時空探し

IzteN

第1章 自分探し

 熱い日差しがグランド全体に曲がることなく照り付ける。100メートル先の地面の上がゆらゆらと動いている。グランド中から様々な掛け声が交わり、セミたちはそれに負けじと一斉に合唱する。ただでさえ暑苦しいのにその上に暑苦しい音で自分を苦しめる。木陰でやっと体が落ち着いてきたと思った瞬間、顧問が練習開始の合図の笛を鳴らす。最近ではこの笛にトラウマを植え付けられそうになっている。ゾンビのように体をゆっくりと起こし、陽の矢に当たりに行く。

「今から5対5のミニゲームをする。ゴールを用意して。」

ゴールを用意しに行く者たち、ゼッケンとマーカーを用意する者たち、適当にふらつく者たちがそれぞれ動き始めた。ミニゴールが4つあるためサッカーコートを2つ、人数は30人ちょいだから1チーム5,6人になるな、と思いながらふらつく。

チーム分けがされる際は円になって番号で振り分けられる。一緒にプレーしたくないやつが数人、そいつらと一緒でなければなんでもいい。

コートが準備され、チームが振り分けられる。残念ながら最も苦手とするやつと一緒になった。そいつはメンバーの顔をぐるっと見て

「このチームくそ弱えー!」と大きな独り言を放つ。だが事実なのと、実際そいつは不動のレギュラーなため何も文句を言えない。

まず自分たちのチームからミニゲームが始まる。急に体が強張る。鼓動が一気に早くなり、少し走っただけで息切れをする。いつもこれだ。ボールが足元に来る。視界が急に狭くなり、パスを出す先を探している間に刈り取られてしまった。

「出すのおせーよ!早く判断しろ!」

また体が強張る。さっきよりも強く。プレーをしている間、ボールがこないことを願ったが数回ボールが回ってきてそのうち1,2回ほどしかうまくいかなかった。一通りミニゲームが終わり、その日の練習が終わる。今は夏休みのため、ほぼ毎日練習がある。しかし基本午前だけで練習が終わるため楽ではある。

制服に着替えてると、いつもの友人たちと近くのショッピングモールのフードコートで昼食を食べることになり、そのまま直行した。

「最近暑くね?今日40度超えるってさ。」友人の一人がざるうどんをすすりながら言う。

「こんな暑さじゃまともに部活できんよな。」

「それな。てかさ、進路どうする?面談の時に出さなきゃじゃん。」

友人たちの会話を聞きながら進路のことを考える。今度の三者面談の時に国公立大学コースか私立大学コースのどちらかにするかを決めるため、志望大学を書いたプリント出さなければならない。

あと半年で三年生か…。食べ終えたカツ丼のお椀を見つめながら考える。一応目指す大学はおおかた決めている。しかし…。

「なあ、お前ってさ、将来何なりたい?」

唐突に聞かれ、すぐに頭の回転を速くする。決めてはいるのだ。しかし口に出すのは恥ずかしい。最終的には「音楽関係かな。」と答えた。

自分には夢がある、というよりはできたのだ。それはバンドを組み、デビューすること。しかしなぜそれが恥ずかしいというのかというと、楽器、ましてや音楽のことなんてこれまでほとんど触れてこなかったからだ。理由としては単純で今になってはあるバンドに出会いそれに惹かれてしまった。今になってこんな中学生のような、しかも今まで楽器に触れてこなかったへなちょこがそんな夢を語れるわけがない。

帰路に立ち、大学のことを考える。今から芸大とか目指すなんて東大目指す並みに無謀だ。歌がうまいわけではない。むしろ苦手だ。だから結局無難に勉強を頑張ればいける大学にしたのだ。それなのになんでそんな夢を持つのか。それは心の中でうっすらと理解しているのだ、この社会じゃまともに生きていけないと。

家につき、ベッドに寝転ぶ。誰か自分を完璧な人間にしてくれないだろうか、と幻想抱きながら、暗闇の奥底へと眠りに落ちる。その奥にはまだ自分の知らない自分がいると知らずに。



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