夏にひとり

音崎 琳

夏にひとり

いつの間にコップに活けられたるすみれ


白一滴傘に咲きたる花便り


くつきりと影も明るし花筏


半分に割れずひとくち桜餅


水澄めり影は拾えぬ落としもの


良夜かな君とちいさな月旅行


黄落を蹴散らしてゆくスニーカー


秋薔薇あきさうびともに盗みし指さきに


観月や文隠す袖のほの白き


わたし宛だと思いたく星月夜


友ならば今触れてみて秋夕焼あきゆやけ


この路は行き止まりなり金木犀


口止めと知りて飲み干す月見酒


秋蝶の一頭の羽を裂く別れ


鬼灯も青から赤へ恋捨てり


蚯蚓みみず鳴く夜を親しいものとして


織女星 遠くにありて光るもの


外套の襟立てて何まもりたる


黴の香や目瞑るごとに積む地層



噴水の循環ひとり夏にゐる

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夏にひとり 音崎 琳 @otosakilin

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