第2話 私を縛ってください!

「ただいまー」


//SE 廊下をパタパタと歩く音

//SE ドアを開ける音


「先輩、お留守番させちゃってすみません」


「えっ、なに買ってきたって? ふふふ、それは夜のお楽しみですっ」


「ねぇ、先輩?」


//耳もとへ近づいていく


「私が買い出しに行っている間、私の部屋で、なにしてたんですか?」//耳もとでささやく


「えっ、ゲームしてた? それだけ?」


「むぅ……」//がっかり


//SE ゲーム機を机に置く音


「今日もデイリー終わりましたか? それじゃあ、いっしょに寝ましょう」


//SE クローゼットを開ける音

//SE 布団を敷く音


「むぅ……」//不満そうに


「先輩、私のベッドでいっしょに寝てもいいんですよ? いちいち布団を敷くの面倒でしょう?」


「それに……、床で寝ると、先輩が遠くなっちゃう……」//小声でつぶやく


「は、はい? な、なんにも言っていませんよ?」


「そういえば、私、着替えないと。あっ、先輩? どこ行くんですか? トイレ行ってくるからその間に着替えろって」


「わ、わかりました……」


//SE 水を流す音

//SE ドアを閉める音


「着替え、終わりましたよ。それじゃあ、寝ましょうか」


「あっ、待ってください。電気は消さないでください」


「これから、夜のお楽しみをするんです。先輩、ベッドに座ってください」


「もうちょっと、私の隣に来てくださいよ。そうそう」


「それでですね……」


「先輩に、これをあげます」//耳もとでささやく


「……」//鼻歌をうたう


//SE ビニール袋をガサガサあさる音


「はい、持ってください」


「なんだこれって? 見たらわかるじゃないですか、ビニールひもです」


「そ、それを使ってですね……」


「……」//迷うように


「……」//意を決したように


「わ、私を縛ってくださいっ!」


「きゃっ!? な、なんで投げ返すんですか!? 私は本気ですよ! 先輩に縛られたいんです!」


「あっ、先輩! 逃げないでください!」


//SE 布団に潜り込む音


「先輩! 起きてくださいよ! 起きてくださいよー!」


//SE 身体を揺らす音


「むぅ……」


「わかりました。先輩がやりたくないなら、自分で縛ります」


//ベッドの上に乗る。声が少し遠くなる。


「これを、こうして……。こうやって……。ぐるぐるぐるって……」


//SE ビニールひもをいじる音


「で、できました! 先輩、見てください! ぐるぐる巻きですよ!」


「これで私は無抵抗です! 今がチャンスです! 先輩、やっちゃってください!」


「あっ、先輩起きた。えっ? あっ? あぁっ!?」


//SE デコピンされる音

//SE 布団に倒れる音


「な、なんでデコピンしてくるんですか~?」


「私も先輩も、今はクモなんですよ」//どや顔で


「厳密に言うと、クモは昆虫じゃないんですけどね」


「糸を張るタイプのクモの多くは交尾をする際に、カマキリと同じように、オスがメスに食べられちゃうことがあるそうです」


「なので、オスは、メスに食べられないよう、様々な戦略を持っているといわれています。クモの一種は、なんと、糸を使ってメスの体をぐるぐる巻きにして、メスが動けなくなった隙に、交尾をするそうです」


「実験では、オスグモの糸を出ないようにさせると、オスはメスに食べられちゃう確率があがってしまったとか。なので、メスを糸でぐるぐる巻きにするのは、オスが自身を食べられないようにするための戦略だと考えられています。ぐるぐる巻きにしてメスの動きを封じ込めたほうが、オスは交尾をする時間が長くなって、よりたくさんの精子をメスへ送り込むことができるようになったそうです」//だんだん早口に


「クモの交尾は命がけなんです。だから私も、先輩と命がけで……」


//SE 電気を消す音

//SE 布団に入る音


「あっ、先輩!? なんで一人で寝ようとしてるんですか!?」


「……暗いよー。……動けないよー。せ、先輩、助けて~!?」//泣き声で






  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る