第79話 3パック58円
「うん、そうなんだけどほかに手を思いつかない。まずアニエスさんが石化から戻るのをまとう。そしてアニエスさんとローラにマネーインジェクションする。で、天井を見てくれ」
ダンジョンの天井の高さは5~6メートルといったところか?
ごつごつとした岩がむき出しの天井だ。
ここに来るまでにアニエスさんとローラの身体能力はさんざん見せつけられた。
「アニエスさんとローラなら、あの天井をつたって向こう岸に渡れるんじゃないか?」
「そうだね、アニエスちゃんならマネーインジェクションなしでも余裕。私もマネーインジェクションしてもらえばあの岩をつかんで向こうまでは渡れるとは思う」
俺たちのいる場所からどのくらいだろう、300メートルくらいか、そのくらい先に見える陸地に、二人から先にわたってもらう。
そしてマネーインジェクションを打ったスライムにゴムボート化してもらう。それにのって俺と
さすがに
そこは世界最強パーティのアニエスさんとローラだからこそできることだ。
なにしろアニエスさんは壁だろうが天井だろうが走り抜けてしまうし、ローラも音速を越えて移動できるしな。
感覚麻痺してるけど、この二人はまじで世界トップクラスなんだよな。
スライムボートがどれだけの強度と浮力があるかわからんけど、乗員は少ないほどいいはずだしな。
「いちおう、武器は持っていこうかな」
そういってローラさんが足元に転がっている石ころを拾って風呂敷に包んでいる。
「私もアニエスちゃんも遠距離魔法攻撃使えないからね。こんなもんでも武器にはなるよ」
なるほどねー。
そうだ、一応残高見ておこうかな。
「残高オープン! Gaagle adsense!」
[ゲンザイノシュウエキ 84,125,300エン]
うおお、八千四百万円!?
いつのまにこんなたまっていたんだ?
〈今全世界で話題になってるからな〉
〈逆に八千万円が少なく見える〉
〈gaagleに手数料持っていかれてるからな〉
〈もう世界トップレベルの有名人なんだぞお前ら〉
〈POLIVE公式があげてる動画の視聴数も軽く数千万回だし〉
〈SSS級モンスターを二体も倒して探索中にSSS級探索者に認められるとか、世界的に見ても稀だよな〉
〈シャリちゃんかわいいし〉
〈みっしーも美少女っぷりがすごいよな〉
〈お兄ちゃんがうらやましいわ〉
〈なにより耳の形がいいよね〉
実際、スパチャの額も日に日に増えてきているような気はする。
もはや数百万円のマネーインジェクションなんてなんの緊張もなく打てるようになってる。
この調子でいけば、一日数千万円がコンスタントに収益で入ってくるようになりそうだ。
……金銭感覚がおかしくなってるな。
これ、地上に帰れたとして3パック58円の納豆生活に戻れるんだろうか。
毎日牛丼食べちゃったりするような贅沢生活にならないようにしないとな。
〈シャリちゃんにはもっといいもの食べさせたげて〉
〈牛丼が贅沢なのか、悲しい〉
〈シャリちゃんの手料理が食べたい〉
★
さて、作戦開始だ。
石化から戻ったアニエスさんに三百万円分のマネーインジェクション。
ローラやほかのパーティメンバーにもあらかじめインジェクションしておく。
アニエスさんは、
「石化しているあいだに作戦、聞いた。私、向こうで待ってる」
と言ったかと思うと、冗談みたいなスピードで天井をさかさまになって走り抜け、あっというまに向こう側にたどりついた。
ローラも天井の岩のでっぱりを手でひっつかみながら、軽く湖を越えていく。
「よし、じゃあライム、こっちこい」
ぴょこぴょことやってきたオレンジスライムのライムに、マネーインジェクションをする。
とはいってもあくまでモンスター相手だ、あんまり大きな額をマネーインジェクションすると不測の事態がおこりかねない。
「セット、十万円!」
まあこのくらいならいいだろう。
オレンジ色の粘液でできた身体に注射針をさし込む。
痛みがあるのかないのか、ライムはちょっとプルプルッと震えた。
ぐいっと中身をプランジャーで押し込む。
注射針を引き抜くと、ライムはその場でぽよーんと飛び跳ねた。
そして、地面に着地すると同時に畳二畳分くらいの広さに広がり、空気を体内に入れて膨らむ。
うん、完璧に見た目ゴムボートだな。
そのスライムボートに俺たちは乗り込んだ。
「すごーい!! ウォータベッドみたい!」
ちょっとテンション高めにみっしーが言った。
俺はウォーターベッドなんてものに寝たことがないからなあ。ふーん、ウォーターベッドってこんな感じか。
俺たちは風呂敷を畳んでオール状にして硬化させたもので、湖に漕ぎ出した。
うん、大人三人、十分に支えられるだけの浮力があるな。
マネーインジェクションしているとはいえ、ライムもなかなかやるじゃないか。
たかだか300メートル、なんとかモンスターの襲撃を受けずに渡り切りたいものだが。
俺たちは周囲を警戒して湖面を進む。
だけど、予想に反してまずモンスターに襲われたのは、湖水に浮かぶ俺たちではなく、そのようすを見ていた陸地のローラたちだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます