1-6. ただの幼女だと思っていたら女神様だった(2/3)
「モフモフは尊いから守らなければならない!」
「……そうだね」
ムツキの強い主張にユウは少し苦笑いである。
「ありがたいことニャ」
ムツキは転生して現世に現れてから、世界樹の樹海の守り人を買って出ることになった。すべてはモフモフのためである。いや、妖精の一種である森人(通称、エルフ)が色っぽかったのも、彼の頭を過ぎっていた。
健全な男性なら仕方ない。
「ムツキやこの樹海に構わなくても済むように、割と天候を操作して、豊作にしたんだけどなー」
ユウは最近の人族や魔人族の動きを見て、妖精たちやムツキのスローライフが極力脅かされないように神の施しを与えていた。
それでも満足せずに人族どうし、はたまた、人族と魔人族で領土を取り合う様は、尽きることのない欲望を持つ彼らにとって、神の施しなど一服の清涼剤程度にしかならないのかもしれない。
「まあ、諦めてくれるまで何度も追い返すしかないな。早くそうなるといいけど」
「……いっそのこと、世界征服しちゃえば?」
「いやいや」
「その方が楽じゃない?」
ユウがケタケタと笑いながらムツキに提案してみるが、彼はそれを明確に否定した。
「そういう柄じゃない。何かを痛めつけるとか、何かを滅ぼすとか、強さを見せつけるとかは好きじゃない。俺は安全にモフモフに囲まれながら人生を謳歌したいだけなんだ」
目の前にいた三毛の仔猫の顎を触ってゴロゴロと鳴かせながら力強く言い放った。いつ何時も動物とのスキンシップに勤しむ姿からは説得力しかない。
「ふーん。モフモフだけじゃなくて、ハーレムも築けばいいのに」
ユウが意地悪そうに笑いながらムツキにそう言うと、彼は少し空を仰いだ後に肯いた。
「……それは正直、魅力的だ」
健全な男性なら仕方ない。
「私だけじゃ物足りないでしょ? 英雄、色を好むって言うし」
「ユウだけでも十分だよ」
ユウの意地悪な質問に、ムツキは真っ直ぐに彼女を見つめて答える。彼女は一瞬ときめくが、再び意地悪な笑みをする。
「本当に? 絶対に目移りしない? 私に嘘をついてもいいのかなー?」
「ごめん。そこまでの自信はない……」
「ふふん。素直でよろしい。ムツキはかわいいなー」
ユウはムツキの素直な気持ちを彼の口から聞けて満面の笑みを浮かべる。
「大人の男に可愛いはよしてくれ」
「私にとって、ムツキはいつだって愛でる存在だからね」
ムツキは少しだけ気恥ずかしいといった顔になる。
「どニャたかが嫁ぎに来られても、オイラ達を傍に置いてくださいニャー」
ケットが慌てたように、ムツキの近くに寄って、小さな2本の前足で彼の膝を揺すりながら子どものように懇願した。
「……かわいい! 心配するな。みんなのような可愛い妖精と共同生活可能な奥さんだけ希望する!」
ムツキは強い意志を持って断言した。その鋼のような意志の強さに周りの妖精たちは歓喜の踊りを踊り始めた。いつだって、このログハウスの中は楽しそうな雰囲気に満ちている。
「あはは。奥さんがアレルギー持ちじゃないといいね。さて、と、ごちそうさまでした。もっとお話をしたいところだけど、もう部屋に戻るね」
ユウはそう言うと、椅子から降りた。
「ワン」
クーの代行として、セントバーナードがすかさずやってくる。
「まだ仕事か? 無理はしないようにな」
「それなら、後でストレス発散させてもらおうかな? 夜の運動でね」
「その姿のユウでは遠慮したい。どう見ても俺が犯罪者だ」
「あはっ」
ユウは手をひらひら動かしている。彼女はそんなことは気にするなとでも言いたげな仕草だが、彼は絵面がどうしても危ういと思ってしまう。
「ユウ様。歯磨きしてから戻ってくださいニャ」
ケットは犬に指示をした。指示を受けた犬は洗面所に向かって行く。
「はーい」
ユウは元気よく返事をした。セントバーナードはゆっくりと洗面所に向かう。
「さて、俺もそろそろ食べ終わるな。歯磨きして、モフしてから寝るとするか」
ユウが歯磨きをしてもらっている隣で、ムツキは嬉しそうにかなり丁寧に歯磨きをしていた。彼ができる自分のことには歯磨きも含まれていたからである。
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