5-Ex4. 冗談は過度より適度で(2/2)
「んふふっ」
リゥパが不敵な笑みとともに先ほどよりもサラフェににじり寄っていくと、サラフェが苦笑いを顔にべったりと貼り付けながらベッドの端までめいっぱい後ずさる。
まだベッドから出て逃げ回るまでには至っていない。からかわれているだけかもしれないからだ。からかわれているだけで逃げ惑うのもなんだか悔しいという気持ちが心のどこかで起き上がっていた。
「リゥパさん、じょ、冗談ですよね?」
サラフェの声が若干震えている。
もし、からかわれているのではないとしたら、リゥパが本当にどちらも大丈夫なのだとしたら、そのような状況で自分はどう回避して逃げればいいのかと迷っている。
そのような思考を持っていること自体を真っ向から否定することは良くないことである。しかしながら、そういう思考を持ち合わせているわけでもないので応じることもできない。
彼女はそのような切り返しや話の持っていき方を考えているが、それでも傷つけてしまうのではないかと考えると何かしらの事が起こる直前まで考え抜かなければならないと思考がぐるぐると回っていた。
「女の子どうしも意外といいって聞いたことがあるわ」
「いや、それ、どこ情報ですか!?」
サラフェは思わずツッコんだ。彼女自身も予想外に出たツッコミだった。
ただ、そこで彼女はふと気付く。聞いたことがあるというリゥパの言葉、つまり、そのような経験は今までなく、伝聞によるものであると捉えられる。
しかし、彼女の目の前にいる相手はリゥパである。興味があれば何でも試したくなるようなエルフの姫君は、今までもムツキ相手に散々やらかしているため、メイリ同様に油断ができないのである。
「ん? 知り合いのエルフだけど?」
それはそうだろう、そうであってほしい、とサラフェは思うばかりである。リゥパの知り合いのエルフでなければ、この家にいる女の子の誰かから聞いた話の可能性が高い。つまり、図らずとも警戒してしまう相手が増えることになるからだ。
リゥパは先ほどから妖艶な笑みと色っぽい目つきを変えることなく、サラフェをじっと見つめている。
「ほら、エルフって一途で一生に一度しか結婚しないから、相手をよーく吟味する必要があるのね。でも、まあ、いろいろとあるから、そういうこともあるみたいよ?」
リゥパがベッドの上でにじり寄っていく。
サラフェはベッドから出ようとするが、即座にリゥパに手を掴まれてしまう。さらには、出入り口がリゥパ側にあるため、よほどの隙がないと彼女は逃げきることができない。
「先ほど、聞いたことあると言っていましたけど、り、リゥパさんは経験がないのですよね?」
「さぁ、どうかしら? 試せば分かるんじゃない?」
サラフェの背筋に悪寒が走ると同時に、焦りと恐怖から硬直気味なのかぎこちない動きになってうまく動けないでいた。
リゥパは舌なめずりをして、サラフェが動かないことをいいことに彼女を値踏みするかのようにじっくりと彼女の上から下まで見回す。
やがて、サラフェは手を引かれ、リゥパに押し倒される。相手が暴漢なら非情に徹して容易く排除できるが、相手がリゥパということもあって力加減などと余計な事を考えてしまい全く力が出せなくなる。
「んふっ」
「ひ、ひあっ! し、しません! しませんから! 近寄らないでください!」
リゥパはじっとサラフェを見つめる。
それから徐々にリゥパの顔がサラフェの顔へと近付いていく。
「いやっ! サラフェは、ムツキさんに! 初めてはムツキさんに! うううううっ……」
ついに、サラフェは頭がいっぱいいっぱいになって、普段は絶対に言わないようなことを呟きながら泣き出してしまう。
これにはリゥパも慌てて飛びずさり、彼女はやり過ぎちゃったと顔で伝えようとしているかのように戸惑いを見せた表情のままでサラフェを見ていた。
「ま、待って、ご、ごめんね、泣かないで! じょ、冗談よ、冗談だから! 私、そういうことしないから」
「ぐすっ……ぐすっ……冗談……冗談ですって? ううっ……うううううっ……うーっ!」
サラフェは地獄の底から声を出しているかのように唸りながらゆっくりと起き上がる。彼女からすれば、恐怖に叩き落とされ、泣かされてしまって、絶対に言わないようなことを呟いてしまったのだから、冗談の一言で到底許せるわけもなかった。
唯一の救いは、リゥパにしか見られていないということである。ムツキに聞かれてしまったら、彼女はあまりの衝撃に失神してしまっただろう。
「……リゥパさん、あなたは冗談の引き際を見誤りましたよ! そもそも、人を泣かして傷つけるようなことをしておいて、冗談で済むと思っていますか!? やっていいこととやって悪いこと、やりすぎたらダメなこともありますよね!?」
「そうよね……あの、ちょっと、調子に乗っちゃったかなって……本当はここまでするつもりじゃなかったんだけど、サラフェがかわいくて……」
「かわいい……? 許しません!」
リゥパは失言を重ねてしまった。サラフェがムツキに言われて嬉しかったと同時に不満でもあった「かわいい」を使ってしまったのだ。
「あ、そ、そうよねえ……でも、許してほしいなあって……」
「許しません!」
こうしてムツキが仲裁に入るまでサラフェの威嚇は止まることがなかったのだった。
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