続・聖なる乙女様は×××でした!~それぞれの未来へ~

向日 葵

プロローグ【終わって始まるprologue】

【終わって始まるprologue】


 魔王を退けて、マギーア王国は平和になった。

 多少の瘴気の被害はあるものの、要請があれば聖なる乙女としてその地に赴き瘴気を鎮め、普段は腐女子として、ついに仕事にまで発展した編集の仕事をするという夢のような生活になった。

 今はエミリーの処女作を世に出す準備で大忙しだ。


「でも変だなあ」


 ユイカはゲームの記憶を辿っていた。

 ずいぶんとゲームとは違う展開になってしまったせいで、なんだか世界樹の様子も違うし、なんだか自分ヒロインの結末も全然違う。


 そもそもだ。

 六人の守護者が集まってからが、恋愛パートの本番のはずだ。

 守護者を揃えてから、各地の瘴気ポイントを鎮めに行き、最後に魔王を倒すという流れのはずだった気がする。


 瘴気ポイントを鎮めに行く間にラブラブ恋愛スチル大発生だったような…。

 それが、瘴気ポイント鎮めるツアーが始まる前に、急に魔王が出てきて、あっさり退けてしまった。…という感じになってしまった気がする。

 世界樹だってゲームでは大樹だったけれど、苗木だし。


「まあ、ヒロインが腐女子でBL小説読みたさに王妃様まで巻き込んで、エミリーに小説を書かすとかあり得ないもんね」


 それに攻略目的なら、落としたいキャラから守護者にして、他の守護者のイベントにもしつこく連れて歩いて好感度を上げまくるところを、なるべくフラットに仕上げてしまったせいで、恋愛が発展している感じがしない。

 話の流れが変わっても仕方がないのかもしれない。

 少なくともユイカはそう思っていた。六人の気持ちも知らず、だが。


「そう言えば今日はファロ様が王宮に来ているんだったわ」


 ブーセ大峡谷の族長ファロは、ユイカとエドアルドとの約束通り、光の魔法石を提供してくれる為、王宮を訪れていた。

 その謁見にユイカも招かれており同席することとなった。


 つつがなく謁見は終わり、乙女と守護者とファロとでお茶会が開かれた。


「ユイカ、久しぶりじゃのう」

「ファロ様もお元気そうで何よりです」


 ファロは六人の守護者を、盲目の目でぐるりと見回した。

 途中でカインに目を止め、


「ふん、お主は無事命拾いしたようじゃな」


 と微笑み、カインは小さく頭を下げた。


「守護者の周りに精霊がふわふわと飛んでおるのう。それに、ユイカ、お前の力もますます増しているようだ」

「世界樹が生まれ変わったからでしょうか」

「そうじゃの…」


 ファロはじっとユイカを見つめた。

 正しくは見つめるようにユイカの方を向いた。


「やはり、世界を救った先にある望みには届かなかったのだな」


 ユイカは苦笑した。

 ファロの言うとおり、元の世界に帰るという望みはなくなってしまった。


「ファロ様が言っていた…心の泉が何か分かりませんでした」

「ふむ…」


 ファロは少し黙って守護者を見回す。


「お前以外の者は、泉が満たっておるようじゃがの」

「え?」


 ファロはユイカの手を取って握った。


「お前はこれからこの地に根付くために、新たな旅に出るだろう」

「旅…?」


 だって魔王は去って世界樹は救われた。

 続編でもあるというのだろうか。

 いや、続編は闇の国視点で書かれると言う話だったから違うだろう。

 せっかくBL小説を世に出せると言うのに、闇の国には行きたくない。


「今度は深く掘り下げてごらん。心の泉を豊かに満たしておくれ」

「…はい」


 そうしてファロはブーセ大峡谷に帰っていった。

 ファロの言葉を胸に、ユイカのこれからが始まろうとしていた。


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