背中の視線

おじさん(物書きの)

その間0.1秒

 ふと背中に視線を感じた。

 午後三時、この時間に帰宅してくるのは高校二年の長女と中学一年の長男だけだ。

 いや、可能性は低いが夫という可能性はある。以前、外回りで近かったからと家に寄ったことがある。

 しかし、この可能性は否定せざるをえない。考えてみれば夫は家の鍵を持って出かけないのだ。妻が家にいるという、安心感。それがあたりまえという傲慢な考え。それに私は拘束されているといえる。インターホンの呼び出しも電話も鳴っていない。夫という可能性は排除していい。

 時間から考えれば長男の帰宅時間ではあるが、長男であれば無言で私の背中を見続けるなどと言うことはありえない。まず第一声に「腹減った」や「おやつなに」などと言うはずだ。

 つまり、いま後ろにいるのは長女という結論になる。しかしなぜ無言で立ち尽くしているのだろうか。私、つまり母がごろごろとテレビを見ている姿に呆れ、軽蔑の視線でも投げかけていると言うことか。

 同姓嫌悪。色気づいてきた長女にとって化粧もしない、だらしのない身体の母など声をかけるまでもない。悲しいことだがそういうことなんだろう。それにしたってただいまの一言でもあってもいいのではないか。

 私は緩慢に振り向いた。

 誰。誰だこの男は。

 強盗? なんという大穴。予想外にもほどがある。

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