1-12. 『刀剣生成』、成長する。(後編)
「さて、今日も始めようか」
翌日、ケンの掛け声とともに今日の鍛練が始まる。
「はい!」
「はあい」
既にガーゴイルが魔力を帯びた細いロープで縛られており、アーレスとソゥラは昨日と同じような位置に立つ。
「ケンさん、すみません。ちょっと『刀剣生成』で考えてみたことがあるんです。昨日言われたこととは少し違うのですけど、それを試してみたくて」
アーレスは訓練を始める前にケンにそう提案した。
「いいね。早速試してみよう」
ケンはその提案に嬉しそうな顔をした。アーレスも嬉しくなって藍色の布越しに笑顔になったようだ。アーレスは10本のショートソードを空中に出現させるとその場で高速で回転させた。ドリルの回転のようにするものもあれば、切っ先が大きな円を描いて切るように動くものもあった。
もちろん、物は試しと言わんばかりに、ショートソードの腹つまり横面で回転するものもあって、これは刀剣としての殺傷力に欠けそうである。
「おーっ!」
ケンは思わず声を上げた。今まで『刀剣生成』の射出は直線的な動きだったので、回転の動きをイメージしていなかったためだ。しかも、その場で留まり続けるような動きも想定外だった。
「今朝気付いたらできていて。スキルアップなのだと思います。ナイフじゃ分かりにくいと思って、ショートソードで回してみました。行きます!」
アーレスはいくつかのショートソードを回転させたまま残し、残りは彼女の目の前のガーゴイルに向けて射出した。
「ギィーーーッ!」
いくつかはガーゴイルに当たるが、ガーゴイルが構わず固定していたショートソードに向かって弾くように振り払った。ショートソードは固定する力が強くないからか、ガーゴイルの攻撃で軽く弾き飛ばされ真っ白な壁に深々と突き刺さった。
「固定はダメかっ!」
「これはすごく面白い! 面白いことができる。回転軸が3つもあるのもいい。固定はまたスキルアップすれば固定する力が強くなるかもしれない!」
ケンは興奮気味に呟く。アーレスはいつもと違う彼に少し驚き、遠巻きに見ていたソゥラも珍しいものを見たと言わんばかりの表情だった。
「罠発動」
ガーゴイルが再び魔力を帯びた細いロープで身動きが取れなくなる。まだ危なげもなかったアーレスは不思議そうな顔でケンを見た。
「急に中断してすまない。そして、ありがとう。とても良いものを見せてもらって、僕としても新たな可能性を見つけた。これはテーマ変更だ」
「そう言ってもらえてとても嬉しいです」
アーレスは昨日以上の誉め言葉に素直に嬉しくなっていた。
「そこで、だ。次の刀剣類を見せるから、その後に出せるか試してみてほしい」
「はい。分かりました」
「ありがとう。ちょっと下がっていてほしい」
アーレスはケンの指示に従って、彼の後ろまで下がっていった。
「罠解除」
そのケンの言葉によってロープは霧散し、ガーゴイルは振りほどこうとした力そのままにケンの方向へ突っ込んでいく。
「罠発動」
ケンがそう呟くと、50を超える無数の投擲系の刀剣類が一瞬でガーゴイルの四方八方を取り囲むように出現した。そして、出現した武器は、ガーゴイルが気付いて防御態勢を取る隙も与えることなく一斉に向かっていく。
「ギ……」
ガーゴイルは声らしい声を上げることもできずに絶命した。ガーゴイルの翼や腕はみじん切りにでもされたかのようになって床にバラバラと落ちていく。さらに顔や身体は抉り取られたかのようになって、最終的にただの石の塊がゴロゴロと落ちているだけだった。
「っ!」
アーレスは絶句した。ケンは似たようなことを『刀剣生成』というスキルなしに『罠師』として発動させ、しかも、彼女より数段で済まないレベルの差を見せつけた。
「えっと、これは手裏剣というもので、いくつか種類があって、このように棒状のものもあれば、そちらに転がっているようないくつかの刃の突出部が出ているものもある。それと、こちらは戦輪と言って別名チャクラムとも言うんだけど……」
ケンはいくつかの投擲武器を並べて説明していく。アーレスは我に返って、彼の説明を一字一句忘れることのないように聞き入った。
「まあ、この中からいくつか投擲武器を追加できればいいと思う。あともう一つ付け加えると、最終的にアーレスはこれ以上のことができると思う」
「えっ……いえ、まったく想像できませんけど……」
「もちろん、『刀剣生成』のスキルに準じたものだけだけどね。僕は罠の1つとして出しているから、これのバリエーション違いも出せるよ。たとえば、全部鈍器とかね」
「いえ、武器の種類がどうとか、ではないのですが……」
アーレスは改めて、『罠師』のチートさを認識した。ケンの話し振りから、最初からこうでは決してなく鍛練や努力の賜物と理解している。
しかし、どれだけの鍛練や努力を積んだのか、まったく想像できなかった。
「まだまだだ……」
ただアーレスは少なくとも、彼女が今行っているこの鍛錬でさえ、まだまだ序の口かスタートラインにさえ立てていないのかもしれないと理解した。
「……がんばります!」
「その意気だよ」
アーレスは果てしない先を見ることは一旦止めて、今の立ち位置を確認し、次のステップに意識を移して、決意をし直した。ケンは力強く肯いた。
「ソゥラさん、次をお願いします!」
「ソゥラ、その奥の方で逃げているガーゴイルがいいな」
「人使いが荒いですね。報酬はあ、今度たあっぷりいただきますからね♪」
「……今度、町に着いたら考えよう」
「約束ですからあ♪」
ソゥラの武器がハルバードから急に変形して、しなやかな鞭のようになって、標的のガーゴイルまで伸びていく。鞭はガーゴイルの後ろ足を絡め取った。彼女はそれに気付いて、ガーゴイルをアーレスとケンの方へ放っていく。
「ただの長い柄の武器じゃなかったんですね」
「あれはソゥラ専用武器で決まった名前はないから、千変万化って僕が勝手に呼んでいる。ソゥラのお気に入りで長年付き添った得物だね」
「センペンバンカ、ですか?」
アーレスは聞き慣れない言葉を復唱し、ケンがそれに肯く。
「そう、千変万化。簡単に言うと武器と言われるものであれば、ソゥラの意識に合わせて最適化された形に変形するチートな武器だよ。普段はソゥラが好きなハルバードという種類の武器になっているだけかな。あと、今は紹介を省くけど、他にもチート性能がある」
アーレスは放られたガーゴイルの方を見ながら戦闘態勢に入りつつ、小さな溜め息を吐いた。
「皆さん、チートが多すぎるんですよ……」
「アーレスはこれからも敵味方問わず、いろいろと驚きの連続になるだろうね。僕だって魔王のチートスキルに何度驚かされたことか……」
「……早く慣れるようにします」
アーレスは徐々に男の姿に変わりつつ、ロングソードを構える。近接戦の訓練のようだが、さらに、周りに30個以上の高速回転しているチャクラムも出現させている。いざというときの保険なのだろう。
「もうチャクラムが出せるようになったのか。すごいな」
「これくらいはできないと!」
アーレスは次々とガーゴイルに向けてチャクラムを射出しながら、ロングソードでガーゴイルの両腕と切り結んでいく。
「うおおおおおおおおおおおおっ!」
「男の姿だと、ガーゴイル程度なら力負けしないってことか。チャクラムの射出も一斉じゃないから牽制力が格段に上がっているね。これは早々に化けるかもしれない」
ケンはアーレスという弟子の成長を楽しく見守っていた。
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