汚濁の白
白都アロ
第1話序
「今年は例年より暑い夏になりそうです。」
ぼぅ、っとテレビと呼ばれる箱から流れる音を聴く。
天気には、あまり興味ない。家を出ることのない私にはあまり関係ないからだ。
ツマミを掴み、捻る。いくつかチャンネルを回し、女の人が歌っているチャンネルで止める。聞いたことのない歌だ。「ゲレンデ」とやらで意中の異性に告白する旨を歌っているらしい。よくわからないが、リズムが良い。
しばらくその番組に惚ける。
ぐぅ、と腹の虫が鳴く。お腹が、すいた。保存食を食べようかと思い、止める。今日はおじぃが作ってくれるかもしれない。
音の軋む廊下を歩き、おじいの部屋の襖の前に立つ。
「おじい、おはよう。」
今日も、返事はない。
「入るよ、おじい。」
手を伸ばし、手を下げ躊躇う。
しかし、意を決して、襖を開け、部屋に入る。
雨戸を開けていない薄暗い部屋に、私以外の、人の気配。
「あぁ、やっと起きた。おじぃ、お腹空いた。」
「あぁ、君のおじい様だったのか。」
知らない声がする。
「…誰。」
「おじい様の知り合いだよ。伝言を預かってる。」
「はぁ…。」
「先に行って、君を待つ。」
「それだけ?」
「それだけ。」
それだけなのか…。まだ暫く、この日々が続くのか…。
「どうする、君もおじい様のところに行くかい?案内ぐらいはできると思うが、多分。」
「いや、いいです。帰ってくるまで待ちます。」
「そうか。」
「ただ…。」
「ただ?」
「お腹が空きましたが保存食も飽きました。どうしたら良いでしょうか?」
「どうしたらって…、何か作れば良いだろう。」
「料理は、できない。」
「何故?」
「大してした事がないですし、する気もないからです。」
「…君は、一応女だろう。」
「女ですけど、女は料理ができる性別なのですか?」
「…いや、もう良い…。俺が、作るよ。」
「ホント!?」
「あぁ…。何が食べたい?。」
「保存食以外!」
「…そうか。わかった。適当に作る。だから。」
「だから?」
「先にシャワーなり何かで身体を洗わせてくれないか?長旅で暫く入ってないから、入りたい。」
「えー…。ご飯…。」
「シャワー。」
「…どうぞ。」
「ありがとう。」
「…じゃあ、案内するから、付いてきて。」
「あいあい。」
おじぃの部屋を出、薄暗い廊下を歩く。
「そだ、そだ。おじい様から、もう一つ伝言が。」
「え、何?」
「ワシがいない間、ワシの部屋には入るな。」
「…居ないのに、入ったって仕方ないじゃないですか。」
ボソッと文句を吐く。そして、気になった事を問う。
「そう言えば、さ。貴方、怪我してない?」
「…いや、していないが。」
これが、無味乾燥な日々の終わりだった。
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