第13話 シナプス外的人物

(13)


 ――かとうだんぞう


 どこか時代劇に出てきそうな名だと真帆は思った。

 それから考えを瞬時に巡らす。

(演劇科…?なら…)

 心中思う事と言葉が同時に出た。

「コバやんと一緒やん」

 言ってから相手の反応を見た。相手はそれに首を縦に振る。

「そうだね」

 簡単に答えた。

(…えっ、マジなん?)

 真帆は軽い驚きを覚えながら心の中で言う。

(後でコバやんに聞いてみよ、加藤ってやついるかどうか)

 息を真帆が大きく吸った。力を籠める。

「じゃ次!!」

 真帆が気合を入れた。

(さぁこい)

 此処は大事なところだ。

 なんせ、自分が独唱譜コイツを貰ったのは先程なのだ。それを何故、そんなに時間がかからないのに狐の白面――加藤が知っていたというのか?


 是非に聞いてやろうじゃないか。

 

 加藤――狐の白面が真帆に言う。

「何故、九名鎮がそいつを持ってるのを知っているか?だよね」

「そう」

 真帆が答える。

「だってさ、僕居たじゃない。音楽室に」

 聞いて真帆の頭が一瞬で白くなった。

「え…っ?」

「隣の音楽室に。知らなかった?」


(…マジ?)


 確かに音楽室は特別講義を受ける学生以外に数人が来ていた。

 鎌田はそうした学生達をそれぞれの音楽室に入れて夏休み指導をしていた。自分はその中の一つの音楽室に居た訳だが、しかしその時の記憶を探ってみても、誰も印象に残っている人物は居ない。


 真帆の少しまごつく表情に同情するような加藤の声が聞こえる。

「まぁさ、そんなもんだよ。人間の記憶何て。人ってさ、自分が認識している人が映像として入って来ると、理解をするんだけど、知らない人物が近くを通ってもその記憶を残さない。

 つまり脳細胞のシナプスが反応しないんだろうね。まぁ仕方ない。僕みたいな隅キャラはね」

 少し寂しそうな声に真帆は違う反応をする。


(――そうやない。他の学生が何人いても、この事は昨日職員会議で決まったことやから、漏れる筈なんてないじゃない)


 真帆は加藤の言葉を真っ向から否定してはっとして彼を見る。

(…と、なると過激な私のファン?もしかして…何か私の周辺に仕掛けて行動調べてるとか?盗撮アプリとかありそうやんか、だから夏休みとかに出て来て此処で待ち伏せしてたんちゃうの?)

 加藤に同情する訳では無いが…そういう意外ともいえる防衛反応が出るのが女子高生なのかもしれない。だがこれでより一層次の質問が真帆にとって大事になった。


 加藤が指を折る。

「次は『何で、僕がここに居るのか』だよね?」


 真帆は何故か自分の裸とか既に見られてるんちゃうかと言う過剰な反応心理になって、ごくりと喉の唾を飲みこんだ。






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