第8話 上田にて(繁信15才)
空想時代小説
宮城県蔵王町に矢附という地区がある。そこに西山という小高い丘があり、その麓に仙台真田氏の屋敷があったといわれている。ただ、真田信繁(幸村)の末裔とは名乗れず、白石城主の片倉の姓を名乗っていた。その真田の名を再興するべく、信繁の孫である繁信が活躍する話である。
碓氷峠で山賊の宍戸左衛門らと別れた翌日、繁信は上田城下にいた。真田が造った上田城は破却され、今では仙石氏が建てた城が建っている。それでも難攻不落の城というのは、よくわかる。南側の崖の下には、尼ケ淵といわれる川が流れている。天然の堀である。北側には百閒堀といわれる大きな堀がある。西側は急峻な崖で、攻めるには東側しかない。そこには大手門を中心にして左右に櫓がある。ふつうに攻めたのでは弓矢や鉄砲の餌食になるだけであった。
上田城を一回りして、松代へ向かおうとした時、三人組の武士に呼び止められた。
「待たれい! 先ほどからお主を見ておったが、怪しい素振り。どこぞの密偵か?」
「いえいえ、そんなことはありませぬ。これから松代藩へ文を届けるところ。その途中に天下の名城を見てみたいと思っただけでござる」
「その割には、じっくり見ておったではないか。絶対に怪しい。吟味いたすゆえ、番所へまいれ」
と、3人に囲まれ番所へ連れていかれた。しばらく待っていると、上役と思われる武士がやってきた。番所の土間に座っている繁信を一瞥すると
「わしは、見回り役村上吉右衛門。そちの名と所属を名乗られよ」
と言ってきたので、繁信はうやうやしく
「われは、仙台藩主綱村公配下片倉小十郎の家臣、片倉源四郎繁信」
「あの、鬼小十郎殿の家臣か? 同じ片倉の姓とはどういうことか?」
「小十郎殿の母方の血筋です」
「小十郎殿の母といえば、真田信繁公のご息女。お主は真田の血筋か・・?」
繁信は、その問いに答えなかった。仙石氏は外様大名とはいえ、徳川方の大名だ。
「まあよい。して、今回のお役目は?」
「小十郎殿から、信州松代藩への文を届けるように仰せつかっております」
と書状の表書きを見せた。
「ふむ、それを見せてもらえるかの?」
「それはできませぬ。命をかけてお届けするのがわが役目。松代までは開けることはできませぬ」
「で、あろうな。それではわしと勝負せぬか。お主が勝てば放免。わしが勝てば、文の改めじゃ。わしも役目上、単に見逃すわけにはいかぬ」
「勝負でござるか? 木剣ならばお受けいたそう。真剣で人を斬るのはしたくない」
「ハハハ、お主のような若造が上田藩の講武所師範代の村上殿に勝つつもりか!」
と周りにいた武士があざけわらうように言った。
繁信は、木剣を与えられ、番所の前にて村上と立ち合った。周りは見物人であふれている。繁信は、1対1の常である中段の構えをとった。その構えを見て、村上は左足を前に出し、八相の構えにとった。攻めの構えだ。そこで、繁信は右足を下げて、守りの構えである脇構えに変えた。刀を後方に構えることで、相手は間をとりにくくなる。それで、村上は上段の構えに変えた。そして、じわじわと間合いを詰めてくる。脇構えでは対応が遅くなる可能性があるので、繁信は下段の構えに直した。わざと面をスキとすることで、相手の攻撃をしぼる作戦だ。
村上が、気合いとともに木剣を打ちおろしてきた。そこを繁信は見切り、紙一重でのけぞり、木剣を振りかぶり相手の頭に打ちおろした。しかし、そこは相手の想定範囲。木剣で避けられた。そして、お互いに中段の構えでにらみあった。
どのくらいの時間が過ぎただろうか。あまりの時間に、見物人がざわつき始めた。だが、二人とも先に動いた方が負けると思っていた。動いた瞬間に、スキが出ることを二人とも知っているのだ。おそらく動いた瞬間に腕をたたかれる。繁信はそう思っていた。
繁信は捨て身の技に出た。右手を離して、左手一本で相手の右頭をねらった。村上は前に出て腕をたたこうとしたが、繁信が片手半面で攻めてきたので、急いで木剣を立たせてその面を避けた。片手半面は振りが大きいので、避ける時間が取れたのだ。そして、その返し技で相手の左胴をねらった。繁信もそこは想定範囲内で。後ろへ飛び跳ねてそれを避けた。
見物人から拍手がわいた。また中段の構えでのにらみ合いとなった。
しばらくして、
「引き分けじゃな」
と見物人をかき分けて出てきた武士がいた。
「これは渡辺殿」
上田藩の面々は、ひざまずいて頭を下げた。
「わしは、上田藩家老、渡辺作左衛門である。お若いの、なかなかの腕じゃな」
繁信も片膝をついて礼をした。村上の家臣が、今までの事情を小声で渡辺に説明した。
「うむ、立ち合いは引き分けじゃ。片倉殿、どうぞ松代へ行かれよ」
「ありがたい」
と、繁信は木剣を返し、身なりを整えて旅立った。
渡辺は、村上に対し、
「危なかったな。まさに五分と五分。長引けば、年上のお主が不利となるところだった。あれは真田の血筋か?」
「そう思われます」
「ならば殿に言上せねばな。未だに、真田の旧家臣を幕府は探しておる。だれかに尾けさせよ」
「ハハッ」
その後、村上の家臣3名が繁信を追った。
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