第2話 ゲボ

女神を名乗る全身黒タイツのオッサンが呆れたように言ってきた。


「君ってさぁ‥‥社会的にも物理的にも死んでるわけよね?」


「はい。」


「じゃあ、何で転生したくないって言うの?もしかして、思春期遅れて来るタイプ?それで、皆と真反対の事ががカッコいいって思うタイプ?」


「違います。」


犬の糞を踏み、転ぶことによって、脳震盪で死亡した俺は、真っ白で何とも言い難い空間に来ていた。


「オッス!オラ、フレイヤ!」と、女神(笑?)を名乗る全身黒タイツのオッサンがどうにか俺を異世界につれていこうとしているが、俺はそれを拒み続けてる。


「よし、分かった。オーディン辺りに特典たかってやるからさ、いい加減、転生したら?ホラ、人生やり直す感覚でさ。」


その言葉が鍵になって俺の中に溜まってる瘴気を言葉として零れさせた。


「........dす........」


「え?聞こえない。」


訂正、爆発した。


「人生なんてっっっもう嫌ですぅぅぅぅぅっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!!」


「そのー、ちょt「もう嫌ですっうんざりですっ誰ですかぁぁぁぁっ↑?!!!!!!努力は報われるとかぼさいたやつはぁぁぁぁぁぁぁぁ→っっっっっっっっっっっっっっっっ!!!!!!」


「一回、おちt「そもそも何なんですかぁぁぁああぁぁあっっっ↑?!!!!!!!!!『一緒に夢を叶えようぜ☆』とか言ってた癖にっっっっ、裏では陰口叩くしっ、女抱えて夜逃げするしっっ、オマケに借金なすり付けられるわで、まさかのトリプルコンボですぅううぅぅぅうっっっっっっっっっ。」


「いや、だかr「あの女は何ですかぁぁぁあぁぁっっっ?ぶつかってきたのはソッチなのに何で私が謝るんですかっっっ?可愛ければ良いんですか?胸あれば良いんですか?チクショぉぉおぉぉぉ、その通りですね?私の顔面なんて神様が暇潰しに作ったものですよ!スマホ弄りながら作ったものですよ!顔面至上主義者供めっっ、これで満足かぁぁっっ?ワイセツ罪の嫌疑?軽犯罪違反?知るかよっっっっっっっ?勝手にやってろよおおおぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉぉっっっっっっっっっっっっっ!」


溜まった瘴気が狼煙を上げる様に、次々と爆発した。でも、今はそれよりも‥…‥


「............あんまりじゃないですか.........誰が元カノにあんな姿見せたいと思いますか........こんなんだったらいっそ、石ころにしてくれたらよかったじゃないですか..........踏まれて蹴られて、あんまり変わらないじゃないですか............」


初めて好きになって、初めてキスをして、初めて支え合って、初めて体を重ねて、初めて心底から愛せた人に、未練しか残ってない人に、あんな目で見られた。


その事実だけで、俺が生まれてから感じた喜びの感情が帳消しにするほど、俺の心を抉り、グシャグシャにした。


「えーと、何かごめんね..........」


取り乱した俺。いや、涙声で発狂して叫び散らかす俺を見て、申し訳なさそうに女神を名(以下略)がこちらを見てくる。


「..........良いんです.........こちらこそ、ごめんなさい............」


28年間、溜めてきた内心を暴露した反動か、何故かとても疲れてきた。


もう、どうでもいいや。


転生したら、真っ先に首吊って○のう。


それが一番良い。


最適解だ。


「うーんとね?オラも君の事情は先程の騒ぎで多少は分かったつもりだ。けど、神としての役目は守らなきゃならない。」


転生特典は何が良いだろうか?


やっぱ、頑丈な縄かな、足掻いても簡単にほどけないやつ。


「だからといって、君をか弱い必滅者のまま、転生させるのは、オラの良心にくるモノがある。」


あとは、人里から離れた森に行けば、完遂できる。


いや、待てよ。


異世界なら、モンスターもいるってことじゃないかな?


ってことは、モンスターの群れとかに凸れば、ワザワザ森に行かなくても良くない?


「‥…‥ら‥を…‥指に…転生さ‥…‥い?」


女神を名(以下略)の声がうっすらにしか聞こえなくなってる。


考え事に集中しすぎたと思うから、一旦、話を聞こうと耳を傾けるも、耳が、聴覚がオカシイ。


そして、急に女神を名(以下略)の声が途絶えた瞬間、


見たこともない、味わったこともない、感じたこともない、


光が、輝きが、煌めきが、俺を優しく包み込んだ。


最後に見たフレイヤの顔は子供の様に笑っていた。気がした。

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