不老らしいので気長にダンジョンを攻略します
熊野石鹸
第一章 追放と不老と転生と
17歳-1
村から追放されるのは、僕が一番役に立たないからである。
いわゆる、口減らし。村全体の総意であった。
生まれ育ったウド村には、村人が百人程度しか住んでいない。目立った特産品もなく、また農作物の育ちも悪い寒村で、毎年数人の餓死者がでている。国に納める税金もかなりの期間滞納していたらしい。
そういった状況を問題視した国の命令で、体の弱く生産性に貢献しにくい人間を村から追放することになった。そうして、僕に白羽の矢が立った。記念すべき追放一人目、農家の息子、アクトである。
僕は体が弱い。病弱、というほどでもないが、17歳という年齢の割に体の線が細く力が弱い。十代前半で成長が止まったようで、農業を手伝うにはいささか貧弱であった。
「アクト。本当にすまない。おれが悪いんだ」
「いいんだよ父さん。僕がみんなのように働けていないのは事実だし」
父親は僕の追放に責任を感じているようである。というのも、子供の多い僕の家族は、育児のためのお金がたりず、村に借金がある。そのため、村の中での立場が弱く、追放を拒否することができなかった。
少し子煩悩な父と、美人で寡黙な母、そして兄弟たちに囲まれて、出発を見送られる。
「少ないが持っていきなさい」
父は小銭を握らせた。手切れ金である。残念だが、ほんとうに少ない。
「近くに村はない。このまままっすぐ南に向かいなさい。数日歩けば大きな街道がある。運が良ければ旅人に拾ってもらえるかもしれない」
このお金はだれかに出会ったときの交渉の材料にしなさい、ということだ。
「うん。ありがとう」
何を言っても悲しみが増すだけだ。つらくとも、気持ちよくお別れしよう。僕は背を向けて歩き出した。
ウド村の南には、一本の小道が通っている。馬車一台がかろうじて通れる幅だ。時々村に来る行商人はこの道を通ってやってくる。飾り気のない土の道。
そんな道を、かれこれ二日ほど歩いている。持ち物は小銭と水筒、それに小柄な体に合わせて作られた、歯先だけ金属の軽いシャベルが一つ。
「おなかすいたなぁ」
道の両脇は森のため、本来は食料に困らないはずだった。しかし、力が弱く道具もないため、獣を狩ることもできず、また木を登って果実をとることもできない。植物をシャベルで堀り返し、根をかじって空腹をごまかしている。
「そろそろ街道についてもいいはずなんだけどな。僕は歩くのがおそいからなぁ」
つい寂しくて、独り言をしゃべってしまった。すると、声を聞いて驚いたのか、道のわきから一匹のウサギが飛び出した。
「ウサギ! 待て!」
ウサギならば、僕でも捕まえられるかもしれない。疲れた体に鞭を打って、森に逃げていくウサギを追いかける。
「待てってば! もう!」
ぜんぜん追いつけない。半ばやけくそで手に持ったシャベルを投げつけた。先端の金属がうまく当たれば、仕留められるかもしれない。
しかし、当然そんなうまくいくはずがない。シャベルは地面に落ち、ウサギは茂みへと逃げていった。
「はあ。まるでだめだ」
しゃがみこんでシャベルを拾い、杖にして立ち上がろうとする。すると地面から「カチン」と金属がぶつかる音がした。
「何の音だ?」
土の数センチ下に、金属製の板があった。シャベルで少しずつ辺りの砂を除けていく。だんだん全貌が見えてきた。
「扉、かなぁ? 地下室?」
四角形の金属の板に、木製の取っ手がついている。少し持ち上げ下を覗くと、地下へと続く階段となっていた。
そこで閃いた。おとぎ話で聞いたことある、地下ダンジョンに違いない! そして、金銀財宝がたっぷりあるはずだ! もしかしたら、食べ物もあるかもしれない!
気分はさながら伝説の冒険者だ。階段を一歩一歩確かめながら降りる。
一階ほど降りた先、正面に扉があった。耳を澄ますとかすかにだが物音が聞こえる。誰かいる。
ノックしてみるかと迷っていると、ふいに扉の奥の物音が近づいて、向こうから扉が開いた。
「なんだこのガキ」
そこには、全裸の女性が大剣を担いで立っていた。
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