貴方

シジマ

第1話

私は貴方のことを愛してます。でも何故でしょう。貴方のことを愛せば愛すほど私は寂しくなるんです。胸が痛くなります。あぁ貴方を憎みます。だって、貴方さえ居なければ、私はこんなに胸が痛くなることは無かったでしょうから。

貴方のその艶やかな長い髪、しっとりとした黒色は私のこの腐った茶色い髪を余計に嫌いにさせます。貴方の細く長い指と私の太く短い指を絡ませたい。貴方のふくよかな胸に私のこのゲスい顔を埋めたい。でもきっとそれは物理的には出来るでしょうけど本当の意味では出来ません。私がどれだけあなたに触れたとしてもその行為は私と貴方の関係を友達からは進めさせてくれない。なぜ貴方はこの世に存在するんですか?あなたさえ居なければ。せめて貴方が女じゃなければ良かった。男に生まれていてくれれば、私は貴方を純粋に愛せた。なぜ私と同性で生まれてきたんです?この問いには例え貴方でも答えられまい。貴方はいつだって私が一番欲する瞬間に一番欲する言葉をかけてくれる。でもきっとこの問いには貴方でさえも絶句するはず。それほどにこの問いはあってはならない汚らしい問いなのですね。どうぞ忘れてください。分かってる。きっと本当に悪いのは同性しか愛せないように生まれた私なのです。

貴方のことを知ったのはあの夏。私はずっとズレていました。周りの女の子たちは高校生になった瞬間いきなり男の子たちに触れ合うようになりました。中学生の頃はあんなにもスキンシップをとるのを恥ずかしがっていたのに、何がそうさせるんでしょう?私は今まで「好き」という気持ちを理解したことがありませんでした。友達達の恋愛についての話にも全くついていけず、私はただ気色の悪いニコニコ笑いを浮かべて黙って頷くのみでした。

昼下がりの体育、私はあの日生理に苦しんでいました。朝からずっと倦怠感のようなものは伴っていましたが、私は気のせいだと思っていたのです。でもそれはいきなり頭痛となって次に腹痛となって襲いかかってきました。ぼーっとしていた私は飛んできたバスケットボールに顔面キャッチをしてしまい、気づけば保健室の天井が見えました。

「大丈夫?」

隣をむくと暖かい日光を浴びながら貴方が微笑んでいました。本当に、美しかった。

それから私は貴方と仲良くなった。あの日、貴方も体調が悪くて保健室にいたのは偶然なんかじゃないと思います。そして私は気づいたのです。私は貴方が好きだということ、そして、今まで私が同性愛者であり、そのせいで今まで友達達の恋バナを理解できなかったこと。私は嬉しいのと同時に絶望しました。

貴方が私に「気づいてるよ、でもごめんね、」と言ったあの瞬間を、私は、忘れられない。

刺す。刺されてしまえ。私のこの言葉に。この手紙は私がこの世に初めて、そして最後に残せる、魂からの言葉の、手紙です。

私はもう行きます。さようなら。

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貴方 シジマ @sss1206

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