7/4 朝日とクローバー
真夏の太陽は、顔を出した瞬間から、熱気で街を焼いていく。
だから夏休みは、朝日が昇る前に散歩することにした。
夜が明ける三十分前。
もう空は明るくて、見通しが悪いこともない。
家を出てしばらく歩くと、彼女が待っている。
「おはよー」
笑顔で挨拶をする彼女。
近所に住む、幼なじみだ。
ショートカットの黒髪は、明るい彼女によく似合っている。
示し合わせたわけではないが、僕の散歩に、彼女は付き合う。
いや、彼女の散歩に、僕が付き合っているのか。
「宿題どこまで進んだ?」
歩きながら、彼女は何かと話題を振ってくる。
僕は前を見て歩きながら彼女に答える。
「半分終わった」
「うっそ。はやー!」
「早くないだろ。もうあと二週間で終わるし」
「私、まだ一ページもやってない!」
彼女は胸を張って答えた。
まったく自慢にもならないことを、堂々と言えるのも、彼女の強さで、魅力でもある。
「ね、終わったら見せて?」
「丸写しする気か?」
「いいじゃん」
「宿題は自力でやるもんだろ」
「真面目くんだねぇ」
彼女は笑いながら言う。
だから彼女は成績がいまいちなのだろう。
本人が気にしていないなら、僕が口出しすることではないが。
「あ、みてみて」
彼女が足を止めて、道端を指さした。
「クローバーだよ」
「雑草だな」
僕がそう言うと、彼女は非難するような目で見上げてくる。
「四葉のクローバーあるかもしれないでしょ?」
「いちいち探すの?」
「探さないの?」
「四葉があってもなくても、運なんて変わらないだろ」
「夢がないねー」
彼女はわざとらしくため息をつく。
けれど、また歩き始めた。
「探すんじゃないの?」
「夢のない人が一緒じゃ、テンション下がるもん」
「悪かったな。夢がなくて」
ほんの少し、言い方を間違えたかなと反省しながら返事をする。
だけど彼女は気にした様子もない。
話題を変えておしゃべりを続ける。
そうして、三十分はあっという間に終わって、彼女とはお別れ。
「またねー」
「明日な」
朝日が昇る。
僕はもう明日の散歩を心待ちにしながら、彼女に手を振った。
(終)
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