第97話 臨時取締役会
その直後だった。
突然どこからか現れたアニエスさんが一直線にアウロラへと向かっていく。
俺ですら目で追えないスピードだ。
シュバッ! という鋭い音ともに、アニエスさんが短剣を振るい、アウロラの首を狙う。
アウロラは四枚の翼を軽く羽ばたかせると、たった一度の羽ばたきで瞬時に十数メートル移動してアニエスさんの攻撃をよけた。
「
[ゲンザイのシュウエキ:14オク5238マン4200エン]
「セット、5億円!」
人類の存亡がかかった闘いだ、どんどん行くぞ!
俺は5億円分の注射を自分の腕にぶっ刺す。
プランジャーを押し込み、パワーを注入する。
っていうか人間がこんなん注入して大丈夫なのか?
心臓がドクン、と大きく鼓動する。
かぁっと全身が熱くなった。
うおおおお!
これが5億円のマネーインジェクションか!
脳みそが沸騰する、まさに血液まで沸き立っているようだ、今のおれならなんでもできそうだ。
「地の底の底、燃えさかるマグマ、すべてを焦がし溶かす灼熱の溶岩! 燃えろ、俺の魂! 俺の力を、心の力を、魂の力を、血液を、筋肉を、すべてを燃料に変え爆ぜろ! 火砕流となって敵を滅しろ!」
この一撃で終わらせてやる!
そう思って魔法の詠唱をはじめたのだが。
アウロラも俺と同時に俺と同じ文言を口にした。
「地の底の底、燃えさかるマグマ、すべてを焦がし溶かす灼熱の溶岩! 燃えろ、俺の魂! 俺の力を、心の力を、魂の力を、血液を、筋肉を、すべてを燃料に変え爆ぜろ! 火砕流となって敵を滅しろ!」
魔法の詠唱は音となって初めてその効力を発生させる。
音の波が空気を震わせることによって音は音となるのだ。
逆位相って知っているだろうか。
波形は同じだが位相がまったく反対の波のこと。逆位相の波同士を重ね合わせると、重ね合わせの原理により、波は消える。
そして、音は波なのだ。
アウロラは俺の唱えた詠唱に合わせて逆位相の声をだし、それを打ち消した。
俺の詠唱は音にはならず、音にはならなかったので魔法の効力も発生しない。
……くそ、なんてことしやがる。
ならば、直接叩き斬ってやるだけだ!
刀を振るってアウロラに突進する――と見せかけて、そのままいったん右側に大きく飛び、床を蹴ってアウロラの後方に回る。
同時にアニエスさんが短剣をきらめかせてアウロラに襲い掛かった。
アウロラの虹のような瞳が突っ込んでくるアニエスさんを捕らえる。
バシュッ! と鋭い音、瞳から青いレーザービームのような光を放つアウロラ、アニエスさんはとんでもないスピードでそれをよける、そこにローラがパァン! という音速を超える音とともに飛び蹴りを放つ、アウロラは頬っぺたを膨らませて「ふっ」と息を吹きかけるとローラの身体が吹っ飛んで転がった。
「おらぁぁぁぁぁっ!」
そのアウロラの背中に向かって俺が刀で突っ込む。
上段から一気にアウロラの翼を一枚切り落とした、と思ったらアウロラの翼の羽から覗く無数の目が俺を一斉ににらみつけ――そこから多数の赤いビームが照射されて俺の身体を貫きそうになり――だがその直前に俺は名刀ヤスツナでそのビームをかたっぱしから叩き落した。
「雷鳴よとどろけ! いかづちの力を解放せよ! サンダー! サンダー! サンダー!」
みっしーが後方から稲妻の杖の魔法を連発する。
多量の稲光がアウロラの身体を包み込む。
じりっと焼けた羽が床に落ちた。
そこに
アウロラの感情を感じさせない冷たい瞳が
と、突然、アウロラの右手に長く光る槍が出現した。
その先は二股に分かれ、鈍い音とともに振動している。
次の瞬間、アウロラは一直線に
「させるか!」
俺はアウロラを追いかけるように床を蹴る。
くそがっ、しかし間に合わん!
「フロシキエンチャント! 硬化!!」
ギィンッ!
という金属音とともにはじかれた。
しかし、
俺はヤスツナでアウロラに斬りかかる。
アウロラはパッと俺に向き直ると、槍でそれを受け止める、バチッ! と電気がほとばしるような音と衝撃。
〈すげえ、速さがすごすぎて見えん〉
〈っていうかあの槍……〉
〈伝説に言うロンギヌスの槍そっくりだ〉
〈お兄ちゃんがんばれ〉
〈アニエスもローラもみんな頑張れ〉
〈頼む、頼む、勝ってくれ〉
〈シャリちゃん!〉
〈何気に人類存亡がかかった闘いなんだけどこれ〉
〈gaagleがついに臨時取締役会を開いたそうだ〉
〈あほか、遅すぎるわgaagle〉
〈取締役会が終わるころにはこの戦いも終わってるぞ、人類滅亡の戦犯じゃね〉
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