共犯者
雨森灯水
共犯者
親にいじめをしてることがバレたので、近くの公園まで逃げた。弁明したって無駄だと思った。
「
「いいのいいの。
「うん…」
私は力なく頷いた。私と夜崎さんはお互い、いじめに遭った過去を持つ。あれが死ぬほど辛いものだってことも理解している。それなのにどうしていじめをしているのか、って聞きたいでしょうね。
「いじめられっ子ってさ、結局いじめられてないと居場所ないんだよね。…どっちにしろ居場所ない感じだけど」
夜崎さんがふふっと笑った。
「だから、わざわざお互いをいじめ合うゲームなんて始めちゃってさ」
私もつられてふふふと笑った。
*
あれは半年前。
私は初めて彼女と話した。オドオドしていたし、なんとなく、みんなから避けられそうな雰囲気あるなぁと、ぼんやり思った。でもそのうち仲良くなって、過去を打ち明かしてくれた。いじめられていたそうだ。殴る蹴るは当たり前に、言葉の暴力も何度も飛んできた。どこにも居場所がなかったけど、いじめられなくなった今も、結局居場所なかった、と笑っていた彼女が印象的だった。思わず私もいじめられていた、と告げた。じゃあお互い様なんだ、と笑った。もっと仲良くなった。
ある日彼女は言った。いじめられることで、また居場所を手に入れたい。だからお互い、ほんの少しだけいじめ合ってみよう。最初はとんでもないことを言い出したと思ったけれど、なぜか了承してしまった。それからは、小学生が使うようなバカとかアホとかって言葉を笑いながら言い合った。バカ!それはあなたもでしょ!なんて。それが私たちにとっての居場所だったし、それ以上の関係ではなかったように思う。
*
「そしたら__もう私たちの関係は終わりだね」
夜崎さんが寂しそうに言う。
「…友達には、なれないの?」
「なれないよ。だって私、月島さんに酷いことたくさん言っちゃったし」
「そんなの私もだよ。ね、友達になろうよ」
「……ごめんね。私なんかじゃ、友達にはなれない」
夜崎さんの悲しそうな顔が痛い。
今頃親はカンカンに怒っているだろうし、それと一緒に心配もしているだろう。でも私は帰らない。夜崎さんはいじめをするような子じゃない。私はいじめをしてたかもしれない。けどお互いに居場所が欲しかっただけなの。それだけ言って家を出た。これ以上話すことはない。
「__…それじゃあ、また明日、学校で」
夜崎さんはすっと立ち上がって、力なく手を振った。足が震えていた。夜崎さんも怖いんだ。そう思った途端どうしようもいられなくなって、夜崎さんの手を握った。
「__共犯者になろう」
「…え?」
「私たちのしたことは同じ。いじめは犯罪__なら、共犯者だよ。友達になれなくていい。私は共犯者でいい。その関係じゃ、ダメ?」
ああ、私はこんなにこの子と離れるのが嫌だったんだな、と思った。いじめ合っていたはずの私たちが、こんな夜に会うほどに仲良くなっていた。今思えば不思議だった。夜崎さんの冷たい手に、私の手が持っていた暖かな熱をわける。夜崎さんの手は段々あったかくなる。
「__わかった。共犯者になろう。お互いの罪も、背負おう」
夜崎さんはそう言って笑顔を見せた。足の震えは収まっていた。その頃、急に私の足が震えだした。
「…今日は一緒に寝る?」
「…寝る」
私は夜崎さんの言葉に甘えて、公園で眠りについた。静かな夜、静かな空。星は小さく輝く。私たちを中心に回っているわけないのに、なぜか今だけは、私たちが世界の中心だと思った。
また明日、親に2人で会いに行こう。私たちの関係も知らない、理不尽な犯罪者に。
共犯者 雨森灯水 @mizumannju
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