あおい鳥のさえずり
石衣くもん
五十音順の折句ツイート
折句なんてかっちょいい言い方してますが、あいうえお作文のことです!
『』はタイトル的なサムシングです。
🐦️
『結局目覚ましで起きたけど、作業効率は落ちた』
明るくなってきた空を、窓からカーテン越しに認めて、「もう朝だ、寝不足だ」と、こめかみが鈍い痛みで訴えてきた。
痛みは自覚するとひどくなって、思い切り顔をしかめる。
うかつに眠ると遅刻するし、かといって起きたままで眠らないなら、頭痛は治まらない。
選ぶのは自分自身で、起きれずに遅刻して迷惑をかけるのか、はたまた、眠らずに頭痛を抱えて作業効率を落とし、迷惑をかけるのか。
……おやすみなさい!
『プロポーズ』
彼は私のタイミングを崩すのが得意な人だった。
緊張と緩和というか、飴と鞭というか、なんというか。
崩されたペースを立て直す間もなく追撃がきて、私は防戦一方になってしまうのだ。
「結婚することになってるけど、いい?」なんてプロポーズの仕方、そしてそれを言うタイミング、皆目検討もつかなかった。
こんな風に振り回される日々を、これからも積み重ねて、いつか私が彼のタイミングを狂わせてやるのが密かな目標だ。
『悩みの重さを知るのは本人のみ』
さぞ、楽しいことが、大人になれば待っているのだと、信じて疑わなかった。
しかしながら、十を超え、二十歳を過ぎ、三十路を迎えたが、いまだ楽しいことに巡りあえずにいる。
好きなこと、嫌いなもの、得意なこと、苦手なもの、たくさん増えていく経験に、どうしても楽しいことやものが加算されることがない。
切実な悩みなのだが、家族や友人に相談すると「呑気な悩みだね」と笑われる。
そんなにおかしいことなのだろうか、楽しみがないことを悩むのは。
『いつも寝れないって言ってるなァ。くもん』
堪らなく不安になるのはいつも布団に入ってからだ。
ちっとも眠くならないし、どんどん悪い方向へ妄想が膨らんでゆく。
疲れているはずなのに、身体は休息を、睡眠を求めているはずなのに、頭の中は負のイメージで満ち満ちて、どんどん眠りから遠ざかってしまう始末。
テレビをつけたり消したり、お茶を飲んだりトイレに行ったり、無意味な行動で夜が更けてきた。
とにかく、明日は休みなんだから、昼まで眠ればいいと言い聞かせれば、何かに安心したのか瞼が重たくなってきて、白む空とともに就寝するのだった。
『責任逃れは生んでからはできない』
泣き叫ぶ甥っ子を抱き締めて、この世に生をうけて二年しか経っていないとは思えない力に驚いた。
「二歳は魔のイヤイヤ期やからねぇ」と深い溜め息を吐く妹は、いつの間にか妹ではなく母親の顔になっていた。
ぬいぐるみを愛でるような気持ちでしか甥に接しないのは、育てる責任のない者の特権ではあるが、それがひどく虚しく感じる時もある。
「姉ちゃんも、子供できたらわかるよ」なんて母親の顔の妹は笑ったが、あいにく私は身の程を弁えている。
飲み込んだ「私は命を育てる自信がないから」という言葉にあった刺のせいで、少し痛んだ気がしたけど、気付かないふりをして、「そうやね」と笑った。
『初恋偽装』
初恋を偽装したことはあるだろうか、私はあるのだが。
非凡でありたいと思っていた小学生時代の、所謂、黒歴史というやつなのだが、卒業アルバムに載せる作文に、初恋の相手について書いたのだった。
不埒な思惑通り、その作文は異質であり友達はこぞって私を問い詰めに来たし、それを思わせ振りな返答で煙に巻くのを楽しんでもいた。
返事をされる恐れもないのが、この作文の肝であり、初恋の相手はすでに転校済みであった。
保険の張り方も我ながら小賢しいと苦笑してしまうが、まあ、一応嘘ではなく、多少、大袈裟に書いているだけなので、初恋偽装は大目に見てやってほしい。
『ファミレスの順番待ちにて』
「松本さまぁ、松本さまいらっしゃいますかぁ?」と、声を張り上げる店員さんに、はっと顔をあげた。
名字が変わったところで、すぐに反応できなかったが、今呼ばれているのは自分だ。
昔から、名字で呼ばれることが多かったこともあり、まだ自分が松本であることを受け止めきれずにいる。
珍しい名前でもない、30年共にした「山本」から「松本」へ、漢字にしたら一文字しか変わらないのに、自分が大きく変わってしまったような。
戻りたいわけではないが、馴染まない、そんなムズムズした感情がおさまるくらい、これからたくさん私は「松本さん」と呼ばれるのだろう。
『いとヤバし』
「ヤバい」なんて言葉を使う人は、語彙力が死滅したとしか思えないと豪語していた日本語過激派な姉が、今まさに「ヤバい」を連呼している。
有名人がいるのかも、と思わせるほどの人だかりができていたので、嫌がる姉を引っ張っていったら、予想通り有名人がいたのだが、それが姉の推しだったらしい。
酔っ払ったみたいに顔を真っ赤にして、うわ言のように「ヤバい」を連呼する姉に、ヤバいのはアンタだよと思ったが、声に出したら面倒というか、大変というか、とにかくヤバいので控えておきました。
『ルンバルンバルンバ』
「楽にしてくださいね」と促され、座ったソファーにて、到着早々、さっそく押し倒された。
理性的な人だと思っていたわけではないが、「初デートで流石にがっつきすぎでは?」と覆い被さる彼の横っ腹を押してソファーから落としたところ、ティロリンと軽やかな音が鳴った。
ルンバの電源ボタンを落ちた拍子に押してしまったらしい。
冷酷なルンバは彼に突進し、そのまま何度かぶつかった後、進行方向を変えた。
廊下に出ていくルンバを見守り、心の中で「貞操を守ってくれてありがとう」とお礼を述べたのだった。
『私が顔を見て呼び掛けられる先生は、この学校で、田丸先生しかいないのに』
私は、顔や形を覚えるのが人よりほんの少し苦手な人間であった。
「を」とか、「ぬ」とか、なかなか練習しても書けなくて、先生にもよく怒られていたが、そんな私が一発で覚えたのが担任の田丸先生だ。
「ん? 真鍋か? なんだ?」と、私に名前を呼ばれて振り向く先生は、この凄さが全然わかっていない。
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