【ダンジョン回】執事、うっかり無双する
《
私の目の前にいたのは、絶望的なまでに巨大で強大な、漆黒の闇に包まれたドラゴンだった。
『ガアアアアアアア!』
「くっ……ここはダンジョン最下層か? そしてこいつは……間違いない! 《暗黒深淵ダンジョン》のボスの“邪竜”だ!」
私は配信で見たことがある。上級者パーティが無惨に壊滅される様を。
「ッ!」
私はとっさにスマホで配信を再開させる。自分の居場所を知らせるために。例え、誰かが助けに来るのが望み薄だと分かっていても……。
《アリスちゃんが深淵ダンジョンの最下層にいる!》
《深淵を覗く時、深淵を覗いているのだ……》
《出口側に邪竜がいる……。最悪だ……》
《アリスちゃん逃げて!》
「逃げなくても、別にアレを倒してしまえばいいだけさ!────กินความมหัศจรรย์ของศูนย์สัมบูรณ์!」
私は詠唱を開始する。
「『アブソリュート・ゼロ』!」
私は“氷雪系最強”の魔法を放つ。すると邪竜は瞬時に氷付いた。
《やったか!?》
《やったか!?》
《やったか!?》
《やったか!?》
──しかし無情にも氷はパリンと割れ、邪竜が無傷で現れる。
「私の最強魔法でこれか……。打つ手なし……。フフッ……私もこれで終わりか……」
『グオオオオオオオオオオ!』
邪竜の無慈悲な爪の一撃が私を襲う。スローモーションに見え、今までの人生の断片がフラッシュバックする。これが走馬灯という奴か。
「あぁ、最後にリオの顔が見たかった……なぁ」
私は静かに目を閉じる。
《うわあああああ!》
《アリスちゃああああああん!》
《誰か助けてえええええ!》
《もう見てらんないよぉ!》
《あああああああああああ!》
《アリス!アリス!アリス!アリスぅぅうううわぁああああああああああああああああああああああん!!! 》
「────?」
いつまで経っても攻撃がこない。私が恐る恐る目を開けると──
「遅くなってすいませんでした、お嬢様」
私の世界一頼りになる執事が、そこにはいた。
そしてリオはなんと邪竜の爪の攻撃を、食事用フォーク1本で止めていた。
「リ、リオ!? 助けに来てくれたのか!? しかしどうやってここまで!?」
「ダンジョンの隅々まで捜索していたら、こんな時間になってしまいました。申し訳ありません」
《邪竜の攻撃をフォーク1本で!?》
《ありえねぇだろ!》
《しかもあの浅い階層からこの最下層までを、この短時間で踏破する……だと》
《そんなバカな!?》
《oh……crazy……》
「──よっと」
彼は悪竜の爪を止めているフォークを、まるでバターでも切るかのように横に滑らせる。
『グオオオオオオオオオオ!?』
《あの悪竜の爪が吹っ飛んだ!?》
《嘘だろ!?》
《上級者のパーティが手も足も出なかったんだぞ!?》
《一体どこのどいつだ!?》
《ほげええええええええwwwwww》
《うるさいですね……》
「お嬢様はご多忙です。どうぞお引き取りを」
『グオオオオオオオオオオ!』
邪竜は
「全く……お嬢様が日焼けしたらどうするんですか……」
リオは日傘用の傘を回転させ、その風圧で炎を全て弾き返してしまう。
邪竜は自らの炎に包まれ、もだえ苦しんでいる。
『グオオオオオオオオオオ!?』
《どうなってんだアレw》
《あのすごいブレスを日傘で!?》
《最近の日傘ってすごいんだな……》
《日傘どこに隠してたんだw》
《訳わからんww》
《やばすぎでしょw》
邪竜は逃げようとしたのか、燃えながらも飛翔する。
「今夜はドラゴンステーキですね」
リオはどこからか取り出した大量のナイフを邪竜に向かって、投てきする。
凄まじい轟音を奏でながら、
「ミディアムレアってところですかね」
リオはどこからか取り出した大皿に、落下するドラゴンの肉を乗せ、香辛料をまぶし始めた。
そしてどこからか取り出した、ナイフとフォークと椅子とテーブルと共に私に皿を寄越す。
「お召し上がりくださいませ、お嬢様」
「あっ、はい……」
あっけに取られた私は、言われるがままにドラゴンステーキを口に運ぶ。肉汁がブワッとあふれ、口の中でとろける。今まで食べたどの高級牛よりも圧倒的に美味である。
「ド、ドチャクソうまいじゃあないかコレェ!」
「お褒めに預かり
リオはうやうやしく礼をする。
《ええええええええええええ!?》
《邪竜がドラゴンステーキになったwww》
《うまそうだな……》
《え!! あのドラゴンでステーキを!?》
《展開が意味不明過ぎてついて行けねぇ!》
《執事すげえええええええええ!》
《あああああああああああああああ!》
────しかしこの時リオは気づいていなかった。アリスが未だに配信をしていたこと。そして、その同接人数がアリスの人気とハプニングも相まって、100万人に達していたことを。
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