魔王様、如何お過ごしですか?

あかつきマリア

ターニング・ポイント


祈りは願いとなり、やがて呪いを経て枷と化す。



それは、きっと私の人生そのものだったんだろう。



獣に枷を、人に手綱を。



私は、枷を嵌められる側だ───



目を閉じていると、それに焼き付いた光景が鮮明に映し出される。



ある時、私の横で息巻いていた狙撃手の部隊長は、傭兵である私を罵る口を開いたまま、敵兵の放った魔術の炎に焼かれ私の横で灰となった。



彼は、人間は私を含め寿命が短く軟弱で、口々に女が戦場に居るのは度し難い、と口汚く語るエルフの男だった。



またある時、私を守ろうとした護衛の重装兵は、その分厚い鋼の鎧をタングステンの弾丸で貫かれ、私の腕の中で冷たくなっていった。



彼女は誰より真っ直ぐな眼差しで夢を語り、戦いのない世界を求め、争いなき平和を祈るドワーフの少女だった。



人は前者を笑い、後者を尊び、誰かが悪で、誰かが善だったのだと、無意識の内に線引きをする。



だが、それはまやかしだ。



善悪はそこにはない。



事実としての死がそこにあった、ただ、それだけ。



あれは渦。



誰かも分からない人々の無意識を飲み込んで、掻き混ぜて、情念あるものとして祈り、願い、呪い、そして、炎に溺れる獣達に枷を嵌めていく。



──その混沌を望み、炎の応酬に自ら飛び込んだのは他でもない私であり。



愚かな獣であり続けることを願った私自身を肯定するのは、結局、枷を嵌めた私自身だけだ。



きっと今、目の前に広がるこの光景も──



「──人とはなんと脆いものなのでしょう」



二人の男が、金色の髪を揺らす細身な少女の振るう凶刃に倒れる。



だというのに、私は見とれていた。



彼女が振るう刃の美しさと、その強さに。



仲間の命が散っていく、そんな事実も私には些細な事だった。



例え私が獣だとしても、何かを想う事くらいは許される筈だ。



「これで、残るは貴女だけ……」



──あぁ、その華麗さ。



私の焔で焦がしてしまいたい──



「貴女も、赤い薔薇の様に、優雅に散らせましょう」



なれば、彼女はもっと美しく──



「決めたわ、私


燃やすわ、貴女のこと──」



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