第8話 夕焼け空に思いを込めて
(とうとう飛行機は日本の地に降り立ちました。あの人がいる国に私はやって来てしまった。それが私の心にどれだけ影響を与えるか、あの人に対する思いの扉が今にも押し開きそうな勢いでした。そんな私の想いを上から抑え付けたのは…やはり)
セシリア!お前にはこの国にいる間、常時監視がついていると思いなさい!!クリス、頼んだぞ…
(父の怒声と、普段のシャルルにも見せた事のない表情を見た息子は、私に抱き付くと、涙声で語り掛けて来ました。その愛しい息子をあやすように、優しく髪と背中を撫でていました)
大丈夫よ…他国に来たからお父様、じぃじも…神経を尖らせているのよ…それとね…シャルル、ママと約束して欲しい事があるのだけど、いいかしら…?
(本当はこんな言葉を愛しい子に言いたくはない。でも、この国で万が一私の事を母と呼んで…それを誰かに聞かれでもしたら、お父様の後継者のお披露目どころではなくなってしまいます。だから、私は心を鬼にして…その際に一瞬脳裏に清二の姿がチラつきます。やめてッ…)
セシリア…もしも俺達の子が出来たとするじゃん…あくまでも夢の話しだよ…そしたら三人で幸せに暮らしたいね…しがらみのない自由な場所で…育って欲しい…か…な…
(私達の唯一の拠り所、図書館で彼と話した内容を思い出してしまいました。そしてこの言葉を息子に告げる事は…自らの心をさらに追い詰める行為につながる事と分かっていながら…私は…ローズ家の人形…誰かを愛してはいけないのだと…言い聞かせて…)
…お父様のお披露目が終わってお屋敷に帰るまで……ッ…私の事を…ママと呼んではいけませんよ…もしもシャルルがママとお外で呼ぶと…一緒にいられなくなってしまうの…またお屋敷に帰れば…ママと呼んでいいから…だから、私の事はお姉様と…そしてじぃじとばぁばを、お父様とお母様とお呼びなさい…
(何で私はこんな事を、自らのお腹を痛めてまで産んだ愛しい子に言わなければいけないのかと、自問自答し始めていました。この子が、私の最後の希望なのに…その子を傷つける様な言葉を言ってまで守る家名の誇りとは、一体何なのか?私にはわからなくなって来ていました。シャルルは涙を流しながら、静かに頷いてくれると、手を繫いで飛行機から降りて行きます。遠くにはカメラが私達の姿を撮っていました。あのカメラの向こうであの人が見ているかもしれないと思い…私は偽りの笑みでも、笑顔で歓迎してくれている皆様に手を振りました)
…来ましたよ……貴方…と…同じ空の元に…清二…
(決して誰にも聞こえない声で、私は夕焼け空を仰ぎ見ながら彼に語りかけました。そして隣にいる、愛しい息子の手を力強く握ります。すると、シャルルも私の想いに答えてくれたのか、小さな手で力強く私の手を握り返してくれました。そしてゆっくりと心の中で親子としての絆を確かめ合いながら、タラップを降りて行きます)
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