虫愛づるカノジョ ~添い寝していると、彼女が交尾についてやたら語ってくるのだが~
宮草はつか
第1話 もたもたしてると食べちゃいますよ?
「もうこんな時間。先輩、もう寝ますよ?」
//SE 遠くから近づいてくる音
「先輩? なにやってるんですか?」
「えっ、まだゲームのデイリーが終わってない? またゲームばっかりやってぇ」
「仕事で疲れてるから、家ではゆっくり好きなことさせて? もう、仕方ないですね。でも、明日も仕事なんですから、デイリーが終わったら寝ますよ」
//SE ゲーム機を机に置く音
「終わりましたか? それじゃあ、布団、敷きますよ」
「うんしょ」
//SE 押し入れから布団を出す音
//SE 布団を敷く音
「ふふふ、先輩の家にお泊りするのは、これが二回目ですね。あっ、付き合い始めてからは、一か月経ってるんですよ。先輩、卒業間際に告白してくるんですもん。先輩は社会人で、私は大学生で、この先どうやってお付き合いしていけばいいかと思いましたが、就職先が大学の近くで良かったです。こうやってお互いのアパートを行き来するのも、楽しいですね」
「さっ、布団敷きましたよ。えっ、なんでひとつだけって?」
「むぅ……」//不満そうに
「私は先輩の布団で寝てもいいんですけど……。仕方ないですねぇ。ちょっと待っててください」
「うんしょ」
//SE 押し入れから布団を出す音
//SE 布団を敷く音
「もう、いったいいつになったら……。そろそろいいと思うんだけど……。やっぱり……。う~ん……。よし、こうなったら……」//小さくつぶやく
「は、はい? な、なんにも言っていませんよ!?」
「はい。二人分敷きましたから、寝ましょう」
「電気、消しますね」
//SE 電気を消す音
//SE 布団の中に入る音
「先輩と寝るのって、これで二回目ですね」
「布団、ちょっと寒いです。先輩の、そばに行ってもいいですか?」
//SE 布団の中をもぞもぞと移動する音
「えっ、近いって? いいじゃないですか、これくらい。恋人なんですから」
「ふふ、先輩の布団、あったかいですね。こうして先輩と触れ合うくらい近くにいると、落ち着きます」
「ねぇ、先輩?」//右の耳もとでささやく感じで
「……」//ゆっくりと息を吐く
「カプッ」//耳たぶをくわえる
「きゃっ!? 急にビクッてならないでくださいよ。あっ、待ってください。捕まえましたよー」
//横から抱き着く
「先輩の身体、あったかいです。このまま動かないでください」
//SE 布団の擦れる音
「えっ、覆いかぶさるなって? ダメです。だって……」
「もたもたしている先輩が悪いんですよ?」//左耳のそばでささやく
「……」//ゆっくりと息を吐く
「カプッ」//耳たぶをくわえる
「もぐもぐもぐ」
「きゃっ!? だから動かないでくださいよ。えっ、やめろって? 嫌です。私、お腹空いているんです」
「先輩を食べちゃうまで、やめませんからねっ」//意地悪な感じでささやく
//SE 布団の擦れる音
「ねぇ、先輩?」//真正面に見つめる
「せ、先輩も……」
「……」//恥ずかしがるように
「カマキリに、なってくれませんか?」//どや顔で
「カマキリは交尾中に、オスがメスに食べられちゃうっていうのは、有名な話ですよね」
「メスはまず、交尾中のオスの頭を噛みちぎって、体のほうを食べていくそうです。もちろん、食べられている間も、交尾は続いていますよ」
「オスは頭を食べられると、より多くの精子をメスに渡すようになるそうです。それに、オスを食べたメスは、より多くの卵を産むようになるそうです。つまり、食べられたオスの体は、メスの卵を作る栄養になっているということですね」
「飼育下では、カマキリの共食いはよく見られる行動のようですが、実際、野生でのカマキリの共食いは、およそ三十パーセントの確率でしか起きないそうです。やっぱりオスも、食べられたくないんでしょうね。メスに慎重に近づいていって、交尾を済ませた後は、一目散に逃げていくそうです。食べられちゃうのは、よっぽどメスがお腹を空かせていたか、あるいはオスがもたもたして逃げ遅れた場合なんだそうですよ」//だんだん早口に
「だから、私は今、カマキリなんです。先輩がもたもたしているから、食べちゃうことにしたんです」
「……って、あれ? 先輩?」
//SE 肩を揺らす音
「せんぱーい? 寝てる?」
「むぅ……」//がっかり
「おかしいなぁ。これで上手くいくと思ったんだけど……」
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