第壹章 新しい朝 8P

料理をしているうちに自分がどれだけ変わったのかを忘れていたランディはいきなりの尋問にかなり面を食らった。それでも気を取り直し、「なっ、何を言っているんですかレザンさん。俺、俺です! ランディですよ。少し身だしなみを整えみたんですけど、そんなに変わりました?」と慌てた様子で弁解する。当たり前の話だがレザンは簡単に信じることはなかった。




「―― それを信じろと?」




「万事休すだ……」




依然としてレザンが警戒しつつ、睨みつけたまま。ランディはお手上げだった。




しかし、よく見るとランディの髪の色やイヤリングは同じ。レザンも上から下へ眺めているうちに一致するものを見つけ、理解した。




「本当に君はラ、ランディか?」




「ほっ、本当ですって! なっ、何で笑っているんですか……可笑しくないすよね、俺」




半笑いのレザンと反応にしょげ始めるランディ。




「駄目だ。もう堪えられない……ふふっ、はははっ!」




大笑いをするレザンの前で呆気に取られるランディは目を真ん丸くして茫然とするしかない。




「すっ、済まない、あんまりにも君がふふっ、変わり過ぎて全く分からなかった。朝から……こんなことが起きるとは思わなくてな、本当に済まない」




軽く、五分くらい笑い続けたレザンが涙を拭きながらランディに謝る。謝りには反省の色がない。そして何故か、レザンは何故か懐かしものを見る顔をしていた。




方や、ランディは臍を曲げ、卵を焼き始める。




「そういじけてくれるな。此方も最初は本当に驚いたんだ」




反省した様子のレザンが椅子に座りながらランディの背中に声を掛ける。




「……君が朝食を作ってくれたのか、ありがたい。人が作った物を食べるのは久しぶりだ」




レザンが話を変えようと話題をランディの作った朝食に向ける。ランディはまだむすっとしていて卵を皿へと移し、テーブルに置く。料理は殆ど出来て後はパンと飲み物を用意するだけ。レザンも食器などを用意し、準備が整った。二人共、食前の挨拶と感謝のお祈りを簡単に済ませ、食べ始める。単純な料理だが上手に出来ていた。




「美味いな、王都では自炊をしていたのか?」




「はい。それに料理は親にきちんと叩き込まれたので得意です」




料理を褒められ、機嫌を直すランディ。実に単純な若者だ。暫く、料理に集中する二人。




「ランディ、そう言えば今日は何か予定はあるのか?」




少し空腹が落ち着いたレザンが卵をつつきながら突然ランディに質問をした。




「いえ、何もこれといって目的もなく此処に来てしまったので何かやりたいと言うことは……」




ランディは目線を上に持って行きながら悩む。




「そうだ! まずはこの町を色々、見たいのですけど、どうでしょうか?」




「私もそれを勧めようと思っていた。今日は一日中、晴れているから散策するには丁度良い」




レザンが一旦、言葉を途切らせる。




「ただ、私が案内してやりたかったが店や君のことを町長に相談することもあって忙しい」




「いえ、ご迷惑を御掛けしたくないので一人で大丈夫です!」




「それは駄目だ、この町は意外と迷い易い。家の近くだけを回るなら別段、問題ないけれども慣れていないと本当に迷子になる」




「そうですか。じゃあ、どうしよう――」




「何か良い案は……そうだ。あの子なら大丈夫だろう」




レザンは何か閃いたような顔をした。




「レザンさん何か、良い案ありますか?」




直ぐに食いつくランディ。




「フルールを誘えば良い。あの子は今日一日休みで、暇だろうから喜んで引き受けてくれると思うのだがどうだろう?」




「彼女の迷惑にはならないですか?」




「多分、大丈夫だ。それに断られたら帰ってくれば良い。だが、私が思うにあの子も物好きだから断ることはない筈だ」




「物好きって―――― 分かりました。まずは誘ってみます」




何故か自信満々のレザンと逆に不安げなランディ。これで今日の予定も決まった。朝食の後、レザンは店の開店準備。ランディは後片付けをした後、フルールの家へ行くまで二階で荷物を整理することにした。部屋について始めに取り掛かったのはザックの中身を広げ、壊れ物の確認だった。中身は余った携帯食料(乾パンなど)と水、替えの服がもう一式、金が入れる為の袋、此処ら一帯の簡単な地図、読み掛けの本、固形燃料(泥炭)、布袋が二つ。




「思えば遺書なんて物、書けなかったな……」




今更、考えても遅いことをポツリと呟きながらザックに穴がないことを見た後、一つずつ確認してザックの中へ綺麗に仕舞う。次は腰に着けていたトポーチ。ポーチは幾多の困難を一緒に乗り越えた必需品が入っている、大切な物だった。シースナイフ、火打石、コンパス、応急キット、香辛料や調味料を入れた小瓶が幾つか、後は財布。まずはナイフの刃を確認し始める。




使い込んでいるが研いでいるので切れ味は良い。ナイフは今回の旅で一番、世話になった道具だ。野良犬や狼に襲われた時、これがあってランディは助かった。使った後は毎回、必ず手入れをしていたので問題はない筈だ。刃を様々な角度から見た後、鞘に戻す。他の物も問題もないので先ほどポーチから出した石鹸と剃刀を共に仕舞い、先ほど出た洗濯物は洗うので畳んで部屋の端に置く。




「ふぅ。一先ず全部、確認出来た」




それなりに時間が経ったが昼頃にフルールの家へ行くつもりなのでまだ少しだけ時間がある。




「本を読もうかな、それとも洗濯しようか」




悩んだ末に洗濯をしようと下に降りると丁度、玄関の方で呼び鈴が鳴る。




「済まない、ランディ出てくれ!」




店の方から、レザンがそう大きな声がする。どうやら手が離せないのだろう。




「分かりました!」




ランディが知らない人物の訪問だとしても応対しないことにはレザンの失礼に当たる。緊張しながらもランディは裏口の方へと向かった。だがランディの緊張は杞憂で扉を開けるといたのはフルールだった。

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