第6話 卒業式の伝統行事

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 何故あれ程、彼女が心を逸らせ身体を躍動させるのか。卒業式での校歌の独唱ソロと言うのが一体どんな意味を持つのか。

 それを知るには堀川学園の或る行事について語らなければならない。


 堀川学園の卒業式にはちょっとした戦後から続く伝統行事がある。


 卒業式で校歌を最後に卒業生全員で斉唱するのだが、その校歌の最後で音楽科から選ばれた一人の学生が独唱するのだ。


 独唱は校歌の一節なのだが、その校歌を歌えるのは卒業生を代表するという意味だけでなく、高校生活三年間に置いて音楽科で最も学業成績が優秀で、且つその将来を学校が期待している学生が選ばれる。


 ちなみに過去選ばれた学生は、卒業後、芸能界で活躍しているものが多い。

 卒業式にはアズマエンタープライズの役員幹部も来賓し、その中で独唱をするのだから出資元である同社の期待も受けており、卒業後はその個人の将来のあらゆる場面でバックアップを受けることが約束されていることを意味している。


 それは有る意味難関大学に入るのと同じぐらいに難しい選抜と言えるが、謂わばその幸運なくじを――彼女は見事引き当てたのだ。


 浮かれるなと言うのが難しい。

 現に独唱ソロ譜を鎌田から手渡された時、真帆は思わず

「ありがとう、カマガエル!!」

 と、思わず鎌田の前であだ名を言ってしまった。


 では校歌とは一体どういう歌詞だろう。

 それを真帆は普段は覚えている筈だが今は浮かれて頭が真っ白なので彼女の代わりに書いておく。




『堀川学園校歌』



 ♬


 古びた時が

 いずこに去ろうとも

 学びし時を

 忘れることなかれ


 君の声を聞き

 互いに手を取りて

 流れる東雲しののめを見た日々よ


 やがて別れる日が来ようとも

 われら共に在らん

 

 友よ

 我らはいつも

 

 ともにあらん(独唱ソロ


 ♬



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