第19話 松代藩士となる(繁信16才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
サクラが咲く季節になり、参勤交代で藩主の真田幸道が松代へもどってきた。その翌日には、繁信が幸道に呼ばれた。
「久しいの。江戸の仙台藩屋敷以来だ。また会いたいと思っていた」
繁信はかしこまっていた。そこに家老の真田源斎が口添えをした。
「繁信殿、我らは縁戚。そんなにかしこまることではない。どうぞ、もう少し近うへ」
「そうだ、そうだ。従兄弟の子ではないか。ましてや、同い年の仲だ。そんなに遠慮するでない。まずは、先日の山賊退治の話をしてくれぬか? 山賊の首領をやっつけたのは、そちだと聞いたぞ」
「いえ、村上和之進殿が、山賊の首領と立ち合って、疲れはてたところを私が左手首を斬り落とし、配下の者が投げた網にからんで動きが取れなくなったところを、殿の家臣の皆さまがとどめをさしたのです。第一の功労者は村上和之進殿、第二の功労者はとどめをさした家臣の皆さまです。拙者はお助けしたまでのこと」
「村上は、お主のことを誉めておったぞ。お主が手首を斬り落とさなければ、もっと多くの藩士が死んだろうと言っておった」
幸道のその言葉に
「恐縮でございます」
と繁信は答えるのみであった。
次に、真田源斎が褒美について話をきりだした。
「殿、こたびの褒美の件ですが・・・」
「そうそう、そのことじゃ。繁信、まずは100石どりで召し抱えたいが、いかがかな?」
「ありがたき幸せ」
繁信は、これで正式な仕官となることを心から喜んだ。
「領地は、妻女山一帯と油川の村じゃ」
その土地を聞いて、繁信はハッとした。
「そこは、碓氷の面々に・・・」
と、不思議な顔をする繁信に源斎が
「碓氷の面々を家来にすればいいではないか。藩としても、よそ者に土地を与えるわけにはいかん。お主が領主として、統治すればいいではないか」
「確かにそうですが・・・拙者が山賊の首領ですか?」
「元山賊の首領じゃ」
という源斎と繁信のやりとりを聞いて、幸道は笑っていた。
「ところで、おじご。加代殿と繁信の縁談の件だが、2年待てぬか?」
幸道は、笑顔から真顔に変え、源斎に辛辣な話をしてきた。
「2年ですか? 何ゆえ?」
「藩士たちが納得するまでだ。新参者である繁信が、早々に城代家老の惣領となることに反発する者もいる。今回の山賊退治はまだ初歩だ。これから、どれだけ藩の力になるかを皆に知らせるまで、待っていいのではないか。ましてや加代殿はまだ14ではないか。あと2年待っても問題はなかろう」
「わかり申した。では、次の参勤交代で、松代にもどられるまで待ちましょう」
源斎はかしこまって幸道に答えた。幸道は上機嫌で、その夜を過ごした。
翌日から、繁信は正式な藩士として働くこととなった。役目は講武所補佐。師範の村上和之進は足が不自由になったので、床几(折りたたみの腰掛け)に座っての指導しかできなくなっていた。そこで、稽古の相手は繁信がすることになったのだ。繁信よりも年上の者も多かったが、繁信の動きにはだれもついていけなかった。
油川の村は、宍戸左衛門が村長として統治することとなった。碓氷からくる昔の仲間や他の村から流れてくる者も含めて、その数は50を超えている。時々、妻女山に登り、山の幸を取ったり、炭焼きをするなどして、平穏に暮らしていた。繁信は3日に一度は顔をだし、左衛門ら村の主要な者たちと酒を酌み交わしていた。
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