ハジマリ-終焉-NEXT/後編

 通路を進み続け、やがて厳重にロックされた分厚い扉に辿り着くと、強化生命エネルギーを右脚に集中させ、渾身の前蹴りを叩き込む。その一撃はいとも簡単に扉をぶち破ると、その後ろに控えていた数名のエボルディング処置が施されていない武装隊員を巻き込みながら、キメラEVer.1stは宣言する。


「お前ら全員……皆殺しだ……ッ!!」


 そこから先は早かった。戦闘員・非戦闘員問わず、その手で、その足で、一切の慈悲もなく殺し続けた。まるで作業のように繰り返し続け、やがて最重要区画と思われる場所である研究室らしき場所にたどり着くと、一切の躊躇なく、羽根による範囲攻撃を行う。

 放たれた羽根により、抵抗するまもなく次々に研究員や、電子機器等を破壊していく。軽く見渡し、生き残った人間が居ないか確認すると、オオカミの嗅覚を持っている為に、遮蔽物で上手く隠れ、生き残った研究員を見付けると、一気に肉薄すると、目を見開きすぐさま命乞いを行った。


「た、助けてくれぇ! わ、私はただ命令されて──」


 言い訳は聞きたくない、とばかりに研究員の頭を掴むと、少し掲げる。拘束から逃れようと藻掻き、頭を掴むキメラEVer.1stの腕を掴んで振り払おうとするが、常人でしかない彼には不可能だった。

 そんな姿に、怒りが湧く。人間をエボルノイドにする改造手術を嬉々として行っていたというのに、何故自分は悪くないと言えるのかと。助けてくれと、死にたくないと、化け物になりたくないと、その叫びを無視して、行っていたというのに。

 そしてエボルノイドにした者達を皆洗脳し、忠実な兵士にして送り込んでいた。元は人間であり、最初は葛藤と苦悩に苛まれていたが、「せめて自分だけは怪人としてではなく、人として葬る」と覚悟を決め、戦い続けてきた。

 だからこそ、ザトアの全てが彼は憎かった。特に今こうやって掲げている、組織の命令を免罪符に、自分は悪くないと言うような輩が。

 頭を掴んだ手に力を込める。メキメキという音を立てながら、頭蓋骨にその五指がめり込んでいく。常人を遥かに凌ぐエボルノイドの握力は、万力とは比べものにはならない。声にならない悲鳴を上げるが、キメラEVer.1stは容赦はしない。


──ぐじゅり


 そんな生々しい音を立て、まるでザクロを握り潰した時のように顔面が弾け飛び、脳髄を撒き散らす。残った胴体は落下し、血を噴き出し続け、床に深い血溜まりを作り出す。


「……好き勝手に人を弄った奴が、命乞いをして受け入れられると思っているのか?」


 そう吐き捨てると、研究室を後にし、強力な気配を感じる場所へと歩みを続ける。一つ、また一つと歩みを進める度に、身体の震えが強まっていく。本能的な物なのか、これ以上進むなと告げているが、それを堪えて、進み続ける。

 やがて、なんのロックもかかっていない、何の変哲もない扉が現れると、より一層体の震えが強まる。まるでこの先に行くなと、死が待ち伏せていると言っているようだが、それでも彼は、進むことを選んだ。

 ドアノブを使って開ける事無く、蹴りを用いてぶち破る。特にそんな必要は無かったが、多少の威圧を込めて行うと、その先は辺り全体が黒く、薄暗い空間が広がっていた。

 そんな空間の最奥には、玉座の如き豪奢な意匠が施された椅子があり、そこには黒いローブを纏った存在が座っていた。そんな存在が、喜ぶように、あるいは嘲るように、その口を開いた。


「品が無いな」

「黙れ。人を勝手に改造手術しておいて、どの口が言う」

「ふふ、まあいい……しかし。ここまで来るとは、驚きだ。どうやってここが分かった?」

「灯台もと暗し、とはこの事だ。あの日、一番被害が出た場所はここ。自然とこの場所への意識は薄れる」

「鋭いな。探偵でもやれるんじゃないか?」

「それはこんな俺を……こんな身体になった俺を信じてくれた、に言ってくれ」


 クックック、と半ば機嫌良さげに喉を鳴らすと、それまでの飄々とした雰囲気を一転、触れるだけで死に至るような、凄まじい殺気を全身から放つ。

 これが、ザトアの総帥たるザ・ワンたる所以かと、思わず後退りしそうになるが、恐怖心を押し込め逆に一歩進む。ここで全てを、終わらせるんだと。


「御託はこれまでにして──見せようか、究極のエボルノイドの力を」


 ローブを脱ぎ捨てると、その姿が顕になる。

 それは、あまりに異質だった。異常だった。

 この星が生まれて間もない頃、この星を支配していた生物──即ち恐竜の遺伝子情報、それも三種も組み込まれた、エボルノイドを超えたエボルノイドと言うべき存在。究極のキメラ・エボルノイド。

 まず目に入るのは、その背に生えるあまりにも巨大な翼。だがそれは鳥類とは異なり、羽根ではなく、皮膚と同じ組織で出来た飛膜で出来たものであり、コウモリの物と似ている。それは、かつて生きていた空の支配者たる翼竜のもの。

 両手両足は鋭い鉤爪に加えて、鋭利なヒレを持っている。尚且つ脚は逆関節となっており、腕も常人と比べ、一回り大きくなっている。

 そしてその顔は、他のエボルノイドと異なり、人間の顔が露出していた。端正な顔付きで、男にも女にも見える美形だが、鱗で覆われており、瞳孔は針のように鋭くなっている。そして、頭を覆うように三種の恐竜の顔が兜のようになっていた。


「スピノサウルス、モササウルス、そしてケツァルコアトルス。かつて、この地球を支配していた恐竜の遺伝子情報の中でも、陸海空それぞれの支配者クラスの物を組み込んだのさ。今まで生み出してきたキメラ・エボルノイドのデータによって完成した、全てのキメラ・エボルノイドの完全上位互換。名乗るのであれば──キメラ・エボルノイド、Ver.Ancient……略して、キメラ・エボルノイドVer.Aだ」

「……マジかよ……」


 僅かながら顔を引き攣らせるが、すぐさま意識を切り替える。ここで怖気付いている暇は無い、今ここで全てを終わらせると、自らを奮起させる。

 両手を胸の前に持っていき、向かい合わせに構えると、温存していた強化生命エネルギーを、両腕に集中させる。集中させた強化生命エネルギーが、両腕に紫色のスパークとなって走り、それが両手の間に収束・圧縮され、球状のエネルギーとして形を成していく。


「ほぉう、それが数々の同胞を討ち滅ぼしてきた、貴様の技か。実際に目にすると、違うな」

「余裕ぶってるのも、今のうちだ!!」


 貯めが必要なこの〝技〟は、強化生命エネルギーを圧縮・集中を行っている今、隙だらけだというのに、キメラEVer.Aは手を出さない。寧ろ撃ってこいとばかりの余裕さに、キメラEVer.1stは苛立ちを隠せない。

 ならば、受けてみろと。その余裕さを崩してやるとばかりに、更に強化生命エネルギーを込めていく。

 やがて充分なだけ圧縮・収束が出来ると、バスケットボールサイズとなった強化生命エネルギーの真紅の塊を、一度身体を右に捻って勢いを付けて放つ。その技名と共に!!


「〝クローズ……ブリンガァァァァアーーーッ〟!!」


 命中すればエボルノイドを屠れるだけの力を持ち、その生命を終わらせる。故に、『クローズ終わり』を『ブリンガーもたらす者』とつけ、この技で数え切れない程の数々のエボルノイドを殺してきた。クローズブリンガーは技名であり、同時にエボルノイドを殺す自分自身であると。

 放たれたエネルギー弾が、キメラEVer.1stへと迫る。殺せなくても相当なダメージを与えられると確信していたが、そんな淡い期待は意図も簡単に打ち砕かれる。

 キメラEVer.Aは右手を前に出すと、そこに強化生命エネルギーを集中させる。キメラEVer.1stと同じようにスパークが起き、強化生命エネルギーが圧縮・収束され、野球ボールサイズの塊となる。キメラEVer.1stよりも小さいが、込められた量は同等で、圧縮・収束にかかる時間ははるかに短い。

 先に放たれたものに対して当たるように放つと、それらがぶつかり合い、拮抗することなく爆ぜると、発生した衝撃波が双方を襲う。キメラEVer.1stの方は両腕を交差させ、踏ん張る事で衝撃に耐えたが、キメラEVer.Aは余裕で耐えきっており、まるでそよ風を受けたような涼しい顔をしている。


「これでいいのか? クローズブリンガーとやらは」

「まさか、ここまで……!!」


 強化生命エネルギーの生成・保有、どちらの量もはるかに上。同じエボルノイドと言えど、はるかに格が違う事に、苦しげな表情を浮かべるが、それでも諦めるという選択肢は彼には無い。

 なら接近戦だと、強化生命エネルギーを両脚と右腕に集中させる。赤いオーラのような輝きが両脚と右腕を包んだ直後、一瞬でキメラEVer.Aに肉薄し、渾身の一撃を胸へと叩き込む。波のエボルノイドであれば、その一撃で胸を貫かれ、為す術なく爆発四散は免れないだろう。

 しかし、現実はそうはならなかった。叩き込まれたその一撃に、キメラEVer.Aは動じることなく、身体に一切傷をつくことは無かった。


「な、に……?」

「こんなものか? つまらんなぁ……いいか、殴るというのは、こうするんだ」


 直後、キメラEVer.1stの身体は吹き飛んでいた。何度も地面をバウンドしながら転がっていき、やがて入口付近の壁に叩きつけられる。

 一体何をされたか、一体何をしたのか。それを理解することが出来なかった。オオカミ、シャチ、ワシという狩りに特化した動物の遺伝子が組み込まれ、強化された動体視力を持ってしても、自分の身に何が起きたのかが。


「ゴフォッ……ゲホッ……ゲホッ……!!」


 動けなくほどでは無いが、それでも血反吐を吐き、多大なダメージを受けている。なんとか痛みに耐え、立ち上がろうとしているキメラVer.1stの姿に、嘲笑を浮かべ、心底期待外れとばかりに言葉を紡ぐ。


「つまらんなぁ、一発殴っただけでこれとは」


 殴った、そう言ったのか。それも、ただ一発だけ。同じ一発殴っただけだと言うのに、あまりにも、差が開きすぎていた。

 ふと、キメラEVer.Aが口にした言葉を思い出すと、確かに「殴るいうのは、こうするんだ」と口にした。しかし、予備動作が全く見えず、捉えられなかった。

 性能差は歴然。パワーもスピードも遥かに上であり、挑むこと自体が敗北とも言える。

 だがそれでも、彼は折れなかった。諦めなかった。立ち上がる事を、選んだ。


「ハァ……ハァ……まだ、だ……ッ!!」

「その意気だ。さあ、かかってこい」


 何度も、何度も。殴っては殴り返され、蹴っては蹴り返されを、繰り返し続ける。最初に受け止めた際に、避ける事も、防ぐ事もするまでも無いと判断したのか、ノーガードで受け止め続け、それ以上の拳を叩き込まれて地面を転がり続けた。

 だがその度に立ち上がり続け、何度も何度も拳を振るい続けた。自分を下に見ている今がチャンスとばかりに、ノーガードのキメラEVer.Aへと。

 何度目になるか、床を転げ回り、立ち上がるのに時間を要するようになる。右手は粉々に砕け散り握る事は出来ず、足ももう一度蹴れば立つことすらままならなくなるだろう。そんなキメラEVer.1stの姿に、キメラEVer.Aは深い高め息をつく。大した策もなく、真正面から突っ込んでくるばかりの戦い方に、飽き飽きしたとばかりに。


「飽いた。それにこれ以上は無駄、無意味だ。これまでたった一人で戦い続け、遂にここまで来た事は賞賛しよう。故に、最後のチャンスをやろう。……我々に、服従せよ」

「こと、わる……ッ!!」

「なら死ぬがいい。これ以上ない位残酷で、無惨に!!」


 ここで初めて、キメラEVer.Aは攻撃の為に動いた。翼を広げた直後には、キメラEVer.1stに肉薄し、右手でその首を持って掲げる。


「さぁ、どう殺してやろうか。このまま首を捩じ切るのも悪くないが、それでは味気ない……」


 左手を顎に置き、どうしようかと思案する。ここまで来た礼に、出来るだけ苦しませて殺してこそ意味があると、どんな殺し方がいいか思案を続ける。

 だが、殺し方を考えてもらう必要は無いと、キメラEVer.1stは行動を移す。自分がこうなってからずっと考えていた、最終手段にしていた切り札を、ここで切る為に。


「あい、にくと……! 俺は……〝人〟として、死なせてもらう……ッ!!」


 キメラEVer.Aの右腕に自分の右腕を絡ませ、離せないようにすると、キメラEVer.1stは自身の胸を左手で突き貫き、見せつけるように己の心臓を引き出す。脈動する心臓に繋がった血管が生々しく、そして紫色の強化生命エネルギーの光を放っているため、どこかエネルギー炉心のように見える。

 自殺行為に等しい行動に、キメラEVer.Aは目を見開く。キメラEVer.1stの狙いに気付き、今まで余裕だったはずが一転、焦りが見えた。


「貴様、まさか!! 強化生命エネルギーを、自らの意思で暴走させて……!!」

「これで名実共に、ザトアのエボルノイドは……全滅だッ!! 現代に蘇ったクソトカゲ風情は、この光でもう一度滅びやがれ!!!」


 心臓をポンプのように握っては緩めを繰り返しつつ、強化生命エネルギーを血液に乗せて無理やり循環させる。過剰なまで循環する生命エネルギーに肉体が耐えきれず、貫いた胸を中心に身体へヒビが入っていくと、強化生命エネルギー特有の紫色の光が盛れ出していく。

 過剰なまでの強化生命エネルギーを全身に供給され、キメラEVer.1stの肉体が崩壊所か融解を初め、爆発へのカウントダウンが始まっていくが、それを見過ごすキメラEVer.Aではない。振りほどく為、左腕で執拗に顔面を殴り続ける。意識さえ、奪えば爆発することは無いという判断の元であり、顔の形が変形し、抉れ皮膚の下にある筋肉と骨が見えるほどまでとなっている。

 耐え切れる痛みではなく、ショック死してもおかしくは無いだろう。だが、これで全てが終わらせられる、この一押しで全てが終わるのであれば、痛みは無いとばかりに、心臓を握る手を強める。


(あぁ……願う、事なら……)


 最期の最期に思う事、願う事は一つ。

 そう、たった一つの事だった。それは、


(また……推しの……ライブに……行きたかったなぁ……)


 推しのライブに行く事。ただそれだけだった。

 そっと目を閉じ、瞳の奥に最推しの姿を思い浮かべる。それだけで、恐れも不安もない。

 表情の変わらないエボルノイドではあるが、穏やかな笑みを浮かべた彼は、心臓を握り潰した瞬間、世界が紫の閃光で包まれた──


 










 キメラEVer.1stの、文字通り全てを持ってして放たれた切り札にして、その命の最期輝き。それは、デス・グラウンド奥深くに秘匿されたザトアの本拠地の大半を破壊どころか蒸発させ、機能不可能なまで崩壊させた。地上へ被害が出なかったのは、地下深くだった事が不幸中の幸いと言える。

 とはいえ、地上になんの影響も無かった訳ではなく、少し大きめの地震となって地上を襲っていたが、特に被害もあった訳でも無く、後に軽い報道程度だけ行われた。しかし、余震が無かったことに関して疑問視され、研究者が調査を行ったが、デス・グラウンドの地下で爆発が起こったという考えに至る事はなく、センサーの故障で検知出来なかったと処理されることになるが、それはまた別の話。

 生物・無機物問わず、巻き込まれれば蒸発は必至の光の中心。そこに最後まで残っていたのは──キメラEVer.Aだった。


「ク、ハ……ハハハハ……ハーッハッハッハッ!! いくら通常のエボルノイドを超える力を持つキメラ・エボルノイドとはいえ、所詮は初期ロット! 最新にして最高傑作たる私には叶わない!! 無駄死にだったなぁッ!!」


 笑う。嗤う。哂う。呵う。

 無駄死にをしたキメラEVer.1stが、滑稽で仕方がないとばかりに。

 最大の障害足りうるキメラEVer.1stは自滅し、残りはと。ザトアの勝利を確信し、歓喜が彼の心を包み込んでいる。

 とはいえ、彼とて無傷では無い。全身は焼け焦げ、左翼は消し飛び、顔の半分も焼けただれていた。しかし、まだ致命傷とは言えず、ここから少し離れたザトアの支部で、傷を癒せばいいと考えつつも、最大限の賞賛をキメラEVer.1stへ送る。


「裏切らなければ長生き出来たものを。実に、愚かな男だ」


 だがそれまで、すぐに死んだ者の事を忘れ、多大な被害を受けたザトアをどう立て直すか考えながら、傷を癒す為に支部へと足を向けようとした時だった。彼が、異変に気付いたのは。


「な、んだ……? 身体……が……動か、ない……?」


 その場から、一歩も動けなかった。足を動かそうにも指一本ピクリとも動かせず、手もまた同様。辛うじて動かせるのは、目線と口だけ。

 身体が動けなく成程の傷を負った訳では無いはずというのに、何故動かない。一体どうしたんだと、何度か思考を巡らせた時、気付いた。自分の身に何が起きたのか、何をされたのか。


「ま、さか……!?」


 キメラEVer.AはキメラEVer.1stとのスペック差が開き過ぎているが故に、舐めてかかりノーガードで攻撃を受け続けた。そう、

 同じ箇所に何度も何度も、繰り返し攻撃を行い続けた結果、ほんの僅かであっても傷は入り続けた。そして雨垂れ石を穿つということわざがあるように、その命を持って繰り出された最後の一撃をもって、その堅牢な肉体を砕かれた。

 肉体に深刻なダメージを受けた事により、キメラEVer.Aの強化生命エネルギーは循環が安定しなくなり、暴走を始める。身体中に亀裂が走っていき、そこから紫の光が漏れ出していく。


「そん、な……わ、たし……が……あん、な……あんな奴、如きにぃぃぃぃぃぃい!!!!」


 それがキメラEVer.Aの、ザ・ワンの、ザトアの総帥の最後の言葉にして、断末魔。キメラEVer.1stへの恨み節を叫びながら、肉体は完全に崩壊し、行き場の失った強化生命エネルギーが紫色に輝き、爆発が起きる──はずだったが、キメラEVer.Aの身体が紫の光に包まれ、紫の粒子となって霧散した。まるで、何も無かったかのように。

 幸か不幸か、大気中に残存したキメラEVer.1stの強化生命エネルギーがキメラEVer.Aの強化生命エネルギーを中和し、先程以上の爆発が起きることはなかった。偶然か、或いはキメラEVer.1stの「お前だけは一緒に連れていく」という強い覚悟故か、真相は分からない。

 だが確かなのは、総帥が死んだということ。その情報はすぐに巡り、一気に瓦解。ザトアはドラグファイターズの手によりすぐさま壊滅し、その事が報じられると世界は歓喜に包まれ、ようやくこの世に平穏が訪れる。










 

 ──だが、世界は知らない。人で無くなっても、〝心〟だけは失わなかった彼が、全てを終わらせたという事を。

 キメラEVer.1stの目撃情報も無くなり、あくまで、人類の敵である怪人の内一体が、消えたという認識でしか無かった。

 一度たりとも、人を傷つけることはなかったキメラEドVer.1stは──「庵石秀太あんいししょうた」が戦い続けたという真実は、だけしか知らない。

 けれど確かに。確かに彼が、世界を救ったのだった──











 眩い光が空から降り注ぎ、心地よい風が吹き、数匹の子鳥の可愛らしい鳴き声。片田舎や、キャンプやサバイバルといった、文明の利器から離れた生活していれば当たり前だが、そうでは無い人間からすれば、静かで心地の良い目覚め方。

 そんな自然の目覚まし時計によって、一人の青年が、森の中で目を覚ます。ぼんやりとした頭で身体を起こすと、辺りを見渡し、ただ一言口にした。


「……ここ、は……?」


 かくして、一つの物語が終わる。

 けれどそれは、同時に始まりでもあった。

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怪人に改造された男の異世界転生記 森野明郎 @Cazumin

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