第2話 先人が遺したモノ
「おーい快!いつまで寝てんだよ。」
「んぁ...は!?優弥なんでウチに勝手に上がり込んでんだよ!!」
「お前のお袋さんがあげてくれたぜ!」
ニカッと優弥は笑う。
平然と他人の家に上がり込むこいつもこいつだけど、母さんにも問題がある。
人が良すぎるせいか頻繁に家に人を招いて全く危機感が無い。
「今日さ"城光寺の滝"行かねぇか!ついでにミツキさんにも会ってこようぜ」
「どうせミツキさん目当てだろ」
「あっバレた?まぁどうせ暇だろ?行こうぜ!
...あっひな姉久しぶりー!」
「げっ。くそガキ。勝手に家にあがってんじゃないわよ」
「お袋さんに許可貰ったって!」
「あんたほんと声デカいわね。二日酔いに響くわぁ。たっちゃんとさっちゃんは元気?」
「また酒かよ。。さっちゃんはこの前5歳になってな、足とか結構速くなってるんだぜ。勉強も始めて今は九九を教えてやってんだ」
「あぁさっちゃんもう5歳かぁ。今度遊びに行ってあげなきゃね!っってぇ!あんた九九言えんの!!?」
「何に驚いてんだ!そんぐらい言えるわ!何歳だと思ってなんだバカにすんな!」
「はいっ7の段!!」
「えっ!えっーと7×1=7!7×2=14!7×3=んぇーと21!7×4・・・」
「あー優弥 俺ちょっと顔洗ってくるわぁ」
姉さんと優弥は昔からあんな感じだ。
顔合わせると常に言い合ってるが仲は良いみたいだ。
昔 姉は犬が欲しくてずっとボール遊びを夢見てたんだが、まだ純粋で元気いっぱいだった小さい優弥を犬替わりにボールを永遠と取って来させてたの覚えている。
というか野球が好きなのもきっと姉の影響だ。
本人は覚えてない様子だからあんまり地雷踏まないようあえて話題に出した事はないが。
「優弥お待たせ。姉さんとの会話はもういい?」
「快!こいつやっぱりアホよ!6の段より上ぜんぜん言えないわ!」
「ちげぇーって!!急に言われたからびっくりしてド忘れしてるだけだっつーの!!」
「いやぁこんなバカにさっちゃんが勉強教えてもらってるのが心配だわぁ。快あんたがさっちゃんの面倒見てあげなさいよ。このままだとさっちゃんこれみたいになるわよ」
「これって言うなや!」
「何で俺が!めんど..」
「あれ〜いいのかなぁ??昨日の事もあるからねぇ。あんたも子供じゃないんだから皆まで言わなくても分かるわよね」
こいつ。。ほんとに。
ニヤニヤしたこのイタズラ顔を今まで何度も見たことある。
こんな事ならあんな約束しなけりゃ良かった。
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「いくわよ!せーーの!!!」
顔を上げた空遠くに一匹の鯨がいた。
夜でも見えるくらい発光している。
月と違って丸くなく、鯨がそのまま空に打ち上がったように浮いている。
泳ぐどころか動き出す事もなく静かに空を見つめている。
魚は寝ないっていうけどあれは生きているか...
「........姉さん痛い。首強く押さえすぎ。」
「ん?何よ。そのつまらないリアクション。」
「いや、だから別に怖いわけじゃ無いんだって」
「じゃあ何で見ようとしないよ。おじいちゃんだってあー言ってたし。」
「そりゃ昔はもしかしたら怖かったのかもしれないけど、それは夜の暗さが苦手とかそうゆう理由じゃないのか。もう俺も覚えてないよ。」
「ありゃわしの勘違いじゃったかの。てっきり怖いんだとばっかり..,
まぁ優弥もこの事は知らんようだしの」
「へぇ〜優弥は知らないのねぇ。快くん?」
悪魔が獲物を見つけたようにニヤリと微笑む。
「あらそうなのねぇ。ふーん。」
「い、一週間風呂当番やる。」
「足りない。」
「え、じゃあ二週間...」
「お風呂当番は別にいいわ。そんなの。
私の言う事3つ何でも聞く。
それでチャラってことにしてあげる。」
「いやっ!3つは多すぎるだろ!」
「駄目なら交渉決裂よ。じゃおやすみ。」
「....すまんの。快...」
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「分かったよ!分かった!さっちゃんに勉強教えてやればいいんだろ。」
「ついでにこっちのバカにも。」
「は!何で..」
「優弥面白い事教えてあげる。」
「責任持って二人の勉強を教えさせて頂きます。」
「分かれば良し。」
「二人ともさっきからずっと俺のことバカにしてない?」
「ほら!二人ともこれから出掛けるんでしょ!
天気が良いうちに行っておいで!」
やっと解放された。
もはや脅迫に近い。
その昔 取り立て屋って仕事があったらしいけど
天職じゃないか。
でも、まだ軽いお願いで助けられた。
「快もあんな強烈な姉貴がいて大変だな」
「まぁもう17年の付き合いだから慣れたよ」
「でもお前が勉強教えてくれたらきっとさっちゃんも喜ぶよ。だからありがとうな」
優弥は大雑把でガサツな奴だけど、実は結構気遣いなところがあって優しい。
「なんか、、悪いな。気遣わせちゃって。」
「いいって!よし!じゃあミツキさんとこ行くか。チャリ持ってきたから後ろ乗れよ」
「あぁ!ありがとうな助かるよ!」
「あっそういえばさ。」
優弥が口を開く。
「お前17にもなって夜が怖いってマジwww?」
「はぁぁぁぁぁぁ!?」
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