43歳ー12
「はー、しんどー。アクト、ポーション持ってきてくれ」
「すぐいきまーす!」
ドデカワニを倒してすぐに、ニナさんとカイとジュンはその場にヘタれこんでしまった。僕は少し離れた場所に蓄えていた物資の中から、治療に必要なものを持って駆け回っている。
一人だけ無傷な僕が戦後の処理をする。これは、最初から決められていたことだ。雑用はファーマーの役割でもある。
数時間ほどの休憩で、3人とも歩けるくらいまで回復した。
「これからどうすんですか、ニナ先生」
カイがニナさんに尋ねる。
「さてね、どうしようか。ほんとに勝っちゃうんだもんねえ」
困ったような仕草をするが、その表情は嬉しそうだ。
「一回帰りますか? カイとジュンはそこそこ回復しましたし、道中、安全に帰ることくらいはできそうですが」
僕が提案する。今はとにかく、みんなに休んで欲しかった。ニナさんは少し考え込む。
「そうだな。とりあえず、カイとジュン。お前たちの仕事は終わりだ。先に拠点に帰っとけ」
「そんな! 俺たちだって先のことを知りたいです。のけ者にしないでくださいよ」
カイが文句を言う。ジュンも不服そうだ。
「悪かったな。あんた達は日を改めた方がいいって話だ。この先何が起こるかわからないから、少し先を見てくる」
「では、ニナさんも一緒に帰って、出直しましょうよ」
「いいや、アクト。そんな暇はない。あたしとアクトはこのまま先に進む」
「でも」
「今後、ダンジョンボスが復活しないなんて保証はどこにある? 今が最大のチャンスなんだ。死んでも情報を取りに行くよ。死なないあたしと逃げれるアクトがね」
僕とニナさんが進む。ドデカワニの居た場所の先には道が続いている。
「変わったところはないですね」
「だね。あてが外れたかな」
「この先になにかあるといいですけど」
ダンジョンの最奥には僕たちが求めていた秘密への手がかりがある。本当にそうだろうか?
謎の多いダンジョンだが、隈なく調べることによって謎を解き明かせる保証はどこにもない。
ボスモンスターもニナさんがそう呼んでるだけで、ただ大きくて場所を動かないだけの普通のモンスターなのかもしれない。
この道の先だって、ただの行き止まりの可能性もある。
そして、この先に何もなかったならば、きっとニナさんの心は折れてしまうだろう。燃え尽きて、転生をやめるかもしれない。
僕は少しでも成果を見つけようと、辺りをよく見渡しながら歩いた。
「これは? 指輪?」
茂みに埋まっていたそれを見つける事ができたのは幸運だった。
「へぇ。よく見つけたねそんな小さい指輪。什宝だろ、たぶん」
シルバーのリングに、正方形の青い宝石が埋まった指輪。宝石には、何やら薄く模様が描かれている。
「つけてみますね」
「ああ。ん? 待て! アクト! その模様は!」
指輪をはめ、宝石部分を撫でると、辺りが眩い光に包まれた。
地面が揺れる。立っているのがやっとだ。
「アクト! 無事か!」
「ええ、なんとか!」
ニナさんの声を聞きゆっくりと目を開けると、そこには見上げるような巨大な建物が、所狭しと並び立っていた。
「ここは一体?」
「わからない。困ったな。まいったまいった」
こんな状況でもニナさんは楽しそう。
「ここはどこですか? これはなんですか? 建物? 一体、何がどうなっているのやら」
「アクトの拾った指輪の模様、あたし、似たものを見たことがあるんだよ。それも何回も」
混乱したままだが、黙ってニナさんの話を聞くことにした。
「あたしは転生する時にこの世ならざる場所で、毎回、魔法陣のようなものを見るんだ。その指輪の模様はそれとそっくり。つまり」
ニナさんがニヤリと笑う。
「あたしたち、転生したか、あるいはそれに似たなにかが起こったんだろうね」
ニナさんは僕たちのいる場所を、ダンジョンの続きという意味で、「第二層」と名付けた。
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