1時間ライティング 保管場所
茶里
第1話1時間しゃぼん
天気のいい日だった。
何となく仕事をさぼった
しかし何をするわけでもなく
自室のベランダで煙草を吸っていた私は、ただぼうっとしていた。
ベランダで何かを見ているわけでもない。
目の前に広がるのは一面の畑であり、見飽きた田舎の風景にはなんの面白みもなかった
吸っていた煙草の灰が長くなり、息を吹きながら灰皿に擦り付ける。
ぼうっと漫然と吸っていたからか満足感は覚えなかった。
さてもう一本と室外機の上に置いておいた煙草の箱に手を伸ばすと、視界の端にきらきらとした物体が浮遊しているのに気が付いた。
『……シャボン玉、ずいぶんと久しぶりに見たな』
最後に見たのはいつだったか。正確にはわからないが、たぶん相当昔なのだろう。
もしかしたら、最後に見た記憶は私自身が吹いた時の記憶かもしれない。
『このシャボン玉はどこから来たんだろうか。』
少しベランダから身を乗り出しあたりをきょろきょろと見渡す
しかしシャボン玉を喜びそうな年代の子はおろか、はしゃぐ声すらも聞こえない。
そこまで、考えたところで私は違和感を覚えた。
私が住んでいるアパートは、6世帯しか入ることのできない小さなアパートだ。
それ故このアパートに住んでいる人々は交流こそないものの把握はしている。
加えて周囲には畑と気のいい老夫婦が住んでいる民家しかない。
アパートの住人は全員私と同年代くらいであり、シャボン玉を吹くような年代の者はいない。
もしかすると老夫婦の家に孫などが遊びに来ているのかもしれないがはしゃぐ声などが聞こえないのでその線も薄いと思われた。
出先も行き先もあいまいなシャボン玉を、ただ見つめる。
手慰みとして煙草を一本取り出したが、火をつけず包装に戻す。
顔を上げると目の前でシャボン玉が割れた。
欄干から体を離し、私は部屋に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます