第2話 九名鎮真帆
(2)
時折強い夏風が吹く校舎裏の林から、木々のざわつきと共に蝉の鳴く声が聞こえる。
――今は夏季休暇、
平たく分かり易く言えば夏休み。
その夏休みに部活動以外で学校に出てくる学生が居るとすれば…
音楽室の窓から三階校舎の渡り廊下を覗き見る女子学生の視線の先に背高の男子学生の姿が見え、その姿に彼女自身が立てた仮定と答えとは?
それは…
(私のように進学の為に夏期講習を受ける学生か、…赤点を出して補習を受けに来た学生しかいない)
思わず彼女に笑みがこぼれる。
その笑みがこぼれたまま覗き込む様に渡り廊下を歩く背高の学生を視線で追う。
見れば背高の学生は遠目に分かる程の毛量の多い縮れ毛を痒そうに搔きながら歩いている。
細身の体に頭部はボウと膨らんだアフロヘアの様なパーマ髪。その姿は遠目から見て正に一本の「マッチ棒」だ。
勿論、そのマッチ棒の彼の事を彼女は良く知っている。学科は違うが同じ部活をしている仲間だ。ちなみに今日は彼女と彼が所属する部活――「朗読倶楽部」は活動日ではない。
となればそれは…
(コバやん、赤点の補習やな)
口元を手で覆うと彼女の長い髪が肩から落ちて頬が揺れニヒヒと笑った。
マッチ棒の学生はまさか自身が遠くから誰かに笑われているとは露ほども思っていないだろう、何事も無いように渡り廊下のドアを開けると、やがて校舎の中へとするりと消えた。
そんな消えたマッチ棒の影を忍び踏む様に小声で満足げに笑う彼女。
そう、
彼女の名は
堀川学園音楽科に通う高校三年生である。
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