【完】お嬢様のダンジョン配信のお手伝いをしていた執事、うっかりボスを倒してしまい、大バズりしてしまう

腹ペコ侍

【ダンジョン回】執事、ダンジョンへ行く

 現代にダンジョンが現れてからはや数十年。ダンジョンからあふれる魔力やモンスターによって、世界は激変してしまった。


「さぁ、今日もダンジョン配信始まるよ君達!」


 淡い青色の髪と紅い瞳のお嬢様が、配信の開始を告げる。


《待ってました!》

《お嬢の配信だけが生きがいだぜ!》

《アリスちゃ〜ん!》

《今日も綺麗だね!》


 彼女の名は“天王寺てんのうじアリス”。16歳にして、“あの”天王寺財閥の当主という肩書を持つスーパー天才少女である。


「今日も綺麗──か。そうともそうとも! 私の執事“達”は優秀だからね! 私をバッチリ綺麗に撮影してくれるのさ!」


 アリスは明るい笑顔でボクにウィンクをする。ボクは今、執事として彼女のダンジョン配信の撮影をしているところだ。


「(ふふっ、裏方のボクまで褒めて下さるなんて、相変わらず優しいお方だ)」


 ボクの名前は“夜桜よざくらリオ”。モンスター襲撃により両親を無くし、孤児だったボク“達”を拾ってくれた天王寺家に仕える執事だ。


「(天王寺財閥当主という多忙な身でありながら、ダンジョン配信まで行うなんて、どこまでお嬢様は超人なんだろう)」


「お嬢様、浅い階層とは言えダンジョンです。お気をつけ下さい」


 配信でハイテンションなアリスをなだめている金髪碧眼きんぱつへきがんの少女は“夜桜リコ”。


 ボクの双子の妹で、お嬢様の侍女じじょ、そしてパーティの回復役を務めている。


《くぅ〜、リコちゃんも可愛いんだよなぁ!》

《クールなメイド最高かよ!》

《あんなメイド俺にも欲しいよぉ……》

《もう給仕できそうな体だね……》


「ふふっ、褒められているよ? リコ」


 アリスがリコに言葉をかける。


「わ、私には、もったいない御言葉です……あぅ」


 リコは顔を真っ赤にしてうつむいている。相変わらず照れ屋だなリコは。


「(お嬢様、敵です!)」


 ボクはハンドサインでモンスターの襲来をアリスに伝える。


「おっと、モンスターか。低級ランクのゴブリンが3体。楽勝だね」


 アリスは呪文の詠唱を始める。


「────บดขยี้น้ำแข็ง ศัตรู」


『ゴブゴブゴブ!』


 ゴブリン達が叫びながらアリスに殺到するが──


「氷漬けになりたまえ『フロストロック』」


 アリスの氷魔法によって、ゴブリン達は瞬時に凍りつく。そしてアリスが指をパチリと鳴らすと、凍ったゴブリンは粉々に砕け散ってしまう。


《お嬢の氷魔法たまんねぇ〜!》

《天王寺が誇る、最強無敵の氷姫!》

《私もアリス様に氷漬けにされたい……》

《やっぱお嬢はすげぇや!》


「やぁやぁ、君達、応援ありがと〜!」


 アリスはカメラに向かって、にこやかに手を振っている。お嬢様なのに、こういう細かな気配りが出来るところが人気の秘訣なのかもしれない。


「────ん?」


 アリスが軽やかにステップをしたその瞬間、カチリと何かが作動する音が聞こえた。


「これは……うわッ!」


 アリスの周囲の空間が歪んでいる。強制転移の罠“ワープ”だ。


「──お嬢様、手を!」


 ボクは必死にお嬢様に手を伸ばす。


「リ、リオ……」


 一瞬、間に合わなかった。アリスはこつぜんとボクたちの前から姿を消してしまう。


「…………」

「に、兄さんどうしましょう!?」


 リコがオロオロとうろたえている。


《罠だ! これは罠だ!》

《ワープの罠はやべぇぞ!》

《どこの階層に飛ぶか分かったもんじゃねぇ!》

《下層に行くほどモンスターは強くなる……。もし最下層にでも飛んでしまったら……》

《こんな浅い階層のダンジョンにワープの罠なんて聞いたことがねぇぞ!》


「リコ、このカメラを持っていてくれないか?」


 ボクはリコにカメラを渡す。


「ど、どうするんです、兄さん?」

「なに、ちょっと迷子になったお嬢様を探しに行くだけさ」


 ボクはリコにマジックアイテム“魔除けの結界”を使用する。このアイテムは一定期間、ある程度のレベルのモンスターを寄せ付けない効果を持つ。


「ここで大人しく待っているんだよ、リコ」

「はい……待ってます。お嬢様を助けられるのは兄さんしかいません!」



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