「……はあ？　だから、できないからやってほしいと言ってるんじゃないですか！　あなたのお名前を伺っても良いですか？　タナカヨウイチ？　分かりました。後で本社に、お客の要望に『できない』の一点張りでまったく寄り添わず、解決してあげようという気持ちが一切感じられないタナカヨウイチという不親切なオペレーターがいたと報告しておきます。ご対応いただきありがとうございます、失礼します！　……はあ、本当に使えないったらないわ、あっ、お疲れ様でーす、今から休憩ですか？　え？　わたしの声、通路まで聞こえてました？　うわあ、店の方までいってたらどうしよう……、あ、よかったです。びっくりした。それより聞いてくださいよ、今、携帯の解約で窓口に電話したんですけど、全然繋がらなくて、……はい、電話窓口でしか受け付けてないんですよ、格安スマホってこれだから……。で、ですよ、繋がらなさすぎたんで、しかたなく契約窓口にかけたんです、……はい、そうですよ、それでそっちで解約手続きしてもらおうと思ったら、窓口が違うからできないの一点張り！　じゃあ、解約窓口に取り次ぐか、そっちから電話を寄越してくれるようにしてって頼んでも、できませんばっかりで、全然話を聞いてくれないんですよ！　なんでできないのかって聞いたら、連携していませんってわけわからないこと言って、「そんなの建前でしょ、面倒臭がらないでください」って言っても、申し訳ございなせんってロボットみたいに繰り返して、何か、こう、提案とかいないんですかね？　わたし、お金払ってる客ですよ？　声ばっかり申し訳なさそうにして、絶対めんどくせえとか思ってましたって。あー、腹立つ、タナカヨウイチ！　……そう、タナカヨウイチって人です。はきはきとできませんって喋るからそれも合わせて癪に触るったら、……え、いや、本社や消費者庁に訴えてやろうと思って名前聞いたんです。……ええ、もちろん、困っている客を蔑ろにするなんてあり得ませんよ、何様だっていうの。タナカヨウイチみたいな人は接客をさせちゃいけない人間ですね、断言します。……あ、お疲れ様でーす、どうかしましたか？　え、またあのジジイが来たんですか、アイツいっつも忙しい時間に来て、うだうだいらない話でレジ止めるから嫌いなんですよね、お前の後ろにいる客を見ろって言ってやりたい。……ですよ、ですよ、絶対に家に居場所のない定年オヤジの成れの果てですよ、うわ、みすぼらしい。ああいう男って本当に無理。それに比べて中華マンさんは良い人ですよね、口調は丁寧だし、ほにゃんとした穏やかな顔付きで、新作の中華マンが出るとすかさず買いに来るギャップもありです、何より！　ちゃんとありがとうって言ってくれるのが高得点！　育ちがいいんだろうなあ。クソジジイは見習えってんだ。そういえば最近会ってないんですよ、最後に来たのっていつでしたっけ？　……新しい中華マンが出た頃っていうと一週間前くらいですかね。その時に売り切れだったんならまた来てくれると思うんだけど、中華マンさんも来る時間帯がけっこうバラバラですからねえ。あー、癒されたい……、ん？　あ、もう休憩終わるじゃん！　あーもう、あの電話のせいだ！　おのれタナカヨウイチ、絶対に許さん！　客を馬鹿にしたツケは絶対に払わせてやる！　じゃ、お疲れ様でーす。中華マンさん、今日は来るかなー」