

「わ、私は……織原衣都です。家族はみんな音楽家で……私はもうやめちゃったけど」


下を向きながら辿々しく話す彼女はこの寮で一番内気な方なようだ。


「よろしくな、えっと……織原さん」

「は、話すのあまり得意じゃないから不快な思いさせちゃうのは私の方かもしれないけど」

「衣都は気にしすぎなのよ」


つまり俺が今日から一緒に生活する事になったのは学園のTOP3と言われる名家の娘達、あとまだ見ぬ座敷童子。


「あ、一番大事なルールを忘れてたぞっ」

「えっ?」

「私達3人が妖の姿になってしまうには感情が関係している」

「つまり、学園では感情を抑えて絶対に変化しないように過ごしてるわけ。私達はバレないよう必死なの。だから、私達の秘密を話したらただじゃおかない!」

「分かった。約束する、絶対にバラさないから」

「うむ!」


寮ににおいての3つのルールが決まった。


1.寮内恋愛禁止

2.寮に住む3人の女子1人にでも不快な思いをさせたら即退寮

3.3人娘の秘密は絶対に守る事。


まあ、寮内恋愛禁止は余裕だな。


「さーて、疲れたし化けるとするかっ」


猫野さんが突然猫の姿に変化した。


「ちょっと! 何化けてるわけっ」

「1日1回は化けないと落ち着かないんだな」

「分かる。私もそう……」


あ、感情の乱れが無くても化けられる仕様なのか。


「おたまと衣都は自分の本来の姿を受け入れすぎよ。私は……自分の本来の姿が気に入らない。もっとこう凄いのが良かった! ユニコーンとか龍とかっ」

「何でだ? 俺的には狸が一番可愛いと思うが?」


尻尾も身体もふさふさだし、モフモフみがえぐい。


「あ、あんたの意見なんて知らないっ! この姿のどこが可愛いのよ⁉︎」


あ、狸に化けた。


「あの……尻尾だけでも触らせ……」

「絶対に嫌よっ」

「もふもふと戯れながら家事をする仕事って伯父さんには聞いていたのに……」

「あの学園長説明雑すぎっ!」

「私はもふもふじゃなくてごめんなさい」

「あ、いや! 織原さん気にしないで」

「そうよ、衣都! いくら動物の姿とはいえ男に自分の身体を触らせるなんて破廉恥だわ」

「そうなの?」

「そうなのっ」


もふもふと戯れるという条件はあっさり無くなってしまった。


とにかく俺が今やるべき事は彼女達に不快な思いをさせず高校卒業までの世話をずっとする事!


寮監として職務を全うするのみだ。


でも、千石さんに嫌われたままは良くない気がするから頑張って信頼させる必要があるな。


「あ、座敷童子ちゃん……こっちにおいで?」

「あら、逃げちゃったわね。私達だけの時は寄ってくるのに」

「貴様、子供に嫌われやすいのか?」

「そうなのか? 俺一応兄だったんだけど……」

「きっと座敷童子ちゃんは人見知りだよ」

「人見知りか。まるでうちの可愛い可愛い弟みたいだな」

「あんたブラコンなわけ? キモ」

「そうだな、重度のブラコンだよ。だから、ここに来た。母さんと俺があいつを思い出にする為に」

「は?」


そうだ、一番の問題は俺が過去を乗り越える事だった。


やらなきゃいけない事、たくさんあるな。





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