第2話 そんなところ、触っちゃダメだよ…

 体育館で校長先生といった偉い先生達の長い話を聴いて、入学式は終わった。そのあと教室に戻ってきたけど、次は何をするんだろう…?


「次やるのは自己紹介よ。1人ずつ前に出て話してちょうだい」


自己紹介…。担任の天笠先生の言葉を聴いて、わたしのテンションは下がる。

人前に出るだけでも嫌なのに、自分のことを話すなんて…。


けど自己紹介がうまくできるかどうかで、1年の過ごし方が変わると言っても過言じゃない。第一印象が大切なのは、前々からお母さんから聴いているからね。


だったら頑張らないと。わたしは順番が来る間に、頭の中で予行練習を繰り返した。



 ……いよいよ次はわたしの番だね。うぅ、緊張し過ぎてヤバいよ~。


「次は…、春川さんね」


「はい…」

天笠先生に呼ばれたので、わたしは席を立って教壇に向かう。


その間も、多くの子にジロジロ見られている…。今更だけど、わたし変な髪型してないよね?


…教壇に立っているので、クラスメート全員が見える。先生ってここで授業できるから凄いよね。わたしは立つだけで精一杯だよ…。


「それでは春川さん、どうぞ」

横にいる先生が指示する。


「はい…。わたしは“はりゅ”…」


春川を噛んで“はりゅ”になっちゃった。もう最悪…。でもこのままじゃ終われないよ。すぐ言い直さないと。


春川はるかわ莉子りこです。よろしくお願いします」

ペコリと一瞬頭を下げる。


下げ終わった後、拍手するクラスメートのみんな。恥ずかしくて見渡す余裕がないけど、クスクス笑っている人はいないよね…?


「はい、ありがとう。次は…」


やっと終わったので、わたしは逃げるように教壇を降り自分の席に座る。噛んだわたしの第一印象は、どうなるんだろう?


…考えるのが怖いから、他の人の自己紹介を聴くのに専念しよう。



 無事みんなの自己紹介が終わった。噛んだの、わたしだけだったよ…。


「自己紹介お疲れ様。次はHRホームルームになるんだけど、その前に休憩時間になるわ」

それだけ伝えると、天笠先生は教壇を降り教室を出て行った。


休憩時間ってことは、トイレに行けるね。早めに行っとこ。

そう思った時に、携帯のバイブが鳴る。先生いないし確認しよう。


…お母さんからだ。どうしたんだろう?


『急にパートのシフトを代わることになったわ。家のカギ、持ってるわよね?』


お母さん大変だな…。家のカギは…、ちゃんとあるね。


『あるから心配しないで』

返信した後、わたしはトイレに向かう。



 自己紹介で失敗したのはわたしだけ…。何度考えても恥ずかしいよ~。

そんな事を考えながら、トイレに入る。


トイレの場所については、体育館の行き帰りでチェックしたから大丈夫。

これから何度も使う所だもん。しっかり確認しないとね。


……入ったところ、個室は5か所あるみたい。扉はみんな閉まってる。とりあえず入り口から一番近いところの個室に入ろう。


…扉にカギがかかってるようには見えないので、扉を開けることにした。



 「きゃ!?」

個室内の便座に座ってる女の子と目が合い、悲鳴を上げられた。


まさか人がいるなんて…。うっかりカギをかけ忘れたとか?


「ごめんなさい!」

すぐ扉を閉めるわたし。


「ねぇ、春川さんだよね?」

他の個室に向かう前に、わたしの名前を当てられた。何でわかるの?


「そう…だけど…」


「あたし、同じクラスの井口いぐち真佳まか。わかるかな? 莉子ちゃん?」


「井口さん…。うん、わかるよ」

何とか思い出すことができた…。


「莉子ちゃんって、大人しそうなのにHなんだね~。使用中の個室に入ってくるなんて、ダ・イ・タ・ン♡」


からかうように話す井口さん。怒ってはなさそうだけど…。


「だって、カギかかってなかったし…」


「カギ? あたしはかけないんだけどな~。莉子ちゃんはかけるの?」


「もちろん。外は当然だけど、家でもかけるよ」

もしお父さんがうっかり入ってきたら…。


「ホントに? 真面目というか、几帳面というか…」


井口さんと話すのは良いけど、そろそろ限界が近いよ~。


「井口さん。話の途中で悪いけど、済ませて良いかな?」


「いいよ。でも済んだら洗面台のとこで待ってて。話があるから」


「わかった」


わたしは井口さんがいる個室から1か所空けた個室に入って済ませた。

…やっぱり怒ってるから、注意するつもりなんだよね?


わたしが悪いしクラスメートだから、逃げるのはなぁ…。これからのためにも叱られるしかないみたい。



 トイレから出ると、洗面台付近に井口さんがいた。


「話って何かな? 井口さん?」


「その前に手を洗いなよ」


「うん。そうさせてもらうね」

わたしは洗面台前に立ち、手を洗う。


「さっき莉子ちゃんにパンツ見られたから、代わりに見せてもらうよ♡」

わたしの後ろに立っている井口さんはしゃがみ込み、スカートをめくってきた。


「何をするの? 井口さん?」

手を洗っている最中だから、スカートを抑えられない。


「可愛いパンツとお尻だね♡」


シンプルな無地の黒い下着なのに…。どこが可愛いんだろう?

って、そんな事はどうでも良いや。


「やめてよ」


体勢を変えずに、濡れた手でスカートを抑える。本当は拭きたかったけど仕方ないよね。


「さっき言ったでしょ? あたしは莉子ちゃんにパンツ見られたんだよ? だったらあたしも見て良いじゃん」


「あんな一瞬で見る余裕なんてなかったよ」

わたしは振り返り、しゃがんでいる井口さんを見下ろしながら伝える。


ひざあたりに下着があった気がするけど、うろ覚えだなぁ。


「口では何とでも言えるよね~。…だったら『個室に入ったおしおき』ってことでどうかな? 莉子ちゃん?」


それを言われちゃうと、言い返すことはできないね…。井口さんの気が済むまで謝った方が良さそう。


「本当にごめんね、井口さん。わざとじゃないんだよ…」


「怒ってないから気にしないで。けど、莉子ちゃんのパンツ見てテンションが上がっちゃった♡」


そう言って井口さんはまたわたしのスカートをめくり、を下着越しに触ってきた。


「そんなところ、触っちゃダメだよ…」


「あたしの中学では、当たり前にやってたんだけど…」


「そう…なの?」

なんか変な気分になってきたよ…。


「うん。あたし小中と女子校だったんだけどさ、仲が良い子同士はもちろん仲良くしたい子に対しても、こういうスキンシップをとってたんだ~」


「それ…、井口さんがいた学校だけだと思う…」


「そうなのかな~?」


高校で初めて女子校に入ったわたしには、よくわからないなぁ。わたしが間違っているのか、井口さんが間違っているのか、判断することができない…。



 ……井口さんにを触られ続けたことで、声が出そうになる。わたしは頑張って我慢してるんだけど…。


「どう? 莉子ちゃん?」

変わらずしゃがんでいる井口さんが訊いてくる。


「……」

声を抑えるのに必死で、答える余裕がないよ…。


「今回は、これぐらいにしよ」

彼女は突然触るのを止め、立ち上がる。


「はぁ…はぁ…」

やっと終わった。疲れたよ…。


「さっき言った通り、こういうスキンシップは中学の時に何度も観てるんだ~。だから今度は、莉子ちゃんがあたしにやってよ♡」


「えっ!? それはちょっと…」

こんな恥ずかしいことをやるのは…。


「ざんね~ん。それじゃ、今度もあたしがやろっと♡」

井口さんのやる気は変わらないみたい。


「もうそろそろ休憩時間終わるよね? 戻ろっか、莉子ちゃん」


「そう…だね」

わたしは井口さんに続いてトイレを出た。

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