5-Ex3. 冗談は過度より適度で(1/2)

 時は少しだけ遡り、ムツキが風呂に入っている頃のムツキの自室。


「あっ……二度寝をしてしまいました……。それよりもムツキさん、サラフェが起きていたことに気付いて、わざとあんなことを言っていたわけじゃないのですね……」


 ムツキが起きてリゥパやサラフェをかわいがったり起こさないように配慮したりしていたとき、実はサラフェが起きていたのである。


 彼女は彼よりも早く起きていて彼の寝顔をまじまじと見ていたのだが、彼が起きそうな声をあげたので咄嗟に目を瞑って眠ったふりをしてしまい、いつしかそのまま二度寝をしてしまっていた。


 今でも先ほどの彼のセリフを思い出してドキドキしている。


「うーっ……」


 もちろん、サラフェが狸寝入りしていた理由はそれだけではなく、起きていると知られたらムツキの着替えやトイレを手伝うことになりそうだと勘付いたためである。


 彼女は隣で誰かが彼と営んでいようと添い寝だけで済ます鋼の精神を持ち合わせているようだが、自ら彼に何かしてあげることに関してはいろいろと恥ずかしくてできないようだった。


 ところで、トイレの手伝いは彼女の勘違いであり、彼が女の子にそのようなお願いをしたことはない。手伝ったことがあるのはユウとナジュミネだけであり、それはあくまで妖精が周りにいなかったときで彼が女の子と2人きりの時だけである。


「それにしても……リゥパさんにはきれいで、サラフェにはかわいい……って、まるでサラフェを未成年の少女のように……サラフェだって、きれいって……」


「ふふっ……きれいって言われたかったの?」


 サラフェはまだリゥパが眠っていると思い込んで、ふと先ほど思った本音をぽろりとこぼしてしまった。だが、リゥパは既に起きており、しっかりとサラフェの本音をその長い耳でキャッチしていた。


「あっ! リ、リゥパさん、起きていたのですか!?」


「ふあっ……うん、本当に今さっきだけどね。わざとあんなことを、とかどうとかのあたりよ。ムッちゃんはもう起きちゃったの?」


 消えてしまいたい。サラフェは本音を聞かれてしまいリゥパに知られてしまったことで、自身の顔がカッと熱く赤くなっていることを感じた。


 一方のリゥパは寝たままでごろんごろんとベッドの上を寝返りながら周りを見渡し、ムツキがいないことを自分の目でも確かめてからサラフェに彼の所在を聞いてみる。


「ええ、だいぶ前だと思います。ムツキさんが起き上がってから、うっかりと二度寝をしてしまったので」


「ふーん。二度寝って気持ちいいものね。そういえば、着替えは手伝ったの?」


「……いえ」


 サラフェが着替えを手伝わなかった。


 その事実が確認できたことにより、リゥパはすぐにムツキがパンツ一丁で出ていったのだと理解する。何故なら、彼女が営んだ後にパンツだけを穿かせた張本人だからだ。彼の肌に触れて寝ることが彼女の何よりのお気に入りの寝方だった。


「そっか。私もサラフェも着替えを手伝っていないのなら、家の中とはいえ、自室以外でパンツ一丁だなんて、さすがムッちゃんね。それとも男だからかしら?」


「家の中で裸になって歩き回る人……いわゆる裸族は割といますよ」


 サラフェはとっさにムツキが特殊でないという風にかばったものの、自分でもどうしてそのようにかばったのか理解できていなかった。


 リゥパはその言葉に目を開いて驚く。


「え!? そうなの? 人族って結構大胆なのね。自室ならともかく、他の人もいるところで」


「人族という大きな括りで言われると違和感がありますけど……サラフェは裸族ではありませんし。というか、暑い時期なら結構いると思いますけど」


 サラフェはさらに、人族の多くが裸族であると思われないために、先ほどの「割といますよ」という発言と若干矛盾した否定をリゥパに返しつつも今の時期と関係のない暑いときのことまで言い始めていた。彼女は自分の発言の正しさを強めたかったのだろうが、最終的に自分でも何を言っているのか分からなくなっている。


 リゥパはその彼女の様子にムツキをかばっただけと悟り、それより先の言葉は大した意味がないとも悟った。


「ふふっ、そうね。ところで、サラフェはきれいって言われたいの?」


 サラフェは話を戻されてしまい、少し考え込む。


「……まあ、かわいいよりは? きれいの方が言われたら嬉しいというだけです」


 サラフェの言葉にリゥパがニヤニヤと笑みを隠しきれずにいた。サラフェがかわいいって言われたことを思い出しただけでとても嬉しそうにしていたことを知っているためだ。


「サラフェはかわいい系だものね。でも、ムッちゃんにきれいって言われる方法ならあるわよ?」


「そんな方法が!? ……あっ、いえ、別に知らなくても」


「じゃあ、教えない♪」


「……聞いてあげてもいいですよ」


 リゥパはサラフェの答えに応じて、耳打ちをするためにベッドの中でもぞもぞとにじり寄った。


「それはね、営んじゃえばいいのよ。愛されると女の子はかわいいからきれいになるのよ」


「な、なっ! いとな……っ! まだサラフェは、まだ、まだ、ムツキさんに肌を許す気はありません!」


 リゥパがふと何かを思い至ったようで、妖艶な笑みを浮かべ始める。


「えー、そうなの? じゃあ、ムッちゃん以外とならいいのかしら?」


「……へっ? ムツキさん以外?」


「そう、女の子どうしとか」


「……ええっ!?」


 サラフェは思いも寄らない言葉に硬直するしかなかった。

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