犯人——柴田翠
あの日——私の机や椅子にごみが散らかっていた日から、そういうことは毎日行われるようになった。
教科書やノートがなくなっていたり、お気に入りの本が水に濡れて、文字が滲んでしまい読めなくなっていたり、机の中に忘れてしまったポーチにマジックペンで悪口を書かれたり。
本が濡れてしまったときには唇を噛んで涙を堪えていたが、悪口を書かれたポーチを見つけた日には堪えきれなくて家で泣いてしまった。
けれど、その出来事をいじめと呼んでいいのか。いじめとは、もっと過酷な出来事な気がする。それはいじめじゃないよ、と言われるのが怖い。だから、誰かに相談する勇気がでなかった。
だけど最近、私物のどこかしらに書かれる悪口が、ひどくなっているような気がする。
最初は『バカ』『くさい』という、まだ軽い言葉だけだった。けれど最近は、『きもい』『うざい』など、重い言葉が多くなってきた。けれど『死ね』『消えろ』などという言葉は書かれていないことが、不幸中の幸いだった。
毎日悪口を見るのは本当にダメージが大きいので、誰かに相談してこの出来事を止めてもらいたい。けれど、相談する相手がいない。
私はどうすればいいのだろう。このまま耐えればいいのだろうか? でもこのまま耐えていれば、この出来事が終わる前に私は壊れてしまう。
そんなことを考えていたときに浮かんだのは、星宮さんの顔だった。
相談できそうな人物は、彼女だけだった。けれど、彼女にまでうざいと思われたらどうしよう、と思うと、相談することはできなかった。
⚘ _ ⚘ _ ⚘
「次はどんな悪口書く?」
忘れ物をしてしまい慌てて教室に戻ると、中からそんな言葉が聞こえてきた。私は全開に開けられた教室の扉の前で、思わず足を止める。
「んー、そろそろ書いちゃう?」
「いやー、書かなくていいんじゃない?」
そんな話声と共に、キュッキュッ、とどこかにマジックペンで何かを書く音が聞こえた。
その途端、私の私物に悪口を書いている現場に出くわしたのだと理解する。
私の悪口を書いている人物を見るチャンスだ、と思い、私は恐る恐る教室を覗いた。
そこには、いつの日か廊下でぶつかってしまった女子生徒がいた。そして、マジックペンで私の忘れ物に何かを書く彼女を、三人の女子生徒が囲っていた。
たしか、クラスメイトだったような気がする。私はクラスメイトとあまり関わっていないので、名前はわからない。
脳内に彼女達の顔を焼き付けてから、踵を返した。
そして次の日、忘れ物にいつも通り悪口が書かれていたので、私にこんなことをしていたのは彼女達だと確信した。
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