コタロウへ

ちょっと反抗的なところのあるおまえのことだから、父さんたちのこと見守るんだって言い張って、きっとまだ神様を困らせているのだろうね。おまえが旅立ったあの日からしばらく、父さんは泣く以外のことはほとんどしていませんでした。でも、コタロウがまだ父さんのことを見守っているかもしれないと考えると、自分のかっこわるい姿なんて見せられないと思えた。父さん、がんばるからずっと見ていておくれよ。父さんもコタロウみたいに、かっこよく生きてやるからな。

 

九年、本当に強く生きたな。大往生だ。おまえは父さんの自慢の子だ。


感情豊かなおまえに、父さんは日々元気づけられていた。夜おそくに帰った時も、むっくり目を覚まして、寝ぼけながら玄関で出迎えてくれたこと。休みの日はよく父さんと母さんとコタロウの三人で、サツキ公園で遊んだこと。そこで父さんと母さんがへとへとになっても、コタロウはずっと元気だったこと。たまに近所の友達(ヤマトくんだっけ?)とけんかして、わんわんないていたこと。でもすぐに仲直りして一緒に遊んでいたこと。病気になったときは病院をあちこち巡ったけれど、次の日には嘘のようにぴんぴんしていたこと。たまごボーロが大好きだったこと。らんらんとしていてきれいな瞳。鉄パイプでも通っているかのような凛々しい背筋。目を閉じれば、今もありありと思い出せる。最高の、家族の一員だった。

父さんと母さんがそっちに行くのはしばらく後になる。いま、母さんのお腹にはお前の弟か妹がいるんだよ。どっちになるかはわからないけれど。コタロウはお兄ちゃんになるのさ。あと九か月くらいで生まれてくる。父さんと母さんは、その子をお前くらいかわいがって育てる。家族が増えるけれど、その子のことも見守ってくれると嬉しいな。


それと、言わなきゃいけないことがある。ごめんな。今年は父さん、お墓参りに行けなくなっちゃった。病気になった人の面倒を見なくちゃいけない。常にウイルスに関わる仕事だからなかなか帰宅できないんだ。大変だけど、誰かがやらなきゃいけない仕事だから頑張ってくるよ。母さんは行くから、久々に話を聞いてやってくれ。父さんのかっこわるいエピソードは聞かなくていいぞ。


じゃあな。あんまり神様にわがまま言うなよ。

                      ずっとおまえが大好きな父さんより


 追伸。神様に伝言をたのめるかな? うちのコタロウは、ドッグフードはセミモイストタイプしか食べませんよ。高いし保存はきかないから、面倒ならたまごボーロでも大歓迎ですよ、ってね。

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少年は居ない くいな/しがてら @kuina_kan

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