鬼起怪解 ~エンマの部下の、むちゃくちゃ強い青鬼さん、異世界で無双する‼︎~
@jesterhide
アノマロカリス
砂漠の太陽は容赦なく地上を焼き尽くし、その熱は空気を揺らすほどだった。
その中を、1人の男が黒いスーツを着て、ひたすらに歩いていた。
彼の名はアオ。
彼は冥界の執行官である、エンマの命令で、とある次元の砂漠へ来ていた。
目的は、怪異化した生物を討伐することだった。
アオはふらっと砂漠のオアシスを訪れた。
そのオアシスは、砂漠の真ん中に突如として現れる小さな楽園のようだった。
周囲を取り囲む砂漠の厳しい風景とは対照的に、オアシスは生命の息吹に満ちていた。
オアシスの中心には、清らかな水を湛えた池が広がっており、その水面は太陽の光を反射し、周囲に青い輝きを放っていた。
池の周囲には、緑豊かな植物が生い茂っていた。
高くそびえるヤシの木、その下に広がるフェニックスの木々、そして地面を覆うように広がるサボテンの群生。
それぞれが砂漠の厳しい環境に適応し、生命力を発揮していた。
池の周囲には、石と土で作られた小さな集落が点在していた。
その家々は、砂漠の厳しい日差しを遮るために白く塗られており、その白い壁は、日中の熱を反射し、夜には冷え込む砂漠の気温を調節する役目を果たしていた。
オアシスに住む人々は、砂漠の厳しい環境に適応した白い衣装を身に纏っている。
その衣装は、軽くて通気性があり、衣装の素材は、砂漠の熱を反射する白色で、体温の上昇を防ぐ役割も果たしていた。
だからだろう、オアシスの商人はアオの黒い服装を見て、驚きの表情を浮かべた。
「旦那、あんた何処から来たんだい? こんな砂漠で、黒い服なんて来ていては、太陽に焼かれて死んでしまう。悪いことはいわない我々と同じ服を着なされ。」
しかし、アオは微笑みながら、その商人の提案を断った。
「それには及びません。宗教的な理由とでもいいましょうか、この服が欠かせないのです。」
そう言って、アオは言葉を続けるのだった。
「最近ここらへんで、人が消失する事件が多発していると聞いたのですが、ご存じであれば教えていただきたいのですが。」
アオの言葉に、商人はうなずくと、砂漠の遠くを指さした。
アオは、その指し示す方角へ鋭い視線を向け、また静かに歩き始める。
「あっ!! ちょっと、そのまま行くと危険だよ、ラクダでも借りていきなよ。」
商人がそう言った時には、アオの姿は、もうその場にはなかった。
「おれはいった、蜃気楼でもみてたんかな……。」
アオが砂漠を進むと、遠くの地平線に何かがぼんやりと光を放っているのが見えた。
それは太陽の刹那の輝きを鏡面のように反射し、まばゆい閃光を周囲に放っていた。
アオはその明滅する光源に向かって進み、近づくと、その正体が明らかになった。
数々の金属製の装飾品、武器、そしてその周囲には古布や、噛み砕かれた食糧の残骸が無秩序に散乱していた。
それらは、かつて人々が生活し何かに襲われ、一変した様子を物語っていた。
アオの視線は、その光景に捕らわれた、時間は一瞬にして凍結したかのような感覚が広がった。
その瞬間は、砂漠の無情さを象徴するかのような、深い沈黙だった。
そして、その沈黙を突如として破るように、地面が微妙に揺れ始めた。
それはまるで、地下深くで何かが目覚めようとしているかのような、不穏な揺れだった。
砂がゆるやかに舞い上がり、その踊る砂粒の間から、巨大なエビが姿を現した。
そのエビは、通常のエビとは比べ物にならないほどの大きさで、その姿はまるで古代の甲殻類のようだった。
エビの巨大な体躯は、太陽の光を反射し、その甲殻は金属のように輝いていた。
エビはその巨体をゆっくりと揺らし、アオを見下ろした。
その目は、人間が食物を見るときのような、冷たく、無慈悲な光を放っていた。
「ふう、出たな異質なる者よ。だが、後悔するだろう。私の前に現れたことを。」
アオはそう言って、漆黒のスーツの襟を整え、ネクタイをきっちりと締め直し、エビに対峙した。
エビはその異様な行動に危機感を覚え素早く後ろへ逃げると、地面の砂を一気に吸い込み、それを前方に吐き出した。
その砂の塊は、まるでレーザー光線のように直線的に飛び出し、その速度と威力は、砂を一瞬で抉るほど強烈なものだった。
しかし、アオはその一撃を完全に見切ると、体をひねりながら瞬時に距離を詰め、エビの腹部に拳を突き上げた。
その拳は、エビの甲殻を貫き、その内部に深く突き刺さった。
その一撃は、砂を持ち上げるほどに強力なものだった。
エビの身体はその衝撃に耐えきれず、粉々にくだけ散った。
アオの放った一撃は竜巻のように地面の砂を押し上げ、砂塵が中へ舞い上がった。
「残念だが。君の冒険はここまでだ。」
そして、砂漠には男が一人。
アオは深いため息をつくと、トボトボと来た道を帰って行くのだった。
アオがオアシスに戻ると、商人は彼を驚きの目で見つめた。
彼の目の前に立っていたのは、砂漠から帰ってきたばかりのアオだった。
その姿は、灼熱の太陽の中を砂塵にまみれ歩いてきたであろう、だが、アオの額には汗の1滴すら浮かんでいたかった。
「おお、旦那! 無事に戻ってきたのか! あの竜巻に道を阻まれたんだろ? 強風で汗も吹き飛んでしまったか? 悪いことはいわない、魔物だって出るんだ、少し休んでいきなされ。」
「それには及びません、目的は果たせましたので。」
「……目的? あんた一体何をしにここえ来たんで?」
「いえ、野暮用ですよ。」
アオはそれ以上の詳細を話すことなく、そっと商人の前から立ち去ろうとした。
だが、彼の視線が商人の売り物に引きつけられた。
その中には、奇妙な形のエビが並べられていた。
アオの脚はふと立ち止まり、アオの目はそのエビに引き寄せられた。
それは彼が先程砂漠で対峙した巨大なエビに似ていたが、こちらは小さく、食用に適した大きさだった。
「……なるほど。 先ほどの怪異はこのエビが巨大化したものでしたか。」
そう言って、アオは言葉をつづけた。
「このエビを1皿いただきたいのですが。よろしいですかな?」
「おお、旦那、御目が高い銀貨1枚だよ。」
「ではこれで。」
そう言ってアオは、商人に銀貨1枚を手渡すと、エビが蠢く皿を手に取った。
「そのエビは砂漠飛びエビと言って奇妙なエビでね。乾燥した砂漠の中では砂の中にもぐって暮らすんだ。このエビはオアシス産で水の中で暮らしていたからあまり砂を含んでないけど、砂抜きは必ず行ってくださいね……。」
商人の言葉が絶えたところで、アオはすでに姿を消していた。
その速さに、商人は一瞬、何が起こったのか理解できず、ただ呆然とした表情でその場を見つめていた。
「あれ、旦那……?」
>>>>>>>>>>>>>>>>転送中
エンマの館は、現世とは離れた冥界にある重厚感漂う建造物で、その存在感は圧倒的だった。
その建物は黒と紫の大理石で作られ、壮大さと美しさは訪れる者全てを圧倒した。
その門扉には、巨大な門が設けられており、その門は常に閉ざされていた。
門を開けるためには、エンマ自身の許可が必要だった。
内部に足を踏み入れると、外観とは異なり落ち着いた雰囲気が漂っていた。
広大な床には赤い絨毯が敷かれ、壁は深紅の色に塗られ、高い棚が並んでいた。
床は常に磨かれ、鏡のように光を反射していた。
エンマの館に戻ったアオは、手に握りしめたエビを凝視した。
まだ皿の上で蠢く数匹のエビは鮮度がよく、今にも飛び跳ねて逃げていきそうだった。
アオはそんなエビを食べられるようにするため、エンマの館の厨房へと足を運ぶのだった。
館の厨房は、全体的に小ぶりではあったが、最新の設備が整っており冥界でも一、二を争う質の良さを誇っていた。
だが、運悪くその日、コックの姿はどこにもなかった。
アオはひとり、ため息をついた後、手にしたエビを自らの手で調理することを決意した。
エビを手に、厨房を一望したアオ。
そこには、種々雑多な調理器具が整然と並んでいた。
その中から、彼は最適な道具を見つけ出すとすぐに作業へと移った。
彼の最初の作業は、エビの頑丈な殻を剥ぐことだった。
このエビは、砂漠の厳しい環境に適応するために硬い殻を形成していたが、アオは手際よく、確実にその硬さを無視し、滑らかに剥ぎ取っていった。
次に、エビをきめ細やかな衣で包み、熱々の油の中に投入した。
エビは瞬く間にきつね色に焼け上がり、香ばしい香りが厨房全体に広がった。
アオはそれを巧みに取り出し、皿に盛り付けた。
その完成品は、見た目も香りも美味しそうなエビフライだった。
それを見て、アオは満足げな微笑みを浮かべた。
そして、アオは作り上げたエビフライを手に、静かな厳粛さが漂うエンマの部屋へと足を運んだ。
アオは重厚な赤い絨毯が敷かれた館の長い廊下を静寂の中で歩いた。
彼の手には、調理が完了したばかりの香ばしいエビフライが盛られた皿が握られていた。
目の前に現れた扉は堅固な鉄製で、そこから微かな光が漏れていた。
アオは静かに、しかし確かに扉を二度ノックした。
「エンマ様、ただいま戻りました。」
「入れッ!!」
その声とともに、アオは皿を乗せた手とは逆の手で扉の取ってを掴むとゆっくりと扉を押し開けた。
扉を開けると、部屋から強い光が溢れ出し、一瞬アオの視界を白く染め上げた。
しかしすぐにその光も落ち着きを取り戻し、アオの視界もはっきりと戻った。
部屋の中を見渡すと、まるで書斎のような造りになっており、その中心には立派な木製の机が聳え立っていた。
机の上には、書物が乱雑に積み上げられていた。
そして、その奥には一人の女性が座っていた。
彼女は美しい顔立ちの20歳前後の女性で、その眉間には深い皺が刻まれ、鋭い視線をアオに向けていた。
彼女の着ている黒い礼服はアオと同じで、一見すると高価なものだと感じることができた。
アオは彼女の前に立ち、静かに机の上に皿を置いた。
そして、皿を置いたとき、1枚のスケッチが目に入ってきた。
「おや? その絵は……。」
「この絵か? これはアノマロカリスだ、カンブリア紀の時代の生物だが、現世では絶滅してしまってな。我々が知っている中では、最も初期の大型肉食動物の1つだ。その異形の姿と生態から、古生物学者たちを驚かせてきたよ。」
「砂漠であったエビとよく似ておりますな。」
「ああ、あの転生者か。ご苦労だったな。私のミスに付き合わせてしまって。」
「お言葉には及びません。それが私の務めですので。」
そう言って、アオは言葉をつづけた。
「ですが、海洋学者をエビに転生させるのはいかがなものかと。執着心が前世の記憶を呼び覚ますと大王様もおっしゃられていました。」
「その件は本当にすまなかった。次回から気を付けるよ。」
「ならば良いのですが。して、それはどんな生き物だったのですかな?」
アオが興味津々に問うと、エンマは指を絵の方へと向けた。
「見ての通りだ、アノマロカリスは強大な前肢を持ち、その先には鋭い鉤爪がついている。これを使って獲物を捕らえ、口へと運んでいたんだ。その大きさは約1メートル、その時代としては非常に大きな生物だったんだ。」
「なるほど、確かに現世の生物としてはでかいですな。」
アオは口裏を合わせるように言った。
その大きさは圧倒的と思えたが、先ほど砂漠で討伐したエビの怪異に比べれば全然小さかったからだ。
そんなこともつゆ知らず、エンマは淡々とアノマロカリスの説明を続けるのだった。
「その目も特徴的で、複数のレンズを持つ複眼を備えていた。これにより、彼らは当時の海洋に生息する他の生物を獲物として見つけ出すことができたのだろう。」
次第に説明が楽しくなってきたのだろうエンマは少し微笑みながら付け加える。
「アノマロカリス、この名前はギリシャ語で"異常なエビ"を意味する。現世で初めてこれが発見されたとき、その奇妙な形状から何の部位なのか理解できず、エビの尾と間違えられたからこの名前がつけられたのだ。」
罪人の魂を次の生命へと転生させる力を持つ冥界の一族。
その一族の一員であるエンマの知識は博識で、数々の生物について、その形態、特徴、生態、歴史に至るまで深く理解している。
それは彼女の存在意義、使命に直結していたからだ。
生と死の狭間に立ち、転生の道筋をつける彼女にとって、生命の全体像を把握することは必然であった。
「ところでこれは?」
エンマは机の上に置かれたエビフライを見て呟いた。
「お夜食を持ってまいりました。」
「エビフライか。どこのエビを使ったんだ?」
不安げにエンマがアオに尋ねる。
「AO613次元の砂漠飛びエビと言われるものですな。現地の商人が売っておりましたので、お土産にと思いまして。」
エンマは少し考えた後、エビフライをフォークでつついてみた。
「まあ、それならば……。」
そう言って、彼女はフォークに刺したエビフライを口に運んだ。
「いかがでしょうか?」
「うげっ……。ひと噛みした瞬間に口の中に砂がまとわりついてきたぞ。なんだこれは……。」
エンマは顔を歪め、口の中に入った砂をすぐに吐き出した。
「ハハハハハッ、これは失敬。コックがおりませんでしたので私が調理したのですが。口に合いませんでしたかな?」
「おまえな……。砂抜きを忘れたな……。砂漠飛びエビは真水の中に入れて砂を吐かせてから調理すべきものだ……。」
エンマが椅子に腰掛け、顔をしかめながら口の中の砂を吐き出す姿。
アオはそんな彼女を見つめて、終始口元に笑みを浮かべているのだった。
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