図書室の隅で『本物』を触れあわせて
かみさん
第1話
「——でさぁ! 佐倉の目つきがさぁほんとウザいの!」
図書室の隅。
身長よりも高い本棚に挟まれた小さなスペースで、友人の一人がうんざりした表情で言った。
「分かる! あいつ、いっつも私たちの胸元ばっか見てんの! バレてないとでも思ってんのって感じだよね」
「絶対気付いてないでしょ……鈴? 聞いてる?」
みんなが同調して、ストレスの発散とでもいわんばかりに悪口を告げる。
そんな中、不意に呼ばれた名前に私——浅倉 鈴は顔を上げた。
「ん? うん、聞いてるよ」
「ほんとぉ? なんかさっきから下向いててさ、鈴がここがいいって言うから来てるんだよ?」
「ごめんって。ちょっと考え事しちゃってさ」
「それ、聞いてないやつじゃん!」
薄茶色の前髪の向こうで「あははは!」と、一緒にいる友人たちが笑う。
三人の笑い声となればそれなりに大きさになった。そのせいか、それとも当たり前というべきか、私たちが談笑していた本棚の間を覗き込むように一人の顔が現れた。図書室の先生だ。
「図書室では静かにしてください」
「「「「はーい」」」」
気の抜けた返事。
その返事が本気のものでないと分かっていても、先生は咎めない。だって、注意すれば注意したっていう免罪符が生まれてしまうから。
「よし、先生にも怒られちゃったし……それにそろそろバイトにも行かないとだし、私は行くね」
「えー……もうちょっと時間あるじゃん。鈴、最近付き合い悪いよね」
「ごめんごめん! 今日はちょっと早く来てくれって言われててさ」
両手を合わせて笑みをみせれば、唇と尖らせた友人の一人が軽いため息。
「もー、しょうがないなぁ……今度は付き合ってよ?」
「おっけー」
私は床に落としていたカバンを手に持つと、友人たちにごめんと手を合わせながらその場を後にする。
そして、図書室の扉を閉め、制服の袖から一枚の紙を取り出した。
「今日は何が書いてあるかな?」
制服の袖から取り出したのは、折りたたまれた一枚の紙。
その中身を想像するだけで自然と気分が高揚しているのが分かる。
「っと、バイト行かないと」
楽しみは後で。
私は我に返ると、その紙をポケットにしまい込んだ。
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