09.聖女襲来
「にゃ……?」
泥棒猫と罵られたアリシアは状況把握できていないのか、きょとんとしている。
【吸血鬼さん、この方はクガの元パーティの人です】
「あー……なんたらゼミの……」
「〝クマ〟ゼミだ……一番大事なところが抜けてる」
ユリアは眉をひそめ、不満気に言う。
「……? よくわからんが、クガを追放した張本人の一人というわけだよな?」
「まぁ、そう……」
「今更、何の用だ?」
確かに……とクガも思う。
実のところ、このユリア……追放の時、ただの一言も言葉を発しなかったのだ。要するに何考えているか、さっぱりわからなかった。
「話すのは得意じゃない……とりあえずあんたをぶっ倒す……!」
「っ……!」
そう言ったユリアは地面を蹴り出し、物凄い速度で、再び、アリシアに接近する。杖を振り回し、それをアリシアが触手で防ぐという構図になる。
一撃一撃の威力の大きさを物語るように、二者の接触が起こる度に衝撃波が発生する。
【きたぁあああああ、脳筋聖女!】
【ゴリア様~~】
【あかん、吸血鬼さんとゴリア様、どっち応援したらいいんやろ】
ゴリア様。
聖女という魔法攻撃特化タイプにして、得意の光属性魔法を至近距離で叩き込むアグレッシブすぎる戦闘スタイル。ゴリゴリの肉弾戦を好むことから〝ゴリア様〟の愛称で親しまれ、口下手なところや容姿の良さからもユリアはクマゼミで一番人気があった。
「魔法:
「っ……」
超至近距離で放たれる魔法に、アリシアは思わず〝瞬間移動〟で退避する。ユリアはすぐに距離を詰めるが、アリシアは紅い壁を形成し、視界から消える。一瞬、左右どちらか迷ったユリアであったが、壁を叩き割ることを選択する。
目まぐるしく入れ替わる攻防。
しばらく二人の息を呑むような激しい戦いは続いた。
「……」
しかし……まさかこれ程とは……。
二人の戦いを見つめていたクガは予想外の戦況に驚いていた……。
あのユリアが次第に劣勢に立たされている。
「っっ……」
「……」
歯を食いしばっているのはユリアだ。アリシアにはまだ余裕があるように見える。アリシアの触手は徐々にユリアの身体を掠め始める。そして……。
「っ……!」
アリシアが隠していた紅石の撒き散らしにより、ユリアの体勢が崩される。アリシアの口元が歪む。……が、アリシアは動きを止める。
「…………どうした? クガ……」
クガがユリアを守るように二者の間に立っていたからだ。
「
クガはアリシアに背を向けて、ユリアの方を向き、治癒を施す。掠り傷程度ではあるが……。
「っ……」
アリシアは顔をしかめる。
「…………クガ……」
ユリアはクガを見上げる。少し口元が緩んでいる。しかし……。
「ユリア……去ってくれ」
「え……!? わ、私……?」
「そう、ユリア……君だ……」
「で、でも……私はまだ……」
そうだろう。これだけでやられるような奴だとは思っていない。まだ互いに手の内の半分も見せていない。しかし、そういう問題ではないのだ。
「クマゼミを脱退した後、どういう巡り合わせか……俺は今、
「……っ」
ユリアははっとしたような顔をする。そして……。
「え……?」
次に変化した表情にクガは驚く。ユリアは目頭にうるっと涙を浮かべている。
「うわぁああああ! セラの馬鹿ぁああああああ!」
そう言いながら、ユリアは走り去っていくのであった。
「え……」
【あーあ、泣かせた】
【泣ーかせた】
【泣ーかせた】
え……? これって俺が悪いのか……? ユリアも〝セラ〟って言っていたけど……とクガはアリシアの方を振り返る。
アリシアはなぜかモジモジしていた。
「そ……その……あ……ありがとう……」
「……?」
アリシアは頬を赤く染め、どういうわけかいつもより静かであった。
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