クラスのSNS裏垢で俺が……あれ? コレってアイツだよな?
武 頼庵(藤谷 K介)
クラスのSNS裏垢で俺が……あれ? コレってアイツだよな?
高校生ともなると、持ち物の中には既に必需品といってもいい程、持っているのが当たり前となってきたケータイ電話やスマホ。
冴えない地味な俺でも持っているのだが、それは友達関係が多いから――というわけではなく、父親が機械メーカーの工場長で、母親が看護師という帰り時間も家にいる時間も不確定な両親が、俺への連絡ツールとして与えてくれたモノだ。
実際に俺、
今も知っている電話番号は両親と一人だけいる妹、そして小中と仲良くしていた友達数人だけ。
元々目立つことが好きではない俺は、学校の行事というモノが有っても張り切る事もないし、出来れば何事もなく過ごしたいと片隅でじっとしている事の方が多い。
そんな俺だから、友達と言える人も少ないままで高校生になったわけだけど、進学先の高校では更に知っている人がほとんどいないから、校庭や校舎へと続く道端の桜が散り始めているのにもかかわらず、未だに教室の中ではボッチ生活を爆進している。
「なぁ、昨日のアレ見たか?」
「見た!! しかし……」
「しぃー!! 聞こえちまうだろ?」
「?」
今も教室の中では授業間の休みになると、それぞれがそれぞれに仲良くなった人たちとグループを組んで仲良く話をしている。
――なんだ? 俺の方を見ていたような……。
近くにいた男子数人の話し声が聞こえてきて、フッと視線を向けると、その人達は慌てたように視線を逸らす。しかしその表情までは隠せなかったようで、にやにやとしたままだ。
そんな事が有った数日後。
「ちょっと琴野!!」
「え?」
俺の席の真横まで来て、少し怒り気味な声で俺に声を掛けて来た女子一人。
「あぁ……御影さん。何か用かな?」
「あなたまだ家族構成表とか提出してないでしょ?」
「あ……うん。ごめん」
「まったく!! いい加減にしてよね!!」
なんて言いながらも席から離れていくのが
まぁ確かに提出物を出してなかったり、ノートの提出や宿題などをしてこない俺も悪いのだけど、成績が良くて今のクラスでもクラス委員長をしており、人当たりも良くて誰とでも仲が良い御影さんからすると、俺は髪もぼさぼさで眼鏡を変えている事もあって見た目も地味だし、特技があるわけでも運動能力に見るところがあるわけでもないから、話しかけたり仲良くするメリットは無いのかもしれない。
――いや、間違いなくないだろ。
誰にも聞こえない様に一人ため息をついた。
そんな事が続くと、とある現象が起こって来る。それが知らない間に決まるクラスカーストという恐ろしいものだ。きっかけなんてほんの些細な事。でもそれがいつしか噂になってクラスの中へと広まり、いつの間にか形成されてしまっているモノだ。
一度底辺扱いされてしまったら、どんなことが有っても上には行けない。逆に目立つことをしてしまったらそれが次の『イジリ』に繋がるという悪循環が生まれる。
何故そんな話をするのかって? 俺は気付いてしまったから――。
ゴールデンウイーク近くになって気怠い感じのままで学校へと登校し、教室の中へと入っていくと、途端に静まり返る教室内。
それまでは賑やかな声が教室に近づくたびに聞こえていたのに、俺が入った途端にひそひそと話す小さな声に変わる。それが始まりだった気がする。
決定的になったのは、太陽の位置が高く感じられるようになった夏休みが近くなったころ。
通っている学校では年に2回レクリエーション大会が行われる。種目別になっていて、必ず1人1種目に出なければいけないし、その他にもクラス対抗方式になっているので全員で参加する種目もある。その1回目の大会が行われた後の事。
その大会は平日の1週間という時間帯に行われた。そして1年生としては上位に入る事が出来たのでクラス中で盛り上がっていたのだが――。
土曜日曜の休日が過ぎ、いつも運動などする訳のない俺が、疲れと筋肉痛で重い体を引きずる様に学校へと向かい教室に入って、自分の席へと座る。すると聞こえてくるクラスメイトの声。
「ねぇ楽しかったねぇ!!」
「そうだな!! またやりたいよな!!」
「今度の打ち上げはカラオケにもいかない?」
「「「「「いいねぇ~!!」」」」」
――打ち上げ? 何の話だ?
顔を伏せながらも、聞こえてくる話に耳を傾ける。
「やっぱりさぁ、活躍しなかった奴がいないと楽しいよな!!」
「そうだね。いなくても一緒だし!!」
「そんなこと言っちゃかわいそうだろ?」
「思ってないこと言うなよ!!」
「あ、ばれた?」
「「「「「きゃははははは」」」」」
大きな笑い声と共にそんな声が聞こえてくる。
「あ、委員長ぉ~!!」
「なに?」
「どうして来なかったの? 楽しかったよ
「そう……。その日は用事があってどうしても行けなかったの。ごめんね」
「えぇ~……仕方ないなぁ。今度は一緒に行こうね!!」
「うん。本当に
「何それぇ~。あはははは……」
どうやらその打ち上げというモノには御影さんは参加しなかったようだが、声を聴く限り御影さんはちょっと嫌そうな感じで話をしているようにも聞こえる。
――そっか……仲が良い人達でしたんだな。さすが陽キャの皆さんだ。
俺は聞こえていた話をシャットアウトし、ホームルームが始まるまでの時間を睡眠の時間へと変更した。そのまま机に突っ伏したまま時間を過ごしていく。
「お兄ちゃん!!」
「あん?」
放課後になって真っすぐに家路につき、自分の家へとたどり着いてドアを開けると、帰ってきたことが分かった妹の
「こら蛍、廊下は走っちゃだめだぞ!! 狭いんだから」
「そんな事は良いからこっち来て!!」
「な、なんだよ!!」
2歳歳下の妹がツインテールにしている髪を姉させながら、俺の事を居間の中へと引っ張っていく。慌てて靴を脱ぎ散らかしながらも、妹のされるがままに俺も今の中へと入って行った。
「これ!!」
「なんだよ……うん?」
今に入ってソファーへと座ると、隣りにボスン!! と大きな音を立てながら座る蛍。そして俺の前へとスマホをグイっと見せつけて来た。
俺と同様に蛍にもスマホを持たせるようにしたのは、俺も高校生になったという事もあるが、それと同時に蛍と学校が違ってしまって連絡手段を取ることが不便になったからでもある。
そういういきさつがあって今年から俺と同じように妹にもスマホを持たせるようにしたのだが、蛍は直ぐにスマホの扱いにも慣れて今では毎日の様に友達などとSNSを使って楽しく過ごしているようだ。
「見て!!」
「ちょ、近い近い!! それじゃ見えないだろ!?」
「早く見て!!」
「なんだよ……」
押しつけられるように渡された蛍のスマホ。そしてその表示された画面に視線を移した。
「な、なんだこれ……」
「これってお兄ちゃんの事じゃない?」
「いやでも……」
その画面に映っていた物とは――。
『やっぱあの眼鏡がいないと楽しいよな!!』
『地味なやつは学校に来なくていいのになぁ』
『そんなこと言っちゃダメ!!』
『いやいや邪魔でしょ? 暗そうだしさぁ』
『つか、居るのか分かんないときあるしw』
そんな事が結構長く続いている。どれもが誰の発言か分からない様にアカウント名は変わっているようだが、一番最初まで行くとそれが俺以外の皆だという事が分った。
『〇〇高校〇〇クラスアカウント』という名と共に、発起人と思われる人が発言をしていたから。
『いらない人は招待してないから好きに発言して』と。
「これってお兄ちゃんのクラスの事じゃない?」
「まぁ……そうだな」
「それにここ……」
俺の手に合ったスマホを取り、スッと操作していく蛍。
「ほら……お兄ちゃん土日はウチにいたよね?」
「あぁ……」
「これって知ってる?」
「いや……知らない」
「やっぱり……」
そう言いながら「はぁ~」と大きなため息を吐く蛍。
『この週末にレク大会の打ち上げしまぁ~す!! 集合は〇〇に〇〇時!!』
『あ、もちろん眼鏡には言ってないからその所よろしくな!!』
――なるほどな……俺はハブられてるのか……。俺何かしたかな?
内容を読んでいけばいくほど、俺の事が書かれていると分かる内容が書き込みされている。初めは軽い愚痴の様に書き込まれていたものが、最近の物だと既に悪口となっている。自分の知らないところでヘイトを集めていたことを知ってショックを受けた。
しかしよくみてみると、最初の頃は数人が俺をフォローしてくれていたのが読み取れる。最近は皆と同じように言い始めているか、リアクションしないままになってしまったようだが、そんな中で最後まで俺の事をかばってくれている人が一人だけいた。
『そんなこと無い!! 彼は優しいよ!!』
『話してみればわかるよ!!』
『どうしてみんなそんな風に言うの?』
『え? どうしてかばうようなこと言うのかって? それは……』
「あれ? このミカンの人なんだか違うね……」
「え? うん……そうだな……」
俺と同じ事を思ったのか、俺と一緒に画面を覗きながらそんな事を言ってくる。そしてそのまままた画面をスクロールしていくのだが――。
「この人……お兄ちゃんの事詳しくない?」
「うぅ~ん……」
――確かに詳しいな……。
俺もその人が書きこんでいるモノを読んで、そんな感想を持った。
その人が書き込みしているのは、俺は小さい頃にこんなことをしたとか、あんなことを言ったとか、そしていままでいろいろと学校の中でもしてきた事がかかれている。
――詳しいというか……ここまで来るとちょっと怖いな……。
そんなことをふと思った瞬間に見えた書き込みに、視線が止まる。
『れーはそんな人じゃない!!』
――れー? まさか……アイツか!?
俺の事を詳しく知っていて、俺の事を『れー』と呼ぶ人物。そんなの今は一人しかいない。
そんな思いを抱えたまま、俺は次の日も学校へと向かう。
「ちょっといいか?」
「え?」
「いいからちょっと来てくれ」
「あ、ちょ!! ちょっと!!」
教室には既にクラスメイトが大勢いたのだけど、朝の早い時間から早めに来ている事を知っている俺は、その人物の元へと向かい返事を聞く前に教室から連れ出した。
そのまま誰もいない屋上へと二人で向かう。ドアを開けて誰もいない屋上へと進み、そのまま連れて来た人の方へと振りむいた。
「これ……お前だろ?」
「え? それ……気づいちゃったの?」
差し出したスマホの画面に表示されているモノを見てから、俺の事を見上げる。
「御影さん……いや、夏美だよな?」
「うん……」
「どうして?」
「どうして……か」
御影――いや夏美はそうつぶやくと静かに話し始めた。初めて裏垢と呼ばれるものに招待されたところから、今までの事を。
「告白された?」
「うん……」
なんと夏美は高校入学式の1週間後に、この裏垢発起人から告白されたのだという。
「でも断ったのよ」
「? どうして?」
「だって……」
俺の事をジッと見つめる夏美。
「私はずっとれーが好きだったから……」
「え? でも……嫌ってるんじゃ……」
「ううん。素直になれなかったし、れーの前に行くと緊張しちゃう様になっちゃって……」
「え? いや……え?……マジで?」
「うん……」
なんと彼に告白を断った時にその事を話してしまい、それが元で彼が裏垢なる物を使って俺の事を陥れようとしている事に気が付いた夏美が、それをどうにかする為にあれこれしていたことを話してくれた。
「……ありがとう」
「え?」
「味方でいてくれてありがとう……夏美」
「あ!?」
気づかないうちに俺は夏美を抱きしめていた。
「それで、へ、返事……は?」
「俺で良いのか?」
「もちろん!!」
夏美はとろけそうな笑顔を俺に向けたまま大きな声で返事をした。
その後?
「どうしてわかったの?」
「ん? だってあのアイコン……夏ミカンだろ?」
「…………」
「俺が子供の頃に好きだった夏ミカン。だから夏美は夏ミカンからミカンって呼んでたし」
「覚えてたんだ……」
「もちろん!!」
そして夫婦となった今でも――。
屋上での告白、その時泣いている夏美の隣で苦笑いしたままの二人だけで撮った写真。今は家族となった俺たちのスマホに大事に保存されている。
※後書き※
この作品は企画に提出した作品で、文字数制限があるため、書かなければいけないところなどを大幅にカットしています。
その辺りが要因で、お話しの内容がちょっと分かりづらくなってしまっているのが残念です……。
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