私には向かない仕事
おじさん(物書きの)
あ……、呪いませんか?
「悪魔のご用はありませんか?」
扉の隙間から顔を覗かせ、私のことをジロジロと値踏みするおばさんの視線は冷たい。
「相手に気づかれることなく、呪いの力で懲らしめたいとか」
「変態!」
私たちのことに気づく人がいたとしても、大抵の人の反応はこんなもの。好きでこんな格好してるわけじゃないのにな。
「おい、変態悪魔め。俺っちのテリトリーでうろうろするなと言ってるだろうが!」
「痛っ」
天使が放った矢がお尻に刺さる。
「やめてよっ」
「ほら逃げろ、そら逃げろ」
「はあ……」
「はあ……」
なんとか公園まで逃げ、ブランコに座ってため息を吐くと、隣のおじさんとシンクロした。やつれて不幸オーラを出しまくっている。
「おじさん、悪魔の力とか借りたくないですか?」
「……ついに幻覚を見るようになったか……」
「違いますよ、現実ですよ」
おじさんは乾いた笑い声をあげた。
「えーとほら、恨むぞこのヤローみたいな人いるでしょ? 呪ってみませんか、すっきりしますよ」
「いや、いいよ」
「えーでも……」
「誰が悪い訳じゃないんだよ。仕事も家庭も、わたしには向いていなかったんだろうね」
「あー……わかりますそういうの」
「はあ……」
「はあ……」
「あ、家庭って、お子さんとかは?」
「いるよ、君くらいの娘が」
「え、260歳ですか?」
「いや……17かな」
「ああ、そうですよね」
「元気でいればいいがな」
「調べてみましょうか?」
「そんなことができるのかね?」
「簡単ですよ」
「では頼もうかな……」
「娘さんのこと思い浮かべてくださいね」
おじさんの思念とリンクした人間を捜す。
「見つけました」
「……おお! 元気そうかね」
「えーと、口を塞がれて、複数の男の人に羽交い締めにされて車に押し込まれたところですね」
「な……何だって?」
「あっ、これって拉致ってやつじゃないですかね」
「ど、娘はどこだ! 場所は、場所はわからないのかね!」
「お、落ち着いて。あ、結構近くですよ」
「連れて行ってくれ、頼む!」
娘さんが拉致された場所に着くと、おじさんは私の制止を振り切って建物の中に飛び込んだ。おじさんが複数の男たちに敵うはずもなく、程なく瀕死の状態になった。
「おじさん、おじさん。彼らを呪い殺しませんか?」
おじさんへの暴行はなくなり、男たちは娘さんの方に歩き出した。幸い、彼らに私は見えていなかった。
「どうしますか?」
長い沈黙は娘さんの悲鳴で途切れた。
「……頼む助けてやってくれ」
その悲鳴は男たちの悲鳴に変わり、そして静かになった。
「おじさん、さよならです」
「……? ……どうした?」
「契約書なしに力を使うと消えちゃうんですよね、私。だからさよならです。……やっぱり私、悪魔向いてなかったなあ——」
私には向かない仕事 おじさん(物書きの) @odisan_k_k
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